第33回地域院生研究フォーラム
日時:2019年6月23日(日)14:00~16:50
場所:18号館2階院生作業室
1. 山根息吹(地域文化研究専攻地中海科博士課程)
『ニュッサのグレゴリオスにおける宇宙的完成に向かう人類の連帯の思想 ―三位一体論的人間論が拓く他者との関係性への視座に触れて』
本発表では、人間のアトム化や他者のリアリティーの喪失を背景にした深刻な問題に直面する現代にあって、他者との関係性に対する新たな視座を拓く可能性を、ギリシア教父であるニュッサのグレゴリオス(335頃-394頃)の人間理解に求めて行ってきた研究について報告したい。
具体的に言うとグレゴリオスは、381年のコンスタンティノープル公会議で活躍し、三位一体論の成立に大きく貢献すると同時に、その過程において人格概念の形成に寄与した人物であり、発表者は特に、三位一体として理解された神自身において見出される関係性という観点から、グレゴリオスが人間において他者との関係が持つ根源的意義を洞察している点に注目した研究を行ってきた。
そこで本発表では、グレゴリオスが『創世記』の記述から、三位一体なる神の像として人類全体が創造されたと解釈し、罪によって神の像が傷ついている限りにおいて、人類は相互に分裂してしまっているが、神の像の回復という宗教的完成に向かうことによって、人間相互の関係を三位一体なる神の一致に向けて変容させていくことが可能であると主張していることについて論じる。さらに、このような三位一体論的人間論を根拠に、グレゴリオスが人間の完成(神化)の意味を個人の救済の問題に限定することなく、万物回復論として宇宙的完成に向かう人類の連帯の思想を展開していることの意義について考察する。
2. 福井祐生(地域文化研究専攻ロシア東欧科博士課程)
『ニコライ・フョードロフにおける身体の救済とそのキリスト教的背景』
ロシア人宗教思想家ニコライ・フョードロフ (1829-1903) は、万人による科学的な実践を通じたキリスト教的復活の達成を目標とする共同事業を提起した。復活は身体の変容を伴う。共同事業における実践は、単に生殖を排除する否定的純潔性ではなく、人間の栄養プロセスそのものを変容させる肯定的純潔性である。こうした身体の変容は、最も小さな構成要素から身体を再構成することを伴うが、これは単なる機械論やオカルトではない。東方キリスト教には、身体をも含めた人間神化の霊性が息付いてきた。このことをグレゴリオス・パラマスの身体論を通じて見ておく。
司会:林優来(地域文化研究専攻地中海科博士課程)