補足 分けるということ

(110912更新)

単離して再構成することによって,全体を理解することについて,ちょっと補足しておきます.

複雑なものを理解しようとするときに,対象を部分部分に分けてそれぞれを理解し,それらを再構成して全体を理解する,ということをするわけです.

このとき,どのように分けるかは,その複雑な対象を分析してみないとわかりませんし,分析しても分からないかもしれません.適切な分け方は,予めわからないのが普通です.

細胞を分子に分けて理解することは重要なのですが,本当に分子に分けてよいのかどうかは自明ではありません.分子でないものに分けないと理解できないかもしれません.分ける単位は,分子であるべきとは限りません.物理的に分けて理解しやすいものが,機能的にも分けて理解しやすいとは限りません.

人は,まとまりとしてわかりやすいものに名前を付ける傾向があります.分子に名前がつくのは,物理的に分けられるからかもしれません.

例えば,eEF1BにeEF1Bという名前が付いているのは,第一にはeEF1をAとBとに分けやすかったからであり,さらには,eEF1Bをさらにα,β,γに分けて考えることができないくらい,この3つのサブユニットは強く結合していて,実質的にバラバラにはならないからです.たぶん,機能的に区別するために名前が区別されているわけではなく,物理的な存在形態で名前が区別されているのですよね.

大学院の授業でこれまで毎年話してきましたが,RNAのいくつかの性質も,ヌクレオチドの単位に分けるよりは,2つの並んだヌクレオチドの組に分けるほうが,構成成分の和として理解しやすい場合があります.RNA中のヌクレオチドには,A, C, G, U(正確にはpA, pC, pG, pU)という名前がついていて,放っておくとその単位で理解しようとしてしまいそうですが,特に2重鎖RNAの性質については,それを隣り合う2つのヌクレオチドの単位がもつ性質の和として表現するほうが,全体をよく表現できる場合があります.

つまり,人の都合で名前が付いているものについては,必ずしもそれが機能の単位であるとは限らない,ということには,注意する必要があります.

ひとつながりのDNA配列がタンパク質のアミノ酸配列を規定していますが,それが機能の単位だとは限りません.複数のポリペプチドが集まって一つの機能を持つようなタンパク質もありますし,一つのポリペプチドに複数の機能を持つタンパク質だってあります.

再構成の際には,基本的には機能の単位で分けたものを再構成するべきだと思います.それは,必ずしも,物理的に分けやすい単位であるとは限らないかもしれません.

eEF1AはeEF1Bとの複合体eEF1Hとして再構成系に加えるのが現実的かもしれませんが,細胞の中ではeEF1AのほうがeEF1Bよりもかなりたくさん存在していますので,eEF1Hを加えるだけでは細胞の中の状況を再現することができません.おそらく,細胞内では,eEF1Aのかなりの部分はアミノアシルtRNAと結合しています.また,アクチンと結合しているという話もあります.eEF1Aには,細胞内では,リボソームに結合した状態も含めて4種類の状態があるけれども,単独で存在する状態は無いのかもしれません.

同様にeIF2も,GTP/GDPと開始Met-tRNAのほかに,eIF2BかeIF5のどちらかと結合していると思われます.eRF3もeRF1と結合していると考えるほうがよいでしょう.

物理的に区別しやすいという理由でついている名前に惑わされずに再構成する必要があるかもしれません.