第21回駒場地域院生フォーラム
日時:2016年6月26日(日)14:00-17:00
場所:18号館4偕コラボレーションルーム3
以下の通り、それぞれ異なる地域・学問領域で興味深いご研究をされている三名の方に研究報告をしていただきました。当日は他専攻・他大学の方も参加し、議論も非常に盛り上がりました。
発表者と題目:
1藤田周(文化人類学専攻博士課程)「分類としての禁忌とそうではない禁忌: ガストロノミーの文化人類学的研究」
〈報告要旨〉
ノーマとは世界一のレストランに何度も選ばれた高級レストランであり、そこではこれまでの高級レストランやデンマークの食の常識を裏切るような料理が提供されている。本発表はノーマのシェフによる日記の分析に基づき、文化人類学において禁忌がどのように論じられてきたか、どのように論じうるかを問う。まずは主流派人類学の禁忌論を概観し、それがノーマの実情をうまく説明しているように見えることを示す。その後、それらの禁忌論が分類を前提としていること、アナロジズム的料理観と呼びうる料理観に基づいてノーマが理解されてきたと主張する。そしてノーマではそのような枠組みで理解できない場面が見られること、それはアニミズム的料理観と呼びうる料理観によって理解されると論じる。アニミズム的料理観が分類としての禁忌とどう関係しているのかを検討したあと、結論では分類としての禁忌ではない禁忌の捉え方について示唆する。
2竹田安裕子(地域文化研究専攻北米科修士課程)「朝鮮戦争期の日系アメリカ人兵士:冷戦初期のアジア地域における軍事的役割と記憶の考察」
〈報告要旨〉
本研究の目的は、朝鮮戦争期(1950‐53年)とその前後に従軍した日系アメリカ人兵士が、人種統合された米軍のなかでどのような軍事的役割を担っていたのかを明らかにすることである。本報告ではまず、朝鮮戦争期の日系兵士がこれまで学術的注目を浴びてこなかった背景とその問題を指摘した。そして本研究方法の一つである、退役軍人への聞き取り調査の結果を主に考察した。調査の対象となった日系退役軍人は、ほぼ全員が朝鮮半島で非戦闘任務に携わっていた。彼らは日本語を利用して捕虜尋問にあたり、また基地内の朝鮮人(韓国人)労働者と日常的な文化交流をしていた。一方、彼ら日系兵士は戦後間もない日本の貧困と親族の苦境に直面した。また、アメリカの家族は第二次世界大戦中の強制収容を経て、再定住と社会復帰を進める最中にあった。したがって、聞き取り調査から考察できることは次の通りである。朝鮮戦争期の日系兵士の多くが日本語を利用したことは、彼らが人種・民族と国籍、軍隊や国家関係のねじれや矛盾を体現する存在であることを意味している。彼らの軍務経験は、旧日本支配とアメリカの占領体制・軍事介入という、帝国主義の入れ替わりの中で錯綜するアジア地域情勢を反映しているといえる。
3北條新之介(地域文化研究専攻アジア科修士課程)「中国共産党員はメリットを享受しているかーー計量社会学的手法による新知見」
〈報告要旨〉
本研究の目的は、市場経済移行の過渡期にある中国において、中国共産党員(以下党員)になることが、収入や地位達成に対してどのような影響を及ぼすのかについて研究したものである。発表ではまず、これまで党員の研究が、市場移行という文脈で行われてきたことを指摘した。そして、その研究の中でのデータセットの問題、使用変数、想定する因果関係の問題などを指摘した。そこで本研究ではChina General Social Survey(CGSS)を用いて分析を行った。その結果、党員であることが必ずしも高い収入につながるとは限らないこと、また就職の際にも党員であることよりも教育が重要であることが示唆された。加えて初職に対しては、父親が、その単位(党政機関、国有企業、私営企業など)で働いていることが重要であった。例えば、本人が党政機関に就職する際には父親が党政機関で働いている/働いていたこと、本人が国有企業に就職する場合には父親が国有企業で働いている/働いていたことが重要であり、さらに本人が初職から転職した際に重要になるのは本人が同じ単位で働いていたかどうかであるということが示唆された。これらの結果から党員であることは就職、転職に対して有意な効果を持つことが示されないかと考えられたが、一方で職階別に分析を行うと、中間管理職が有意であることが明らかになったことから、党員は、企業内における昇進に際して何らかの影響を与えるであろうことが示唆された。これらの結果から、党員が中国社会内で及ぼす影響はより複雑になりつつあることがうかがえた。
司会 高柳峻秀(地域文化研究科アジア科博士課程)