子供の頃から海の生き物にとても興味がありました

物心ついた時に、よく読んでいたのは海の生き物の図鑑でした。小学館から出版されていた「魚貝の図鑑」が大のお気に入りでした(当時のものは、表紙が「ニシキヤッコ」というサンゴ礁の魚の写真でした)。覚えたての平仮名で自分の名前を書き込んだものが、今でも残っています。はじめは家に1冊あったのですが、あまりにも繰り返し読んだためでしょうか、背表紙がとれてページがバラバラになってしまい、全く同じ本を新品で買い直してもらいました。

どちらかと言えば,砂浜の生き物より岩礁の生き物に興味がありました。岩礁の生き物の方が色鮮やかで形も多様だからだと思います。なぜか釣りにはほとんど興味がなく、水中メガネを付けて海の底を覗くのが大好きな子供でした。

大学時代に友人達とダイビングのライセンスを取ったことも、海の生き物を研究したいと思った大きなきっかけでした。

それから色々ありましたが、今は海の生き物を研究することができて、とても幸運だと思っています。

子供時代の記憶をたどると、思い出に残っている生き物がいくつかあります。

①ミズクラゲ

この生き物は図鑑でしか知らなかったのですが、確か6才ぐらいの時に本物をみました。潮溜まりに取り残された2匹のミズクラゲを見つけたとき、「これが図鑑にのっていたヤツだ!」と驚いたことを覚えています。ミズクラゲを眺めている写真が今でもアルバムに残っています。

②フジノハナガイ

小学生の頃に、静岡の砂浜で初めてこの貝を見つけました。「ムラサキやピンクやオレンジの小さな貝がいるな」と気づいたのです。波が打ち寄せるたびに現われては砂に潜ることを繰り返していたので、不思議な貝がいるものだとしばらく眺めていました。それからしばらくして、なんと国語の教科書(小学生4年ぐらいだったかな?)に、フジノハナガイの研究者が、この貝の生態についてわかりやすく解説した文章が教材として掲載されていたのです。当時、自分のクラスで、このフジノハナガイを実際にみた子供は果たして何人いたでしょうか?すごい偶然で、自分が静岡の砂浜でみた貝が授業で登場して感激でした。

③ムラサキウニ

なぜかこの生き物が昔から好きでした。食べる方ではなくて、トゲのある形や色合に興味があった子供だったので「結構変わった子供だったんだなー」と今では思います。ある時、ウニのトゲ付きの殻をもらったのですが、焼酎につけて防腐処理した後、標本にしました。やっぱり変わった小学生だったと思います。

④ムラサキカイメン

なぜ、こんな生き物を覚えていたかというと、このカイメンを剥がしたときに、カイメンの裏側に同じような色をしたカニや貝が隠れていたからです。「生き物の中に別の生き物が住み込んでいる。しかも見つかりにくいように、カイメンと同じ色をしている」という現象に驚きでした。とりわけ「擬態」(生き物が周辺の環境に対応して、みつかりにくい姿をしている)については驚きでした。もちろん、昆虫には「擬態」している種類が結構いることは当時よく知っていましたが、海の生き物で、しかもカイメンと同じ紫色の姿をしているカニや貝がいることに驚いたのです。小学生3年の時だったと思います。

⑤キュウセン

今でこそ、キュウセン属の魚類は性転換の研究材料であることを知っていますが、子供のころは「きれいで、食べられる魚」という印象しかありませんでした。子供のころに水中メガネをつけて岩礁をのぞくと、うすいピンク色のキュウセンのメスが泳いでいて、手モリで突こうとしたものです。泳ぎが速くて、なかなか捕まえることができず、子供なりに考えたのが「餌をばら撒いて、集まったところを突く」というものでした。この作戦はなかなかうまくいき、何匹か捕まえて砂浜で食べたことを覚えています。いま考えてみれば、「なぜメスの数が多く、緑色の派手なオスが少なかったのか」、その訳がわかるのですが、当時はオスを見つけることはできず、不思議におもったものでした。小学生の時にとても仲の良かった友人とその家族に釣りに連れて行ってもらい、その友人がオスのキュウセンを釣って、とても喜んでいたことを覚えています(彼は、キュウセンのオスのことを、"アオベラ"とよんでいました)。懐かしい思い出です。

⑥ルリガイ

これは、子供のころに買ってもらった本格的な貝類の図鑑に写真がのっていたのをみて、貝殻が欲しいと思いました。上品な薄紫色の貝殻だったからです。しかし、大人になるまで本物をみたことがなく、図鑑でみるだけでした。大人になったある日、海岸に大量に打ち上げれているのをみつけ、見事長年の願いがかないました。

⑦ニシキヤッコ

このページの最初にも書きましたが、子供のころに大好きだった「魚貝の図鑑」の表紙に、ニシキヤッコの写真がありました。そのときは「結構大きい魚なんだろうな」と思っていたのです(表紙の写真にうつっている魚の大きさから、勝手に大きさを想像していたのです)。そしてダイビングのライセンスをとって、念願の本物に出会えたのでした。本物は自分の手のひらぐらいの大きさで、子供のころに想像していたような大きい魚ではなかったのですが、やっぱり美しい魚でした!