複雑系としての生命

投稿日: 2013/06/10 1:37:43

生命は,物質から成る複雑系です.

まず,「複雑系」という言葉を説明しなければなりません.

残念なことに,僕自身も複雑系とは何なのかきちんと理解していないので,正しく理解していただくためには,いろいろな本を読んで勉強してもらうしかありません.特に,「自己組織化と進化の論理」(スチュアート・カウフマン,邦訳:日本経済新聞社1997,文庫化されています)は,ぜひ読んで欲しいです.

ただし,僕は,「自己組織化と進化の論理」に書いてあることを鵜呑みにしているわけではありません.それは勘違いしないで欲しいです.基本的には正しいことが書いてあると思いますし,大雑把な捉え方としてはそれでよいと思います.ですが,生命はもう少し「複雑」だと思います.

カウフマンを読んだら,さらに,金子邦彦先生の「生命とは何か」(東京大学出版会,第2版2009,初版2003)を読んでください.この本の内容については,僕は,理解しきれていないところがたくさんあります.ですが,これなしにこれ以上生命に関する探究を進めても仕方がないと思えるくらい,極めて重要なことが書いてあると思います.

生命の最小単位は細胞です.細胞には,水のほか,タンパク質,核酸,脂質,糖質,無機イオンなどが含まれています.これらの分子やイオン(生物学者はまとめて「分子」と言います)が,複雑に相互作用・反応して,細胞という構造物・反応系をつくっています.そのような「分子」には,数千~数万種類あるわけですが,それらがそれぞれの「個性」を発揮して,細胞が成り立っているわけです.それらの分子が具体的にどのようにはたらいて細胞ができているのか,は,分子生物学や生化学の中心課題のひとつです.

しかし,上に挙げた2冊の本の中では,そのような「分子」の「個性」が,「無視」されています.そんなものが生物学になるのかという反論はあるのかもしれないのですが,分子の個性は意図的に無視されているのです.無視することによって重要な概念を抽出しているわけです.そもそも,何かを無視しなければ,概念を抽出することはできません.

実は,応用化学科の講義の中には,「複雑系」を扱っているものがひとつもありません.ですが,応用化学科の講義をきちんと理解していれば,複雑系に関してある程度自分で勉強できるくらいの学力は付いているはずです.もともと実学指向の工学部の学生にとっては抽象的すぎるかもしれないのですが...