Kang  LEE
      李 ガン  

文化財を保存し、本来の状態のまま守っていくことは現代を生きる我々の責務でもありますが、 森羅万象のどれもいずれは消滅するのと同じように、文化財も物質で構成されている以上、時間とともに劣化していきます。そこで、多様な文化財の素材 (金属、木材、石、紙、漆、絹、合成樹脂など)に対して自然科学的手法を用いてなぜ劣化が起きるのか、その原因を探究し、保存修復に使用する材料や技術を科学的に評価し、開発または改良していくことで文化財の寿命を最大限に延ばす必要があります。 

Check!
今研究していること

酸性劣化した図書資料など、多種の脆弱な紙資料を長期間保存するためには、紙の自然劣化を再現できる加速劣化試験法に基づき紙の寿命を定量的に予測しなければなりません。劣化速度が正確に予測できれば、閲覧に耐えうる強度を維持できる期間が分かるため、個別の管理が可能となり、保存のためのコストも大幅に削減することを期待できます。


装こう文化財の長期保存方法を確立することを目的に紙を基底材とする掛軸を想定し、掛軸の画面となる本紙のみならず、本紙と裏打ち紙が一体となった複合体を対象に本紙と裏打ち紙の間で生じる劣化反応とその原因物質、及び劣化生成物質の移動も考慮に入れた劣化機構を解明しています。


津波や洪水などの災害により紙資料にも水損などで莫大な被害が生じますが、被災した紙資料の救出活動や修復作業が行われます。その際、特に水損した紙資料の場合、水濡れ、海水塩分の浸透による被害が懸念されるため、海水で被災した紙資料中の塩分が紙に具体的にどのような影響を与えるかについて検討し、水洗による紙中の塩類の洗浄効果及び紙の保存性を評価しています。

Interest
特に興味があるのは、酸性図書の劣化と和紙の活用

和紙の製造に使用される材料や製造技術の改良に関する研究課題は、東アジア諸国同士で接点を持っており、また、酸性紙問題に関しても欧米のみならず日本国内でも深刻な課題となっています。酸性紙の保存修復の際には耐久性の高い和紙を使用するケースが多いため、国際的な接点をもって協力しなければならず、専門性を基盤とした研究ネットワークを構築して研究活動を進めていきたいと思います。 


Message
受験生へのメッセージ

文化財保存科学の分野は学際的な学問を追求しなければならない総合科学として位置づけられているため、学問の多様な角度から文化財保存に関する理解を深め、保存科学の現場で活躍できる人材になってほしいです。 研究室はただテクニックを習得する場ではなく、常に「なぜ」を問いかけ、ディスカッションを通して自ら答えを探る力を養う必要があります。その中で新しい発見ができるようにバックアップしていきます。

成功」の第一歩は「失敗」することである

発明家であるチャールズ・ケタリングは「999回失敗しても、1回うまくいけばいい。それが発明家だ。失敗は、うまくいくための練習だと考えている」と述べています。

研究においても同じことが言えます。999回の失敗を楽しんでください。それは失敗ではなく、うまくいかない999通りの方法を発見したのです。必ずそこから得るものがあり、次のステップが見え、貴重な成果へつながります。

Books
おすすめの本と理由

★沢田正明「文化財保存科学ノート」1997 ★岡田文男「文化財のための保存科学入門」2002

歴史や考古学が好きだった中学2年生の私に親から「文化財を治すお医者さんがいる」という話を初めて聞きました。保存科学という新しい領域に好奇心が湧いていた頃、韓国のある博物館の企画展で、このシルクロード壁画や油絵は日本の東京藝術大学の研究グループが科学的調査や保存処理をしたとか、この古い巻子本は岡墨光堂で修理をしたなどと情報を接し、その他にもきっかけは色々ありましたが、保存科学を学ぶためには東京藝術大学を目標にしないといけないと思って買ったのが沢田先生の著書です。中学生にとってはとても難しい内容の専門書でしたが、それから5年後、東京学芸大学での入試に備えて上記2冊の本を何度も精読して勉強した覚えがあります。自分の博士課程が終わる頃、沢田先生を藝大でお会いした時に著書にいただいた記念サイン一筆は常に研究の良いモチベーションになっています

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