川内川

概要

鹿児島県を流れる川内川流域では,梅雨前線の活動が活発化し,2006年7月19日から7月23日にかけて薩摩地方北部を中心に記録的な大雨となり,総降水量は多いところで1,000mmを超した.それに伴う外水氾濫によって川内川流域では大きな被害を受けた.特に薩摩郡さつま町の被害は甚大であり,川内川の河口から37kmの右岸側に位置する虎居地区では最大水深が4mにも及んだ.この地区近傍の宮之城地点の水位は2006年7月22日11:30に計画水位を突破し,同日18:40に最高水位となり,計画水位を3m程度超える未曾有の大水害となった.この地域での被災状況としては,人的被害が死者1名・軽傷者3名,建物被害は全壊214棟・半壊367棟,床上・床下浸水が合わせて232棟であり,孤立した17名が自衛隊により救助された.

虎居地区の水害は未曾有の豪雨が主な原因と言われているが,川内川の虎居地区下流部は大きく蛇行しておりそこでの水位の上昇も被害を拡大させた要因の一つであることが指摘されている.

このような背景を受け,川内川は河川激甚災害対策特別緊急事業(以下,激特事業)に指定され,特に被害が甚大であった虎居地区では,蛇行部を大規模にショートカットする分水路(以下,分水路)の新設や築堤・河道掘削などが計画されている.しかし計画当該地域には,歴史的文化的価値を有する「虎居城」と呼ばれる史跡や,大きな瀬と淵がみられ鮎やホタルが多数生息する良好な河川環境が保たれており,早急な治水対策が求められる一方で,史跡や生態系への影響が最小限となるような河川改修案を検討することが求められている.この地区では,昭和47年にも同様の洪水が起こり,上流に位置する鶴田ダムが原因ではないかと住民からは長年ダムに対する強い不信感が存在している.このような背景もあり,住民の国土交通省に対する不信感は強い.こ のためショートカットをしても水位が下がらないのではないか,河川環境や景観が大きく劣化するのではないかという住民からの強い懸念が表明され,事業の進捗に影響を及ぼす可能性があった.そこで九州大学に景観水理模型を製作し水理的効果の検証,および実験ケースについてのワークショップ,公開実験を行い住民との合意を図った.そして、2011年春、竣工した。