チョウチョウウオ類が摂餌場所として好むサンゴを特定
Nanami A (2020)
Spatial distribution and feeding substrate of butterflyfishes (family Chaetodontidae) on an Okinawan coral reef
PeerJ 8:e9666
サンゴ礁の魚にとって、サンゴは大切な役割を果たしています。特に、複雑な形をもつサンゴ(枝状サンゴなど)は魚の隠れ家・ねぐらとして重要であると考えられてきました。
一方で「摂餌場所(エサをとる場所)としての価値が高いサンゴは?」という疑問が残ります。たとえば、アミメフエダイという肉食性の魚は、枝状サンゴにすむ小魚などを食べることがわかっています(Nanami & Yamada 2008b 詳細はこちら)。
チョウチョウウオの仲間には、サンゴのポリプを食べる種類がいます。チョウチョウウオの仲間にとって、サンゴであればどんな種類でも構わないのでしょうか?あるいは、ある特定のサンゴを選んでいるのでしょうか?この疑問を解明するため、チョウチョウウオの仲間のうち、14種を選んで摂餌行動を観察してみました。
観察した14種は以下の通りです。
①サンゴのポリプだけを食べる7種
②サンゴのポリプ+小動物(ゴカイの仲間など)を食べる6類
③小動物(ゴカイの仲間など)を食べる1類
結果①:サンゴのポリプだけを食べる7種
解析した結果、摂餌場所として好むサンゴ(※)は以下のとおりでした。
ミカドチョウチョウウオ
テーブル状ミドリイシ・コリンボース状ミドリイシ・塊状サンゴ
ウミヅキチョウチョウウオ・ミスジチョウチョウウオ・スミツキトノサマダイ・シチセンチョウチョウウオ
被覆状サンゴ・塊状サンゴ
ハナグロチョウチョウウオ
コリンボース状ミドリイシ・被覆状サンゴ
ヤリカタギ
テーブル状ミドリイシ・コリンボース状ミドリイシ
テーブル状ミドリイシ・コリンボース状ミドリイシ・被覆状サンゴ・塊状サンゴが摂餌場所として好まれていましたが、好みの度合いは種によってさまざまでした。一方で、枝状のサンゴは摂餌場所として好まれていませんでした。
「サンゴ表面のポリプの食べやすさ」ということを考慮すれば、枝状の形はチョウチョウウオの仲間にとってはポリプを食べにくいのかもしれません。一方で平たい形状のサンゴや丸い形のサンゴのポリプは、食べやすいのかもしれません。
※「好むサンゴ」というのは統計解析の結果「有意な正の選択性を示した」という意味です。他のサンゴについては「有意な正の選択性はみられなかった」ということであり、「他のサンゴのポリプは食べない」ということではありません。詳しくは原著をご覧ください。
結果②:サンゴのポリプ+小動物を食べる6種
ゴマチョウチョウウオ・ミゾレチョウチョウウオ
被覆状サンゴ・塊状サンゴ
セグロチョウチョウウオ
死滅したサンゴ(サンゴが死滅した後、複雑な構造が残っているところ)
カガミチョウチョウウオ・トゲチョウチョウウオ・フウライチョウチョウウオ
特定の場所への選好性はみられなかった
ゴマチョウチョウウオ・ミゾレチョウチョウウオについては被覆状サンゴ・塊状サンゴが摂餌場所として好まれていました。この2種は、小動物よりもサンゴのポリプを好む傾向が強いのかもしれません。
セグロチョウチョウウオは死滅したサンゴを摂餌場所として選んでいました。サンゴが死滅しても複雑な構造が残っている場合は、そこに小動物が住み込んでいるためかもしれません。
のこりの3種については、特定の場所で摂餌する傾向はみられなかったことから、サンゴのポリプや小動物をバランスよく食べているのかもしれません。
結果③:小動物を食べる1種
フエヤッコダイ
特定の場所への選好性はみられなかった。
フエヤッコダイの行動を観察していると、細長い口をサンゴや岩の隙間にいれてエサをとっていました。本種の口は非常に小さいので、サイズの小さい小動物を食べていると考えられます。彼らのエサとなる小動物は、サンゴ礁のいたるところに生息しているのかもしれません。
この研究からわかったこと
一般に、サンゴ礁の保全やサンゴの再生を試みるときには、成長が早く物理的構造が複雑な枝状サンゴが対象となっています。一方で、本研究の結果から、チョウチョウウオの仲間のいくつかの種類は枝状サンゴではないサンゴを摂餌場所として選んでいました。つまり、さまざまな種類やタイプのサンゴも、保全や再生の対象とする必要性が示唆されました。
チョウチョウウオの仲間は種類が多いことにくわえ、姿が美しく、サンゴ礁を彩る魚です。チョウチョウウオの仲間が暮らしていくためには、さまざまな種類のサンゴをバランスよく守っていくことが大切といえるでしょう。