Nanami A (2025) Anvil use by the bird wrasse, Gomphosus varius, on an Okinawan coral reef. Marine Biodiversity 55:55
エサが大きすぎて呑みこめない、あるいは固すぎてかみ砕けない場合、そのエサを岩に叩きつけて砕いて食べる行動を示す生物がいます。この「エサを岩に叩きつけて砕く行動」は、 生態学の専門用語で“金床利用”(英語ではAnvil use)とよばれ、その生物が高度な知能を持つ可能性として注目されています。
陸上の生物では、霊長類や鳥類が“金床利用”を示します。一方で、水中の生物では、近年、ベラの仲間による“金床利用”が報告され始めました。これまでの報告では、(クギベラ属ではない)9属のベラの仲間から“金床利用”が報告されていますが、“金床利用”の進化の道筋を検討するためには、さらに多くの知見を集める必要があります。
私は、幸運にも、クギベラの“金床利用”を発見し、動画撮影することに成功しました。クギベラの“金床利用”は、世界初の発見となります。
以下に、行動の一連をまとめます。
① クギベラがカニを口にくわえ、丸呑みできない状態で遊泳していた。
② その後、口にくわえたカニを岩や死滅したサンゴに9回叩きつけた。その結果、カニは砕かれ、クギベラはカニを呑みこむことができた。
③ 叩きつけ行動は15秒間続いた。9回のうち、7回は詳細な行動を記録できた(他の2回は岩陰で行われたため、詳細は観察できなかった)。
④ 観察できた7回中、6回は頭部を右から左に動かしていた。すなわち、クギベラがエサを叩きつける際に、一定の方向に頭部を動かす傾向(“利き”の傾向)があると考えられた。
サンゴ礁には多くの種類のベラの仲間が生息していますが、クギベラは口が極端に突出しており、他のベラとは形態的特徴が大きく異なります。そのため、他のベラと比べると、エサを丸呑みしたり、かみ砕いたりすることは得意ではないと考えられます。クギベラの“金床利用”は、そのままでは丸呑みできないほどサイズが大きく、かつ固いエサを食べるために進化した行動かもしれません。
私は、大学院生の頃に、幸運にもクラカケベラが寝床をつくる行動を発見しました。今回は、さらなる幸運によって、クギベラの“金床利用”を発見できました。2回も幸運に巡り合わせてくれた神様に感謝!です!