4. タンパク質合成系って面白いの?

投稿日: 2017/09/26 4:23:00

(170926Takai)

やっと,コムギ由来タンパク質合成系を再構成して何が面白いのか,という話を始めます.

問題点としては,なぜタンパク質合成系なのか,なぜ(試験管内)再構成なのか,なぜコムギなのか,を説明する必要があると思います.

とりあえず,なぜ,タンパク質合成系なのか,について述べます.

細胞は,いろいろな分子でできています.主な物質としては,糖類,脂質,タンパク質,核酸が有名ですね.もちろん,水はたくさんありますし,カリウムイオンやマグネシウムイオンもあります.ですが,細胞内外の生体反応を触媒しているのは,基本的にはタンパク質です.

細胞内のイオンの濃度を調節しているのは細胞膜上のタンパク質ですね.糖類を貯蔵したり分解したりするための化学反応を触媒するのもタンパク質です.脂質だって,タンパク質でできた酵素が合成したり分解したりします.核酸の構成成分であるヌクレオチドやタンパク質を構成するアミノ酸だって,それを合成したり分解したりするのはタンパク質の酵素です.さらには,細胞の中でいろいろな情報を扱っているのだってタンパク質です.DNAの複製やRNAへの転写を触媒しているのも,基本的にはタンパク質です.

そういう,細胞内外で機能するさまざまなタンパク質を合成する分子の集まりがタンパク質合成系です.

そして,そのタンパク質合成系は,半分くらいタンパク質でできていて,半分くらいRNAでできています.RNAはDNAからの転写反応と転写後修飾によって合成されますが,その反応を触媒するのはほとんどタンパク質で,ほんの一部RNAです.タンパク質の中には,タンパク質が機能するコンフォメーションに折り畳まれる反応を触媒するタンパク質もあります.

基本的には,タンパク質合成系を適切な環境下に置いて,適切な遺伝情報を与えてあげれば,タンパク質合成系を合成できるはずです.適切な環境というのがどういう環境なのははまだ解っていませんが,少なくとも,細胞の中では,タンパク質合成系がタンパク質合成系の合成を触媒しています.

試験管内再構成のターゲットをなぜタンパク質合成系にするのか,と,もし聞かれたら,僕の第一の答えは,それ自身の合成を触媒する系だから,です.残念ながらそういう質問を受けたことはないのですが...

もっとも,本当は,タンパク質合成系を愛しているからかもしれません.ここで「愛」について語っても仕方がないのですが...愛しているというのは,たぶん,自分にとってそれしかないものだと信じている,ということだと思います...

もう一つの答えは,タンパク質合成系があまりにも複雑で,こんなに複雑な分子システムが自然に生じたことが不思議だからです.

そして,タンパク質合成系には,地球上の多様な生物がこれまで進化してきた不思議さと直接関係するいろいろな側面があります.