下記の通り地域院生研究フォーラムの第11回研究会を開催しました。
今回は25名以上の院生が出席し、新入生や初参加の院生も多く盛況となりました。
テーマ:ヨーロッパ研究交流会
日時:2015年4月18日(土) 14時より18時まで
場所:18号館2階院生作業室
[第1部]
(1) 細川瑠璃(ロシア科M2・近代ロシア思想)
「フロレンスキーの空間論」
〈報告概要〉
近代ロシアにおいては、西欧に対してロシア(あるいはスラヴ)の独自性を提示すること、西欧を超えることが、常に課題として意識されてきたように思われる。その一例として、20世紀ロシアの思想家、ロシア正教の司祭であり同時に数学者・物理学者でもあったパーヴェル・フロレンスキー(1882−1937)の、連続性と非連続性に関する思想を取り上げたい。フロレンスキーは、19世紀以降の西欧においては連続性が支配的原理であったと考えていた。これは数学において始まり、その後科学全体のみならず歴史学や社会学にまで広がったが、フロレンスキーによれば、連続性だけで世界を説明しようとすることには無理があり、非連続性をもうひとつの原理として持ち出す必要があった。彼にとって連続性は非連続性の特殊な一形態にすぎない。フロレンスキーは連続なものとしてとらえられている空間もまた非連続であるとし、造形芸術における空間論を展開した。
(2) 大下理世(ドイツ科D1・ドイツ現代史)
「西ドイツにおける歴史政策(1969-1974)―グスタフ・ハイネマンと歴史家」
〈報告概要〉
本報告は、昨年度提出した修士論文の抜粋である。修士論文では、政治と社会の在り方が変容した社会民主党・自由民主党連立政権下の西ドイツにおける、第三代連邦大統領グスタフ・ハイネマン(1969-1974)と彼の歴史政策を考察の対象とした。その背景には、歴史がいかに利用され、歴史家はいかに歴史学の在り方を検討したのかという関心がある。研究成果は以下の通りである。民主主義の定着を課題に諸改革が行われた政治・社会状況下で、歴史家の中には、歴史学の存在意義を問い直し、民主主義への寄与を意識した人々もいた。ハイネマンは、公的な場で過去と批判的に向き合い、歴史を利用して人々の意識に民主主義を根付かせようと図った。民主主義への寄与を意識した歴史家や隣国との教科書対話に取り組む歴史家は、ハイネマンに期待し、彼が主導した取り組み(記念施設の設置や歴史論文コンクールの実施)に協力した。
[第2部]
(3) 安村さくら(ラテンアメリカ科M1・スペイン文化研究)
「フランコ独裁期のカタルーニャにおける音楽文化と映画:映画ロス・タラントス(1963)を中心に」
〈報告概要〉
今回の発表では、1月に提出した卒業論文の紹介をおこなう。フランコ独裁期にスペインのカタルーニャ地方は、文化的な抑圧を中央政府から受けていたことで知られる。この時期に、カタルーニャ人の映画監督によってバルセロナで作られたフラメンコ・ミュージカル映画ロス・タラントスは、中央政府に迎合するために(スペイン全体の表象としての)フラメンコを扱ったプロパガンダ的映画なのか、それとも、カタルーニャにはカタルーニャのフラメンコ文化が存在していて、それを表現しようと意図して作られた映画なのか。この問いを明らかにするために、映画の詳細な分析と、映画の原作となった戯曲との比較や、新聞記事の映画評分析を行った。その結果、この映画は一見すると、フラメンコを利用したスペインのプロモーション映画のようにも見えるが、その奥には、カタルーニャ性が垣間見える作品であることがわかった。
(4) 佐藤龍一郎(フランス科D2・美術史学/中世史)
「献呈図研究:『エノー年代記』を中心に(仮)」
〈報告概要〉
本発表では、『エノー年代記』(ブリュッセル、王立図書館、ms.9242)冒頭に描かれている献呈図を中心に論じた。献呈図とは、写本を中心に9世紀以前より連綿と描かれてきた伝統的な図像であり、テクストの作者あるいは翻訳者がテクストの注文者等に献呈するという場面を描くものを指す。筆者の現在の研究の関心は、ブルゴーニュ公国第2代フィリップから第3代シャルルの治世初期にかけて(1440年代後半~1470年代)、同公国で制作された写本に付された献呈図を、その図像のヴァリエーションから比較検討することにある。ヴァリエーション生成の理由は、そこに注文主の意向を想定できる一方、先行研究で看過されがちであった状況に鑑みて考察に値するからである。そこで本発表では、その出発点として『エノー年代記』献呈図を扱った。この作例の構図などを一つの基準として、その後の当該地域の献呈図は制作されるからである。具体的に本発表では、この作例の献呈図の伝統との連続性と独自性、物質的な観点から観察される事柄、その後の本作のヴァリエーションとみなせる作例との比較などを論じた。また、本作に限らず献呈図研究が、他の図像やひいては文化史的な事柄とどのように関わるか、その射程を考察した。
コメンテーター:
・ミンドンヨプ(アジア科D2)
・児玉真希(北米科D3)
司会:
相田豊(中南米科D1)