サンゴとアマモのコラボの効果:魚の子供には"こだわり"がある

Nanami A (2022) Co-occurrence of seagrass vegetation and coral colonies supports a unique fish assemblage: a microhabitat-scale perspective. PeerJ 10: e14466

アマモ場(海草帯)で魚の子供たちが育つことは、世界各地から報告されています。熱帯・亜熱帯の海でも、アマモ場には多種多様な魚の子供が住み着き、そこで育って沖合に旅立っていくことが知られています。


これまでの報告では、アマモ場とは「海草が海底に一面に広がった草原のような場所」として扱われていきました。しかし、アマモ場の中をよくみると、海草の間には、小さいながらもサンゴ・岩・サンゴの死骸が積み重なった瓦礫、など、海草ではない構造物が点在していることがあります。


一方で、魚の子供たちは数センチ程度と小さいことから、小さいサイズのサンゴ・岩・サンゴ瓦礫であっても、住み場所として利用価値があるかもしれません。


そこで本研究では、サンゴのうち、丸い形をした塊状サンゴ(ハマサンゴの仲間)がアマモ場に点在している場所を選び、アマモ場の中のサンゴおよびその周辺に出現する魚を調べてみました。


この研究では「アマモとサンゴの相乗効果」を証明したかったので、以下の4つの条件を設定しました。

(1)アマモと塊状サンゴがセットになっている

(2)アマモだけがある(塊状サンゴはない)

(3)塊状サンゴだけがある(アマモはない)

(4)アマモも塊状サンゴもない(砂地)

なお、(1)と(3)の塊状サンゴの形に大きな違いがないことを(統計解析によって)確かめています。


観察の結果、「(1)アマモとサンゴがセットになっている」場所だけに出現する魚がいました。ヒメフエダイの稚魚とミヤコイシモチです。この2種は、「(2)アマモだけがある」、「(3)サンゴだけがある」、「(4)アマモもサンゴもない」ところでは、ほとんど出現しませんでした。このことは、2種はアマモとサンゴがセットになっている場所を好んでいることを意味します。

これまで、「アマモ場」というと、海草が一面に広がるという「景観的な視点」が主流でした。一方で、アマモ場の中のサンゴが、ある種の魚の子供の成育場になっていたことから、アマモ場の中の小さいサイズの構造物に注目する「ミクロな視点」も必要と考えられました。


本研究によって、「アマモとサンゴの相乗効果」の可能性が示唆されました。もしかしたら、アマモ場の中に小さな構造物を設置してやると、海草だけの状態より多くの魚たちが集まるかもしれません。機会があれば、ぜひ試してみたいと考えています。


(他の魚の出現パターンのいくつかの例は、以下をご参照ください)。