Minoru Maeda
前田 稔

私は図書館情報学を研究しています。図書館情報学は、時代の流れの中で日々大きく変化している領域です。たとえば、インターネットやスマートフォンの利活用によって、学校教育も含め、社会は今まさに変革の時を迎えています。

しかし、私の研究したいことは、そのような表面的な事象ではありません。我々人間の本質を解明したいということです。人が、自由になり、互いに心と心を通いわせることの重要性や、そのような空間をどのようにして創出していくべきなのかという点について興味があります。

Background
研究の動機

研究の発端となったのは、アメリカのパブリック・フォーラム論という考え方です。これは、連邦最高裁判所の裁判例を通じて築き上げられた、表現の自由や思想の自由における、弱者を保護する法理になります。道路や公園が伝統的なパブリック・フォーラムであるとして、社会的弱者の意思表明・団結の場所として使われてきたことを重視して、権利を強く保障してきました。それが発展して、図書館についてもフォーラムであるという考え方が定着しています。

日本はアメリカと事情が異なる点も多いですが、最高裁判所も、公共図書館を公的な公正の場であるとしており、恣意的な蔵書廃棄に対して法の趣旨に反すると考えているようです。

Check!
いま研究していること

このように、パブリックフォーラム論は、公共図書館があらゆる考え方に対して開かれた(オープンな)場であるということを示すもので、ある意味では、あらゆる考えを平等に扱うことで解決する面も多いといえますが、学校図書館の場合は、学校教育という指向性をもった営みであるために、事情がもっと複雑です。
また、学校教育においては、学校や教育委員会、自治体の裁量、つまり、どのように判断してもいいという範囲が広い、特定の図書が教育システム内の学校図書館にふさわしいか否かは誰にも判断できない面も大きいため、パブリック・フォーラム論の趣旨を生かせる学びの場を実現することは、裁判所の力をもってしても困難な状況です。

Interest
特に興味があるのは、学校図書館

そこで、鍵になるのが、現在の教育現場が、概念的な知識を生涯を通じて深めていくことを重視した方向に変化しているという点です。たとえば、重力という言葉は、教科書を読んだだけですべてを把握することはできません。実験をしたり、ニュートンの伝記を読んだり、映像を見て宇宙に思いをめぐらせたりするこで、少しずつ重力という概念への理解が深められていきます。
したがって、単に学校教育に多様性があることが望ましいというだけではなく、これからの教育では、今よりももっと、様々な種類の物事、もっというと、人間の心が生み出した所産に触れていくことが、教育の根幹に関わる大事になると考えています。人間は学ぶことが大好きな生き物です。
教育の一つの役割は、学ぶことを阻む仕組みや、子供たちが自分自身を規定し妨害してしまう要因を取り除き、自由に生き生きと人格を発展できるような環境づくりを、どのようにしたら実現できるのかということに興味があります。


Success and Failure
人生一番の挫折と成功

法解釈学は挫折体験!

私はもともとは、法律学を学んでいました。
これは特に法解釈学にいえるのですが、すでに過去に起こった争いの裁判事例を分析する学問なので、未来を創出していく余地があまりない点で、限界を感じました。

成功の第一歩は未来志向の教育学だった

アメリカには学校図書館に関する裁判例がたくさんあることに気づき、それぞれの裁判官の意見が、未来を形作る方向で示されていることがわかり、もっと知りたくなって、今に至ります。
このような考え方を教育学、特に未来の子どもたちを育む場づくりに関する学校図書館学と組み合わせることが今はとても楽しいばかりです。

Books
おすすめの本と理由

それはもちろん、私の書いた、前田稔・堀川照代『学校図書館サービス論』放送大学教育振興会です。東京学芸大学の附属学校の学校司書の方々が作成している「学校図書館活用データベース」と連動しながら、理論面・実践面のどちらも学べる本として企図しています。

とはいえ、一番おすすめなのは、まずは絵本です。絵本は小さい子供だけのものではありません。絵も文も心血注いで作られた宝物です。また、図書館にいったら、児童書コーナーに行ってみてください。大人の我々でも楽しめるすばらしい本がたくさんあります。

絵本以外にも、特に最近は、児童文学だけでなく、知識の本と呼ばれる、難しいことをわかりやすく書かれている素晴らしい本がたくさんあります。

また、中高生向けのヤングアダルト図書(YA)も見てください。これからの人生を考えている人向けの本がたくさん出版されています。迷ったら光が見えてくる、それ図書館です。

Be Suitable for...
図書館学が向いている人

学校図書館学が向いている人は、好奇心旺盛な人です。向上心があることにも向いていると思います。子どもたちが、今よりも一歩でも二歩でも、いい本に出合って、自らの力で成長していくことへの支援に喜びを感じられることが基本的な資質になるでしょう。

何もかも未来が見通せるのであれば、探究の営みはあまり意味を持ちません。理解できない事象や、不安な気持ちに立ち向かう勇気のひとつが探究心です。世の中は正解のないことだらけ。でも、必ず真理は存在すると信じられる人、真理に容易には近づけないからといって、あきらめたり逃げたりすることのない人が、図書館学に向いていると思います。

Have a Dream
もっと極めたい これからの夢・野望

もう一度初心に帰って、学校図書館に関する、アメリカの裁判例を振り返りながら、日本における図書館の自由理論をさらに発展させることができたらいいですね。アメリカ図書館協会は、図書館について、情報や思想のひろば(all libraries are forums for information and ideas)と定義しています。本を物体ととらえずに、人間の心そのものであるということを、いかに、教育理論に反映させていくかという点に注力したいです。


Message
受験生へのメッセージ

大学生活は楽しいです。生き方の幅を広げることができます。学問との出会いや人とのかかわりの中で、長い人生の基礎を作る大事な時期です。生涯学習・文化遺産教育コースでは、変化していく社会に対応できる、柔軟かつ本質的な思考力を大事にしています。そのためには、まずは常に自分を見つめ、社会とのかかわりの中で自分がどのように生かされていくのかをゆったりと想像することが、できるようになってほしいと願っています。

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