タンパク質合成系の再構成,あるいは単離 1

(130408更新)

タンパク質合成系は,たくさんの種類のタンパク質とRNAとが協調してはたらく,本来は細胞の中にある触媒系です.そのたくさんのタンパク質とRNAとを試験管の中で(つまり,無細胞で)集めて,タンパク質合成反応を起こそう,というのが,われわれのやっていることです.そういう実験のことを,試験管内再構成とか,無細胞再構成とか呼びます.

単に全部が揃っていればよいというのではなく,タンパク質合成に関係ない分子を実質的に含まない再構成系を作りたいのです.つまり,「単離」したいのです. 別の言い方をすると,タンパク質合成系を構成している部品から,タンパク質合成系を構築したいのです.それにはどんな意義があるのか

RNA

RNAというのは,リボヌクレオチドが連なった,DNAに似た分子です.基本的には,DNAのA, C, G, Tに対応したA, C, G, Uの4種類のユニットがつながった分子です.

細胞は,生命のいちばん基本的な単位です.生命は,細胞が集まってできています.その細胞は,分子が集まってできています(もちろん分子とは呼ばない金属イオンなども細胞に含まれていますが,このような言い方をするときは分子にイオンも含めます).

分子が細胞をどのように作っているか(どのように構成しているのか)については,生化学・分子生物学・システム生物学の発展によって,徐々にわかってきています.しかし,それらの知見の多くは,注目している現象を,注目していない生体内環境というバックグラウンドを前提として追いかけた結果として得られた知見です.ですが,そのバックグラウンドにある細胞の中身は,何千種類もの分子が混在した極めて複雑なものです.

ある分子が起こす生命現象のメカニズムを考えるときには,ふつうは,注目している分子を含むモデルを考えます.それらの分子がこのようにはたらいたら,注目する生命現象が起こるだろう,という仮説を立てるわけです.その仮説に基づいて実験を計画して,矛盾が無いことを確かめるわけです.

ですが,そのモデルの中では,それ以外の,細胞の中に一緒に存在する,注目していない何千種類もの分子については,考えていません.考慮に入れられていない大多数の分子が,注目している系にどのような影響を及ぼすかについては,そのモデルではわからないのは当然ですね.バックグラウンドは,考慮に入っていないか,あるいは仮定を含んだ大雑把な形でしか考慮されていないのです.それでは不十分だというのではなくて,複雑なものを理解するにはそうするのが妥当だからそうするのです.

本当に,注目している分子だけからその生命現象が起きるのか,また,バックグラウンドからの干渉を受けない場合に本当にその分子システムが正しく稼働するのか,想定外の反応が起きないのか,などについては,確かめる必要があります.確かめることによって,細胞の中の分子のはたらきがよりいっそう深く理解できるわけで,そういうことが積み重なって,細胞を人工的に制御したり,病気をコントロールしたりすることができるわけです.

そのためには,モデルと一致した実験系が必要です.モデルで考慮されていないものが含まれていない,モデルにきちんと対応した実験系です.

細胞は,間違いなく,分子(イオンなども含んだ意味での)からできています.ですが,細胞を構成する分子の種類はとてもたくさんあります.細胞を単なる分子の集合と考えるのでは理解できません.そのため,細胞を分子システムに分けて考えることになります.システムというのは,「系」とも呼ばれます.細胞の中で,間違いなくもっとも重要な分子システムは,タンパク質合成系です.だからこそ,分子生物学が成立した直後にまず第一にタンパク質合成系が解析されたのです.

細胞の中には,解糖系のように,タンパク質だけでできた「系」もあります.しかし,多くの「系」は,タンパク質合成系と相互作用します.タンパク質合成系も含めて一つの系を成していると考えたほうがよい場合もあります.タンパク質合成系と一緒にあるからこそ成り立っている分子システムがたくさんあるのです.それらをきちんと理解するためには,それがどのように動作するかを考えるためのモデルと一致した実験系が必要です.その中には,タンパク質合成系が一緒にある必要があります.そのような実験系を構築するためには,単離されたタンパク質合成系が必要です.

だいいち,タンパク質合成系それ自体も,まだ十分に理解されたとは言えません.特に,真核細胞のタンパク質合成系には,未解明の部分がかなりたくさん残されています.タンパク質合成系をその構成成分から再構成することで,タンパク質合成系そのものをより深く理解する必要もあるのです.

どのようにやるのか

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