3. 試験管内再構成とは

投稿日: 2017/09/08 10:17:27

(170908Takai)

研究の方向として,コムギの再構成無細胞タンパク質合成系を作りたい,とか,コムギのタンパク質合成系を試験管内再構成したい,とか,このwebsiteのいろいろなところに書かれているかもしれません.「無細胞」は,cell-freeだということは既に述べました.「試験管内」というのは,in vitroなのですが,これは,文字通りならガラスの中でという意味です.in vitroという言葉は,生化学では,in vivoという言葉と対です.in vivoは生体内でという意味です.注目している生化学反応が,生体内でのものなのか,生体から取り出した試験管の中でのものなのか,区別する場合に使う用語です.

当たり前ですが,試験管内に細胞がいて,細胞の中で進行している反応に関しては,試験管内とは言いません.試験管内,in vitroというのは,細胞から切り離された環境で生体反応を進行させる実験のことを言います.

他に,ex vivoという言葉もありますが,これは,動物などから細胞を取り出してきて,その細胞に何か処置をして,もとの生物に戻す実験のことです.

「再構成」は,英語では,reconstitutionです.似た言葉に,reconstructionとかrebuild(ing)とかがありますが,生化学での再構成については,reconstitutionといいます.

再構成というのは,生化学反応に関わっている複数の因子をいったんそれぞれ単離精製して,それらを合わせてその生化学反応を再現することです.生化学は,本質的に,生き物から分子を取り出して調べることによってその分子の生き物の中での働きを推定する学問です.取り出すというのは,結局,単離精製することです.その分子の構造や機能を調べます.一つ一つの分子の機能から着目している生化学反応過程を推定する,というのが生化学のやり方なのですが,推定するためには試験管の中で着目している化学反応を再現する必要があります.例えば,酵素一種だけで触媒される反応なら,それを試験管内で再現する実験は普通にやられているはずですが,多くの生化学過程は複数の酵素その他の分子から成り立っています.それらを集めて,試験管の中で反応全体を再現するのが,試験管内再構成実験です.ここまでできれば,その生化学過程を理解したことになります.場合によっては,一応反応は進むけれども生体内よりも効率が低いとか,反応の選択性が低いとか,完全には再現できないことだってあるはずです.その場合は,再構成実験によって,どこが理解できていないのかが明確になります.一方,試験管内で細胞内/生体内と同じ状況を作るのは非常に困難ですので,ほとんどの場合,生体内と全くおなじになることは期待できません.

再構成実験としては,試験管内の実験ではなく,細胞の中に再構成する実験もありえます.例えば,酵母に幾つもの遺伝子を導入して,酵母の細胞の中で,もともと酵母が持っていない反応過程を再現するような実験については,いろいろな事例があると思います.単に「再構成」というと,試験管内なのか,生体内なのか,わかりませんので,普通の生化学実験の場合は「試験管内再構成」と言ってはっきり区別します.

細胞の中でタンパク質合成系を再構成するのは,ホストの細胞のタンパク質合成系と干渉してしまいますので,絶対無理です.ですので,再構成無細胞タンパク質合成実験は試験管内実験としてしかできないと思われます.ですので,わざわざ「無細胞」とか「試験管内」を付けなくても誤解を生じる恐れはありません.なので,単に「再構成タンパク質合成系」とか「タンパク質合成系を再構成する」とか言います.

ある系を試験管内再構成するには,まず,その系を構成する成分を単離することになります.単離というのは英語ではisolationです.isolationという言葉の意味は辞書で調べてください.

成分を単離するためには,他の成分から引き離す必要があります.基本的には,「分画(fractionation)」によって分けることになります.分画を繰り返すうちに,成分は「精製(purification)」されて,単一成分と見なせるところまで精製できれば,単離できたことになります.この「単離」がうまく行っているかどうかは,試験管内再構成実験にとって極めて重要です.

単離された成分を試験管内に集めて,その系が働くことを実証するのが,試験管内再構成実験です.その系が,きちんと動くのであれば,その系を単離したことになります.この,単離された系は,その系を含むより大きな系を再構成するのに使うことができるはずです.