これからの国土の姿

この文書は2009年に建設業界に発表したもの2014年、修正したものです。

次の時代の国土の姿

ここ数年で将来の日本の姿がかなりはっきりと見えてきたように思う.これから2050年までに起こることは,これまで私たちが経験したことの無い,大きな変化であり,まったく新しい時代である.このような大きな変化に対応して速やかにパラダイム変換し,国土を再編・再生していく必要がある,その具体的な姿まではまだ十分に見えてこないが,ここでは2050年をターゲットに,これからの国土について考えてみたい.

国立社会保障・人口問題研究所によると日本の人口は現在およそ1億2700万人であるが,中位予想で,2030年には1億1500万人,2050年には9500万人に減少すると予測されている.2050年には現在より3000万人以上の人口が減少する.実に首都圏に匹敵する人口が減少するのである.人口減少は現実のものとなるであろう.減少する人口をどこから減っていくのかという人口政策は国土政策の根本にかかわる大きな課題である.

さらに地球温暖化対策の方向性も明瞭になりつつある.2008年6月に福田内閣は,2050年にはわが国の地球温暖化ガスの60-80%を削減するという福田ビジョンを発表した.また,民主党のマニュフェストでは2050年には60%超えの地球温暖化ガスを削減すると宣言している.ここ10年程度の温暖化ガスの削減量には両党の違いが強調されているが2050年をターゲットにすると両党には大きな差がないことがわかる.これは,国際世論の状況等から考えて将来的には温暖化ガスの大幅な削減は避けられないというコンセンサスが国レベルでは得られていることを示している.おそらくこれから,地球温暖化ガスの発生を大幅に抑制するために,さまざまな施策が取られていくことになるであろう.

以上のような,有史以来,我が国においての、初めての,ダウンサイジングに向けての大きな社会変化が起こるわけであるが,それに対し,夢のある未来を構築するために,われわれはどのように対処していけばよいのであろうか?国土をどのように再編・再生していけばよいのだろうか?

私は,その方向性の一つが,高度成長期に人口移転が起こった災害の危険性が高い場所から人間が撤去し,それにあわせて自然環境や文化を取り戻し,人と自然とのふれあい,人と人とのふれあいが密接な豊かな社会を再構築することであろうと思っている.

私が関係している河川を題材に少し例を述べたい.

福岡市都心部の住宅街を流れる小河川樋井川が今年,豪雨により氾濫した.流域のほとんどは住宅地であり,流域の都市化によって氾濫が発生したのである.昨年の神戸の都賀川や沖縄の小河川においても集中豪雨による急激な水位上昇により人が流される災害が発生している.このような災害は都市化による流出形態の変化によるものである.すなわち国土の改変によって水循環系が変わり,洪水が発生しているのである.かつての水田や山林は住宅地へと変わり,都市に降った雨は途中で溜まることも浸透することも無くあっという間に河川へと流出するのである.降雨から河川までの流出時間は10分から20分,もし川で遊んでいたならば雨が降り出したらすぐに逃げないと間に合わないような短時間である.都市化によって洪水到達時間は驚くほど短縮し,ピーク流量は2倍以上になる.

このような都市洪水にどのように対処すればよいのであろうか?一つの考え方は,増大する流量に対応できる治水施設を整備する手法である.河道を掘削する,大規模な地下放水路を構築する,河川沿いに遊水地を造るなどの方法である.いわゆる洪水流量対応型の従来型の手法である.

もう一つの手法は,流域から出てくる雨水の流出量を抑制し,どうしても氾濫が抑制できない場所は氾濫域に戻す手法である.住宅,公共用地,公共施設などに水をため,浸透させ,下水管に流れ込むまでなるべく自然の形態を持つ開水路で流す.貯めた水は,トイレ用水などに有効利用する.河川沿いの氾濫域はなるべく買収し,自然の土地に戻していく.洪水処理と同時に適正な土地利用のあり方を求め,さらに自然環境の回復も求めていく.治水事業に市民が参加し,あわせて地域づくりへも貢献していく.これを達成するためには河川部局だけではできず,市民や企業の協力,さまざまな分野の行政部局の協力が必要である.

私は後者の手法こそこれからの時代の国土整備の方向性を示す手法であると考えている.治水対策が単に治水対策に終わらず,治水対策を行うことによって,多くの人々が地域のことを考え,参加し,より持続的な社会を構築していく.あわせて,緑豊かで,生き物にも触れ合うことができ,子供たちが生き生きとした環境を整備していく.

私はこれから福岡で多くの人と供に市民主体の流域治水を実現していきたいと考えている.これから新しい時代に入って行く.さまざまな分野で社会資本はどうあるべきなのかを提案し,実践していかなければならない.勇気を持って,これまでの考え方や仕組みを大きく変え,様々な分野の人が手をつなぎ,次世代,次次世代が夢や希望が持てる社会へと変革することが私たち大人の責務である.