タンパク質合成系はタンパク質合成系を合成する

投稿日: 2014/08/27 12:56:42

細胞の中には,「系」と呼ばれるものがいくつもあります.解糖系とか電子伝達系とかは,集まって代謝系を作っていると言えるでしょう.

それらの系のなかで,いちばん面白いのはやっぱりタンパク質合成系だと思うのです.

他の系は,タンパク質合成系を介してその構成成分が供給されていますが,タンパク質合成系は自分自身を直接的・間接的に合成しています.もちろん,エネルギー代謝系や核酸合成系,アミノ酸合成系などには依存していますが,タンパク質合成系が依存している系だってタンパク質合成系で作られたものだということになっているわけです.

基本的には,タンパク質合成系が再構成できれば,他の系も再構成タンパク質合成系共存下で再構成できてよいはずなのです.

ただ,そういう実験を本気でやりたいなら,コムギみたいな複雑な生き物を使うのは,研究の進め方として間違っています.現状では大腸菌が正しいでしょうね.

大腸菌の再構成無細胞タンパク質合成系が形になってきたころからもう15年以上も経過していますが,あまりそういう実験は成されていません.たぶん,大腸菌の◯◯系なら,そんなことしなくても再構成できるんだと思います.そして,タンパク質合成系自体は,大腸菌のものですら試験管内で合成することができません.最大のネックはリボソームです.リボソームの合成過程は極めて複雑で,試験管内で完全には再現できません.

なので,僕は,コムギの再構成無細胞タンパク質合成系が仮に今すぐできたとしても,コムギリボソームを合成させようとはしないと思います.僕はそんなに長生きできません.

それよりは,細胞質にある他のものと共存させていろいろな相互作用を観察しようとすると思います.

それでも,やっぱり,自分がタンパク質合成系に興味を持っているのは,タンパク質合成系がタンパク質合成系を合成しているからだと思います.

もし本当に将来的に必要なら,再構成無細胞タンパク質合成系は,それ自体がオートメーションで調製されるようになると思います.それはコムギのものではなく,ヒト由来のものかもしれません.ただ,ヒトのものを大量調製するためには,少なくともリボソームを調製するために,大量の細胞培養が必要です.コムギなら,製粉所由来の胚芽画分をセットするだけです.コムギ翻訳因子は,大腸菌か,大腸菌再構成無細胞タンパク質合成系で合成され単離・精製されるのではないかと思います.そのころまでには,大腸菌のリボソームなら,機械で合成できるようになっているかもしれません.

でも,たぶん,本当に必要ではありません.

それでも,機械化は進んでもおかしくありません.他の目的で開発された機械を流用して,自分だけのために再構成タンパク質合成系を機械でつくることができるようになる可能性はあるかもしれません(研究費は必要ですが).もし,大腸菌再構成無細胞タンパク質合成系を使って,リボソームも含めた大腸菌再構成無細胞タンパク質合成系を機械で合成できるようになれば,いろいろな系が再構成できるようになると思えます.もちろん,大腸菌再構成無細胞タンパク質合成系は,原理的には,無限に増やすことができることになります.コムギ由来タンパク質合成系の成分の殆どはそれで調製できるかもしれません.