サンゴ礁にくらすナミハタのなわばりと帰巣性

Nanami A, Mitamura H, Sato T, Yamaguchi T, Yamamoto K, Kawabe R, Soyano K,

Arai N, Kawabata Y (2018)

Diel variation in home range size and precise returning ability after spawning

migration of a coral reef grouper Epinephelus ongus: implications for effective

marine protected area design.

Marine Ecology Progress Series 606:119-132

海洋保護区とは、明確な境界線で囲まれた海域のことで、保護区の中の生き物を守るためのものです。保護区の中の生き物を確実に守るためには、①保護したい生き物の行動範囲を正確に知った上で、②その生き物が住み場所を頻繁に変えず、一定の場所に留まる傾向があることを調べる必要があります。

その理由として、少なくとも以下の2つの理由が挙げられます。

①生き物の行動範囲と比べて、保護区の面積が小さすぎると、その生き物が保護区の外側で活動する確率が高くなり、結果として保護区の外側で捕獲される可能性がある

②頻繁に住み場所を変える生き物の場合、海洋保護区の場所や広さを決めることが困難になる

従って、対象となる生き物の行動特性をしっかり把握しておくことが必要です。

サンゴ礁にくらすナミハタは、肉食性の魚類です。一般に肉食性の魚類は夜行性といわれていますが、日中と夜間の行動を実際に調べることは簡単ではありません。

また、ナミハタは産卵時期に特定の産卵場へ移動することが知られています。産卵を終えた後に、元の住み場所に戻る可能性が示唆されていましたが(Nanami et al. 2014 詳細はこちら)、「どれだけ正確に戻ってこれるのか?」という疑問は残されたままでした。

そこで、小型の発信機をナミハタにとりつけて追跡する研究を行いました。検証する仮説は以下の2つです。

(1)ナミハタの活動は昼夜で異なる。

(2)産卵した後、もとの住み場所に戻ってくる。

結果(1)夜間のなわばりは昼間より広い。

結果(2)ナミハタは産卵場で産卵した後、自分が元々住んでいたサンゴに正確に戻ってくることができる。

これらの結果からいえることをまとめます。

①ナミハタの普段の住み場所を海洋保護区にする場合、夜間の行動範囲を元に広さを設定する必要がある。

②産卵場へ大移動した後でも、元の場所に確実に戻ってくるので、普段の住み場所でナミハタを確実に守ることは、理にかなった方法である。

③普段の住み場所と産卵場を行き来できるよう、普段の住み場所だけでなく、産卵場への移動ルートも守ることが望ましい。