進化する生命

投稿日: 2014/04/14 10:54:57

ちょっと間が空いてしまいました.すみません.

ここまで,生命が物質でできた複雑系であること,エネルギーを利用していること,情報を操っていることについて述べてきました.

生命のもう一つの重要な特徴は,進化することです.

生物学者にとって,生命の進化は究極の課題です.基本的に,生物学者は,生物の進化の結果を研究しています.

実は,前に書いた記事で取り上げたカウフマンが「複雑系と進化の論理」の中で言っている複雑系細胞モデルは,たぶん,そのままでは進化しません.外からの刺激がなければ,一定の状態に落ち着くはずですし,刺激があっても,別の状態に移る可能性はありますが,新しい状態を創りだしたりはしません.カウフマンが複雑系研究をリードしていた時代には,まともに進化までを含めた研究は,コンピュータの能力の制限のため不可能だったものと思います.また,細胞周期や脱分化も,自ら起こすことはありません.細胞ができるまでの進化については述べているのですが,その後の進化については述べていないように思えます.一方,金子先生は,細胞周期や進化を意識して理論を構築されています.金子先生は,細胞がいくつかの準アトラクター(?)の間を遷移するようにできていると考えていますし,進化によって少数の情報分子(DNA)とたくさんの機能分子(タンパク質)への役割分化が起こる,というような研究もされています.このような理論は,生命を理解する上でとても重要だと思います.しかし,一方で,これらは物理学ではあっても生物学ではない,という批判もあり得ます.カウフマンや金子先生が,個々の生命や細胞の個性を全く見ていないことは確かです.それは,敢えてそうしているのであって,批判されるべきことではありません.個性を見ないことで,生命に共通の原理を抽出しようとしています.

一方,通常の生物学者は,個々の生物の個性を研究しています.個性を研究すると,下手をすると,ただの各論になってしまい,何の普遍性もないことを研究することになってしまいます.僕自身は,各論にはあまり興味がなく,カウフマンや金子先生が研究しているような,普遍的な原理に興味があります.しかし,生物学にとっては,各論もとても重要です.個人的には,生物の個性を調べているということは,進化の事例を調べていることになっていると思います.

個性を見ないアプローチでは,地球上の生物でないものの進化も考察できます.個性を見るアプローチは,地球上の生物の研究です.おそらく,個性を見ないアプローチで得られる可能な生命像のうち,ほんの一部が,地球上で実現しています.個々の生物の進化の研究は,地球上の生物の進化にどのような制限があったかに関する研究でもあります.さらに,最近は,宇宙生物学という分野も発展し始めています.宇宙探査が可能になったことによって,地球上の生物でないものの進化も研究できるようになってきたということになります.

進化の原理を探ることは,生物学のもっとも重要な課題でしょう.

以下はおまけです.

最近,「流れとかたち」という本を,丸善で見つけました.化学工学の権威の先生が,かたちの進化(生物以外のものも対象)には「コンストラクタル法則」という法則が成り立っている,ということを提唱しています.まだ半分くらいしか読んでいませんが,まあ,面白いと思います.ちょっと,本川達雄先生の「ゾウの時間ネズミの時間」を思い起こさせる内容です.よくわかりませんが,本川先生の言っているサイズに関する法則を包含しているかもしれません.

熱力学の法則が,物質が粒子で出来ていることとは関係なく成り立ったのと同じように,なぜそうなるかを気にしなくても,「コンストラクタル法則」を仮定するとかたちの進化について予測できる,ということらしいです.レイノルズ数がある値を超えると層流から乱流に切り替わることや,川の流路の枝分かれのかたちと樹木の枝分かれの形とがなぜ似ているのかなどが,コンストラクタル法則で説明されています.

個人的には,生物学は,進化における法則を抽出することを究極の目的にしていると思います.