1. シャペロニンには2種類ある

投稿日: 2016/08/22 1:16:47

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シャペロニンというのは,シャペロンのうち,GroEと同じタイプのもので,だいたい60 kDaのサブユニットからなるHSP60を含む複合体です.

Daというのは分子の質量を表す尺度の単位です.生化学では,分子の大きさの尺度としてよく使います.水素分子H2なら分子量が2ですが,それの大きさは2 Daです.

大腸菌のシャペロニンはGroEです.これは,タンパク質のフォールディングを助けていることが最初にわかった「分子シャペロン」です.このGroEはGroELが7個集まった複合体の2量体とGroESが7個でできています.GroEL はおおよそ60 kDaですが,GroESは10 kDaくらいです.GroEはGroup Iのシャペロニンです.基本的には,真正細菌はGroup Iのシャペロニンを持っています.GroELの7量体はかごのような形ですが,GroESはそのかごにふたをするような形で結合します.

一方,真核細胞はCCTとかTRiCとか,複数の名前の付いたシャペロニンを持っています.ここではCCTと呼んでおきます.CCTは8種類のサブユニッ トが集まった8量体の2量体です.CCTのサブユニットは8種類ともよく似ていてだいたい60 kDaより少し大きいくらいのサイズです.なぜかhumanのCCTサブユニットには1から8まで番号がついていますが,植物や酵母ではαからθまでの8 個のギリシャ文字で区別されます.CCTはGroup IIのシャペロニンに分類されます.

古細菌もGroup IIのシャペロニンを持っているのですが,古細菌のものはthermosomeと呼ばれています.8量体の2量体であることはCCTと共通ですが,サブユニットの種類が少なく,2種類から5種類と言われています.

GroEの一つの機能は,細胞内で少しだけ変性してしまったタンパク質をnativeな形に修復することです.タンパク質をかごの内部に取り込み,ATP のエネルギーを使っていちばん安定なコンフォメーションに落ち着かせると思われていると思います.Group IIのシャペロニンにも同じ機能があるものと推定されます.

GroEのもう一つの機能は,できたばかりのポリペプチドを正しくフォールディングさせることです.Group IIシャペロニンにも同じ機能があるものと推定されます.

真核細胞は,いくつもの原核細胞が合わさってできたものだと考えられています.ミトコンドリアや葉緑体は基本的には真正細菌由来で,シャペロニンも Group Iです.しかし細胞質のタンパク質合成系はおおむね古細菌由来と思われます.真核細胞のゲノムにはHsp60として細胞質用のGroup IIのものと,オルガネラ用のGroup Iのものとの両方があることになります.また,一部の古細菌はGroEとthermosomeの両方を持っていますが,これはGroEの遺伝子を真正細菌 からhorizontal gene transferでもらってきたものと思われます.

そういうわけですので,基本的には真正細菌はGroup I,真核と古細菌はGroup IIのシャペロニンを持っています.問題になるのは,Group IとGroup IIとで機能が少し違うことです.