ナミハタは どれぐらい遠くから産卵場にやってくる?

Nanami A, Ohta I, Sato T (2015)

Estimation of spawning migration distance of the white-streaked grouper

(Epinephelus ongus) in an Okinawan coral reef system using conventional

tag-and-release.

Environmental Biology of Fishes 98: 1387-1397

サンゴ礁にすむ魚には、産卵の時だけ特定の場所に集まって産卵する種類がいます。産卵のためだけに集まる群れのことを「産卵集群」といいます。しかし産卵集群を漁獲することで、その魚の数が年々減少していくことが知られており、世界中のサンゴ礁で懸念されています。産卵集群を漁獲する影響を明らかにするためには様々なことを調べる必要があります。その一つに「移動距離の推定」があります。

ナミハタはサンゴ礁にすむハタ科の魚で、産卵集群をつくることが知られています。ナミハタの産卵移動の距離を調べるために、1500匹以上のナミハタに、番号付きの標識をとりつけて追跡しました(ナミハタに1匹ずつ「名札」をつけていることになります)。

標識を付けたナミハタの写真。標識には4ケタの数字が書かれています(数字は1匹ずつ違います)

その結果、以下のことがわかりました。

①ナミハタの移動距離は、平均して5.2 kmだった。

②移動距離の最高記録は、8.8 km(全長30.5cmのオスのナミハタ)だった。

③産卵時期ではない時に同じサンゴに暮らしている仲間同士に標識を付けたところ、産卵場ではお互いに離れて見つかった。

④産卵場で隣同士のナミハタ達に標識を付け、産卵が終わった後の分布を調べた結果、お互いに別々に離れた海域で見つかった。

結果①について。ナミハタの産卵集群を漁獲するということは、産卵場周辺の数kmの範囲のナミハタを短期間で漁獲することに相当することがわかりました。

結果②について。これを人間に例えてみます。日本人成人男子の平均身長はおよそ171cmですので、人間に例えると(171÷30.5) x 8.8 = 49.3km の移動をしているということになりました。何も持たない状況で泳いで移動することを考えたら、かなりの移動距離だと思いますが、いかがでしょうか。

結果③について。普段1カ所に集まっているナミハタ達は、何らかの結びつきのある仲間同士に思えるのですが、産卵に関しては他人同士ということになります。

結果④について。産卵場では、隣同士のオスとメスがペアを組んで産卵します(こちらを参照)。しかし、産卵の時にペアを組む相手は、普段はお互いに離れた場所で暮らしているということになります。不思議ですね。

(お世話になった方々へのお礼)

この研究は、海人の方々から、標識のついたナミハタが捕まった場所と日付を教えていただいたため、成果として形になったものです。標識がついたナミハタを快く提供してくださった海人の方々に、心より感謝致します。