第22回 地域院生勉強会
テーマ:修士1年による修士論文計画発表会日時:2016年7月24日(日) 14時00分~16時30分
場所:18号館2階院生作業室
発表者・発表題目:
1. 田中 雄大(超域文化科学専攻 表象文化論)
「上海モダニズムから中国モダニティへ――作家・穆時英を如何なる議論に位置付けるのか」
本発表では上海モダニズムおよびその代表的な作家である穆時英についてのごく簡単な前提知識を共有したうえで、彼のテクストを分析する上でのジレンマの存在を示し、その具体的な解決の方向性を検討した。穆時英に関する先行研究では作家論や都市論などの大きな議論ばかりが目立ち、具体的なテクストの分析はおろそかにされてきた。しかしその一方で、単にテクストの詳細な分析を行うのみでは研究としての重要性を確保できず、かえって既存の研究に回収されてしまうことになりかねない。そうした状況で可能性として見出しうるのが、モダニズム文学を中国近代文学史における単なる例外として片づけてしまう方法ではなく、あくまで主流の文学とは異なる形でのモダニティを顕現しているのだという観点に基づいた研究なのではないかという暫定的な結論を提示した。
2. 照井 敬夫(地域文化研究専攻 イギリス科)
「BFIとイギリス映画産業 20世紀イギリス映画政策の歴史的経路分析」
3. 応 婧超(地域文化研究専攻 アジア科)
「国家建設という文脈における中国の愛国主義」
これまでは中国の愛国主義教育を、日中関係や政権維持、それから若者の受け止め方などの視点から考えてきたが、修士論文ではさらに一歩を引いて、中国における愛国主義とはそもそも何なのかを、近代化論と国民国家論という枠組みの中で理解し直したいと考える。その上で、本来国民統合が目的であるはずの愛国主義教育は、現在の党国体制のもとではかえって国民の対立を深めているのではないかという仮説を、言説分析を通じて具体的に検証したい。
4. 堀江 郁智(地域文化研究専攻 フランス科)
「ジルベール・シモンドンの個体化論における心理的個体化について ――ピエール・ジャネ『心理学的自動症』からの逆照射――」
本発表は、地域文化研究専攻で提出予定の修士論文の研究計画の発表である。修士論文では、20世紀フランスの哲学者ジルベール・シモンドン(1924-1989)の議論を、とりわけその心理的(・社会的)なレベルの個体化論を描出することを目的とする。本研究の意義に関しては、これまで技術の哲学者としての側面が強調されることの多かったシモンドンの議論を、彼の後半生における心理学者としての経歴に即した理解へと開くという点が挙げられる。具体的には、シモンドンの個体化論では「位相の多元論」といって、個体が複数ある位相のうちの一つに過ぎないという立場が取られている。この「位相の多元論」を、フランスの精神科医・哲学者のピエール・ジャネ(1859-1947)が着目していた心理学的解離の現象に応用することで、「潜在意識」の次元における「触発-情動性」の量子論的な再組織化による「人格化」の経験的記述が可能になると発表者は考える。