以下の通り、第19回研究会「修論執筆とその後」を開催しました。他専攻・他大学ご所属の方も含めて30名近くの方がいらしてくださり、大盛況でした。発表者の方からの修士論文執筆の経験に基づくアドバイスや研究手法・具体的な研究成果に皆さん熱心に耳を傾けている姿が印象的でした。
第19回 地域院生研究フォーラム
テーマ:修論執筆とその後
日時:2016年4月24日(日) 14時より16時50分まで(終了後懇親会)
場所:18号館2階 院生作業室
発表者・発表題目:
1. 三浦航太(地域文化研究専攻ラテンアメリカ科博士課程)
「何が現代チリ学生運動の動員規模を決めるのか(データ収集・分析方法を中心に)」
<報告要旨>
本研究は、「どのような条件下で現代チリ学生運動は大規模化するのか」という問いについて分析することを目的とするものである。本発表では、まず、新自由主義教育制度下で生じた教育格差、それに対する学生の不満を運動大規模化の要因として論じる先行研究に対する批判、問題意識を示した。その上で、本研究で用いた社会運動理論の一つである政治過程モデルがどのようなモデルであるのか、モデルを踏まえどのように修士論文の章立てを行ったのかを説明し、各章における分析方法・指標・データソースを紹介した。とりわけ本研究の独自性として、「フレーミング」(人々を運動に動員するために社会運動組織が提示する解釈図式に共鳴を呼び起こそうとすること)の分析においてTwitterを用いたことを説明した。分析の結果、政治過程モデルの要素のうち「政治的機会」と「フレーミング」が直接的要因として、「動員構造」が間接的要因として動員規模を決定していることを示した。その他、卒論での反省点を踏まえての修士課程の過ごし方、修士論文の執筆スケジュール、修士論文で得られた結果をどのような学会でどのような形で発表したのか(する予定なのか)を紹介した。
2. 洪龍日(地域文化研究専攻アジア科博士課程)
「在満朝鮮人から中国朝鮮族へ―包摂と排除の国民統合過程を中心に(1945-1959)」
<報告要旨>
本報告では、昨年度提出した修士論文の概要と研究方法を紹介したうえで、現代中国の少数民族関連研究(特に国民統合史)を進める際に、切り口としての「エスニシティ」に可能性について問題提起を行った。 修士論文では、「民族」・「エスニック集団」、「ナショナリズム」・「エスニシティ」といった概念のもつそれぞれの意味合いの違いを意識しつつ、「満洲国」崩壊後から民族整風運動期までの時期を取り上げ、移民(在満朝鮮人)から国民(中国朝鮮族)へと統合されつつある歴史的経緯を、「国民統合」および「包摂」と「排除」のメカニズムを用いて分析を加え、移民的な存在であった民族集団が、如何なるプロセスを経て中国社会に統合されてきたのかを考察してきた。 朝鮮族の事例を通して現代中国の少数民族地域における国民統合問題を考察した結果、国籍・少数民族政策といった「法的制度」とエスニシティを制圧した「政治の不安要素」といった二重構造が、それぞれ包摂と排除のメカニズムを機能させ、少数民族地域における国民統合は、「法的制度」と「政治の不安要素」の二重構造によって進められてきたという一つの論点を提示した。 また、こうした二重構造の中で包摂・排除の対象となった側が如何に対応してきたかを、「下から」の視点で解明できる分析枠組みとしてナショナリズムからエスニシティへの変容を考察した。その結果、朝鮮人の場合、中華人民共和国の建国とともに、居住国の枠内に組み入れられ、朝鮮戦争期の一時期には再び朝鮮人ナショナリズムが高揚されるが、それは徐々に中国の政治環境の中で薄らぎつつあり、ようやく反右派闘争・民族整風運動期にはエスニシティが定着することとなる。つまり、50年代後半に展開された政治運動をきっかけに、「朝鮮族」という呼称を日常的に使用し、また、自らを居住国の国民、つまり中国の一少数民族である「朝鮮族」として受入れ始めたのである。これは、一「エスニック集団」への帰結といえる自己認識の確立を意味するものであった。修士論文では、このように現代中国の政治運動の洗礼を受けつつ形成される自己認識を「朝鮮族エスニシティ」と定義し、さらに朝鮮人ナショナリズムから朝鮮族エスニシティへの転換は、朝鮮族社会における国民統合が一区切りついたと分析できる重要な指標になるという、もう一つの論点を提示した。
司会 河合玲佳(地域文化研究専攻アジア科博士課程)