東日本震災後に私たちはどのような社会を築くか(2011)

東日本大震災の復興の過程で見てとれるのは、我が国の仕組みが制度疲労をしていることです。大規模な災害、危機に対して総合的に、大胆に対処することができなくなっています。日本人の1人1人は基本的に信用できます。そして素晴らしい人がほとんどです。東北の震災を見てもほとんどの人が東北を助けたいと思い、募金に協力し、あるいは実際に行動に移しました。しかしながら、組織になったとたん、十分にその力が発揮できなくなってしまいます。

この問題は基本的に日本の仕組みがうまく機能しなくなった制度疲労の問題です。しかしながら仕組みを変えることは容易ではありません。結局、政府は統制を強める方向に舵を切りつつあるように見えます。おそらくそれでは何も解決しないでしょう。ではどうすればこの状態を打開できるのでしょうか?私は物のすすめ方、意思決定の仕方を住民参加型、市民主導型へと変えることにその道があると考えています。さらに、市民の中から生まれてくる新しい方向へと大胆に改革する必要があると考えています。

私は大規模な災害後の復旧、福岡市における樋井川流域治水市民会議、市民参加型のアザメの瀬湿地再生、小水力発電を用いた中山間地の再活性化など多くの市民参加型プロジェクトを主導あるいは、それらに関係してきました。プロジェクトを進める過程で、多くの方々と話し合い、日本人の底力を実感してきました。係わった方々の知恵と良識に基づき一歩、一歩ではありますが着実に成果を得てきました。これらのプロジェクトを通して私が得た結論は、日本人の個々の力を結集した形での発想、意思決定の仕組みこそが日本の未来を形作っていくであろうということです。様々な先進的な知識を専門家からもらう必要はあります。それぞれの分野や業界の人の意見を聴く必要もあります。しかし、これからの社会を作っていくのは個々の市民の集合体であるということです。専門的な技術や考え方を粘り強く、市民サイドまで落とし込んで十分に話し合い、統合、総合化していく必要があります。

市民主導型の進め方は素晴らしい力を秘めています。具体的に何を進めるのかを、決める必要がありますが、今、重要なのは、政策決定に当たり、どのように進めるか、誰が決めるのかというその仕組み作りを進めることです。ものの進め方によって、内容や結果は大きく異なります。そのことを私は市民参加型の取り組みを通して実感しました。市民主導の進め方は、本質的で、革新的なものを生み出していくと思います。このような進め方はこれまでの既得権とおそらく対立するでしょう。私たちは何らかの形で、これまでの社会システムの中で生きていますから、私たち自身の痛みもあるでしょう。しかし、私たちは、勇気をもって一歩進むべきなのです。