トトロ型国土?アトム型国土? (2010)

自然再生へと向かう若者の意識

日本の各地を訪れて,最近感じることは,環境を再生して欲しいと思っている人が,思いのほか多くなってきていることである.それは都市においても,農村においても同じようにである.

九州大学の1年生を対象に環境科学概論という講義を1コマ担当している.選択科目なので,環境に関心を持っている学生が中心なのであろうが,最近学生の意識が大きく変わってきた.この講義では毎年,「君たちは将来の日本を,トトロ型の国家にしたいのか?アトム型の国家かにしたいのか?」というレポートを課している.昨年,大きな変化があった.トトロ型67%,アトム型17%,アトム・トトロ共存型13%と,トトロ派急増である.トトロかアトムかと聞いているのにもかかわらず,アトム・トトロ共存型と答える,常識的な不届きものもいるが.

今の学生は,トトロのアニメを見て育った世代である.おそらく,何度も見たことがあるだろう.昭和30年代の郊外を対象とした,となりのトトロに描かれる暮らしは決して現代のように快適ではない.しかし,まだ身近な自然が残り,自然のおどろおどろしさと,豊かさ,そして地域のコミュニティーが十分に残った世界である.このアニメーションを何度も見た今の学生たちは,田舎暮らしのわずらわしさや不便さも十分に知っている.にもかかわらず,「こんなにガソリンが上がって,地球環境の問題もあるのにいまさらアトムじゃないでしょ」と,アトム型の世界を一蹴する.「先生,猫バスはガソリンで動いてないでしょ?」という,なるほどトトロこそ脱石油社会だねとおもわずうならされる.そして,何より学生たちがトトロ社会を評価するのは暖かい人間関係である。隣近所の人たちが,自分の子供のように他人の子供のことを大切にする。そういう暖かな人間関係を若者は求めている.

年々,トトロ派が増加しているのも面白い.若者は確実に自然共生型の国土像を描いている.私たちが子供のときに描いていたアトム型の国土像とは異なる未来像である.おそらく,緩やかではあるが,日本の国土も自然共生型の国土へと変わっていくものと思われる.

もう一つ,学生に聞いて驚いたことがある.私が担当する河川工学を受講する80名の学生に,「川で泳いだことがあるか」について聞いてみた.関西や福岡市,北九州市などの大都市出身の学生も3割ぐらいはいるので,川で泳いだ経験がある人はせいぜい20%ぐらいかなと思っていた.しかし,驚くことに全員が川で泳いだ経験を持っているのだ.近くの川で泳いだことがある学生もいるが,キャンプなど遠くに行って泳いだという学生も少なくない.本当に時代は変わったなと感じる.日本が豊かになり,家族とキャンプなどに行く機会が増えたり,ゆとり教育の影響もあるのだろう.川の水質がよくなったのもその理由の一つであろう.

このように,若者の意識は確実に変わっている.地球温暖化の問題も身近になり,低炭素型の社会が求められている.自然と共生する新たな国土像が求められている.