2. 組換えタンパク質調製法

投稿日: 2016/08/22 1:14:00

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ところで,生化学者がタンパク質の研究を行うためには,基本的には,まず,注目しているタンパク質の溶液を調製します.30年位前までは,そのために生体試料をホモジナイズ(均一化)してそこからタンパク質を単離するのが当たり前でしたが,1980年代の後半から,大腸菌に目的タンパク質の遺伝子を導入して大腸菌内で大量発現させ,それを単離・精製する方法が普及し,1990年代にはそれが主流になりました.

遺伝コードはほとんどの生物で共通です.生体試料から少量でも活性の測定できるタンパク質を単離したら,そのタンパク質の一部のアミノ酸配列(トリプシンなどで切断後得られるオリゴペプチドを分離・単離してアミノ酸配列解析)を得,そのアミノ酸配列をコードするDNA配列に対応すrオリゴヌクレオチドプローブを使って対応する遺伝子を単離することが,多くの場合可能です.遺伝子配列を解析して,適当な発現プラスミドを作成し,それを大腸菌で大量発現させてタンパク質を得ることができます.そうするのが,1990年代中ごろまでの黄金パターンでした.Golden standardというやつですね.

ゲノム解析が進んだ後では,cDNAクローンを使ったり,PCRによってDNAを増やしてクローニングしたりして,それを発現ベクターに組み込んで発現させる,という方法が,当たり前になりました.そのような過程の中で,組換え発現法自体についていろいろなことが判ってきましたし,いろいろな組換え発現法が開発されてきました.特に,大腸菌を用いた組換え発現法では,T7の系と,tac promoterを用いた系が,他の系と比較して極端に頻繁に用いられるようになりました.一方で,酵母や昆虫などの真核細胞を用いた系も開発され,特に真核細胞由来のタンパク質の調製に向いている場合もあることが判ってきました.さらには,大腸菌やコムギの細胞抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系も,それらの欠点であった低収量を克服して,タンパク質の大量合成に用いられるようになりました.

しかし,それでも,もっともメジャーな方法は,大腸菌を用いた方法であり続けています.大腸菌の,T7の系で試し,それでだめなら他の系,というのが普通のやり方です.なんだかんだ言っても,コストが低いのは大腸菌を培養する方法です.コストの考え方にはいろいろあるわけですが,少なくともお金がかからないのは大腸菌を培養する方法だということです.その意味で大腸菌の次に来るのは昆虫細胞かPichia酵母を培養する方法だと思います.最近では,真核型タンパク質を得ようとすると大腸菌ではうまくできなことが多すぎるので,大腸菌を試さずに別の方法を試す人が多くなっていると思いますが,それでもまだ,遺伝子を持ったら最初に試す方法は,組換え大腸菌を培養する方法です.

個人的には,かかる時間(つまり人件費や競争のためのコスト)もコストに含めるのであれば,コムギ無細胞タンパク質合成系が10年位前から(抽出液を購入する前提でなら)いちばんになっていると思います.1000種類並べて合成できるだけでもすごいのに,そのうち900くらいは確実に発現します.スケールアップもかなり容易にできます.これほど確実性の高い系は他にありません.

ここで言いたいのは,それでも大腸菌のT7の系がfist choiceだということに変わりはない,ということです.