ヒフキアイゴの暮らしぶり:ペア形成に着目した場合
Nanami A (2015)
Pair formation, home range, and spatial variation in density, size and social
st.atus in blotched foxface Siganus unimaculatus on an Okinawan coral
reef.
Peer J 3: e1208
動物にはペアで生活する種類が数多く知られています。ペアで生活する動物の行動は科学的に興味深い研究対象とされてきました。サンゴ礁にすむ魚の場合、チョウチョウウオ•ハゼ•カワハギの仲間などに、オスとメスがペアをつくって生活する種類がいます。
サンゴ礁に暮らすアイゴの仲間にも、ペアをつくる種類がいます。しかし、
①アイゴの場合、ペアはオスとメスのペアなのか?
②ペアはなわばりを持っているのか?
③成長に伴い、いつからペアをつくるのか?
といったことはよくわかっていませんでした。
ヒフキアイゴはその愛らしい姿から水族館などでよくみかける種類です。また、水中写真の対象としても人気があるようです。しかし、行動に関する詳しい生態は知られていませんでした。本研究によって、これまで知られていなかったヒフキアイゴの生態がわかってきました
ヒフキアイゴのペア ヒフキアイゴの幼魚
結果① ほとんどのペアはオス+メスである。
32のペアを捕まえて調べた結果、31ペアはオス+メスのペアでした。しかし、1ペアだけオス+オスのペアでした。オス+メスのペアは1年中みられました。すなわち、卵を産む時期もそうでない時期も、ほとんどのペアは異性ペアでした。
結果② ペアをつくっているオスの大きさとメスの大きさは似ている(体の大きさが似た者同士がペアをつくる)。
結果③ ペアはなわばりをもつ
他のペアが自分のなわばりに侵入したら攻撃して追い出す。なわばり配置の詳細も明らかになった(体の大きさが似ているペア同士のなわばりの重なりは小さく、体の大きさが違うペア同士のなわばりは重なっていた)。
結果④ 水深が違う3つの海域(アマモ場•リーフフラット•礁斜面)を調べた結果、幼魚は礁斜面(水深10-12m)に多かった。成魚はリーフフラット(水深2-4m)に多かった。4cmから6cmの幼魚はほとんどペアをつくらず,7cm以上になるとペアをつくる傾向が高くなった。アマモ場(水深2m以下)には幼魚も成魚も見られなかった。
①について
オスとメスがペアをつくれる状況であれば異性ペアになるようです。しかし、何らかの原因がある場合(例えば、異性のパートナーが見つからない場合)、同性でもペアをつくるのか知れません(単独で行動しない)。このことから、ペアをつくる目的は繁殖だけでなく、なわばり防衛などにも関係する可能性があります。
②について
体の大きさが似た者同士がペアをつくるのは、①オスは「大きなメスとペアを組むことでたくさんの卵を産んでもらう」、②メスは「大きなオスとペアを組むことで、なわばり防衛のパートナーとなってもらう」というオスとメスの双方の利益が満たされるためと考えられます。
③について
ペアをつくるアイゴの仲間がなわばりをもつことは、これが世界初報告となります。また、アイゴの仲間のなわばり配置を明らかにしたのも、本研究が初めてです。
④について
ハワイでは、キイロハギの幼魚は深い場所に多いことが知られています。ヒフキアイゴの場合、深さそのものではなく、深い場所に生息するサンゴの影響の可能性もありますが、いずれにせよ、礁斜面はヒフキアイゴの幼魚のすみ場所として大切でしょう。サンゴ礁の魚で、深い場所に幼魚が多い種類が他にも見つかるかも知れません。
また、7cmの個体はまだ繁殖できないと思いますが、ペアをつくっていました。このことから、ヒフキアイゴがペアをつくる目的は繁殖だけでなく、なわばり防衛などにも関係していると考えられます。