黒目川

埼玉県朝霞市を流れる黒目川のプロジェクトです。2000年の仕事です。建設省の土木研究所には2001年の6月まで勤務していましたので。土木研究所での最後のころの仕事になります。

「黒目川に親しむ会」の藤井さんや小林さんから、黒目川の改修で沿川の桜並木が伐採されしかも、河道の複断面化によって、川の中央の低水路は深くなり、子供たちが安全に遊べなくなるというお話でした。図面を見せていただくと、現在、掘り込みの河道が、築堤され、川全体は狭められ、しかも川沿いの桜並木は堤防を作るために切られる計画になっています。

そこで、埼玉県の方にお話をし、建設省の本省にも話をし、予算の執行を少し遅らせてもらい、委員会を作ってもらうことになりました。私は委員長をさせていただきましたが、市民の皆様の意向でセントラルコンサルタントが受注されました。地方分権の時代になりましたので、このようなやり方は今では無理かもしれません。最終的には築堤はやめて、河床の1m程度の掘削と築堤のために購入していた用地の範囲内の川幅の拡大によって、桜並木は残りました。それから施工時にも黒目川に親しむ会の人が立ち会われ、原案の川岸の横断勾配2割は2割3分に緩やかな勾配に変更されました。数字上は小さい差ですが、2割3分にすると無理なく川に降りることができます。

また河床掘削の際には、河床の形をそのまま切り下げるスライドダウン方式が採用されました。下流の築堤部と比較すると、この委員会での結論は正しかったことがわかります。2008年に設定された中小河川の技術基準では川幅拡幅の原則、河床掘削時のスライドダウンの原則が採用されましたが、その原型ともいうべき改修方式で中小河川史に残る記念碑的事業です。

それから、委員会の検討方式もユニークでした。それそれの場所の写真と横断図をプロジェクターでホワイトボードに示し、1断面、1断面どのような形状にするのかを議論しました。地元の方がそれぞれの場所に詳しく、場所場所にあった計画が立てられていきました。コンサルタントの方は、その場で即座に水位計算をし、断面が狭すぎる、などの結果を示しその場で繰り返し断面形の議論をし、断面形を決めることができました。2011年の土木デザイン賞の優秀賞に選ばれましたが、私にとってはスライドダウン方式の有効性と複断面方式よりも単断面で河床幅が広いほうが川の環境に良いことを教えてくれた改修です。

地域の方、埼玉県の担当された方々に感謝しております。

この図は断面形を示しています。黄色が改修する前。ピンクが以前の計画、緑が実際に施工された断面です。全体を掘り下げ、広い川になりました。

委員会の様子 横断図や写真を

桜の時期はたくさんの人でにぎわいます。この改修の発端が桜を切るかということだったことを思うと、この桜が保存されたことは素晴らしいと思います。県の方も頑張りました。

いわゆるスライドダウンという掘削の方法で、川底をほぼ平行移動して掘削されました。川の回復は早く、砂州もできました。安全に川に近づけますね。

下流の従来型の改修です。複断面です。低水路が深く子供たちは安全に遊べません。単調な川になっています。