第1章 リサーチダイビングの紹介

サンゴ礁の魚のデータを記録している私(撮影:佐川鉄平さん)

1-1 リサーチダイビングとは?

リサーチとは「調べる」という意味です。ですから、リサーチダイビングとは、海の生き物(※1)を調べるために潜水することです。普通のダイビングはレジャーダイビングとよばれることもありますが、海の生き物をみて楽しむことそのものが目的です。一方、リサーチダイビングは、生き物の暮らしぶり(※2)を詳しく調べ、科学的な記録(データ)を取るために行ないます。また、研究したい生き物を捕まえるときにも潜水という手段を使うことがあり、これもリサーチダイビングとして扱うこととします。

1-2 レジャーダイビングとの違い

レジャーダイビングでは「珍しい生き物をみる」、「他の人が潜ったことのない場所で潜水する」、「深く潜る」、「長く潜り続ける」、「できるだけ多く潜水する」といったことがしばしば目的とされるようですが、リサーチダイビングではこのようなこと自体を目的とはしません。珍しい生き物を探したり、深い場所に潜水することはあっても、目的はあくまでデータを取ることにあります。リサーチダイビングは、潜水することそのものが目的ではなく、科学的なデータを取る手段、あるいは科学的に重要な生き物を採集する手段といえるでしょう。

1-3 リサーチダイビングで調べること

例えば以下のようなことを調べることができます。

①ある場所に、どれくらいの種類の生き物が、何匹ずついるのか?

②ある生き物が好んで使う場所は何か?そこにはどのような特徴があるのか?

③ある生き物が暮らしていくには、どれくらいの面積が必要なのか?

④ある生き物は、いつ、どこで産卵するのか?

この他にも、科学的に興味深いテーマは数多くあります。一つ大切なことは、これらのことを数値でもって表し、客観的な判断ができるようなデータをとることです。

1-4 どんな生き物を調べる?

海の中は様々な生き物で満ちあふれています。魚、エビ、カニ、貝、イカ、タコ、ウミウシ、カイメン、サンゴ、ウミヘビ、ウミガメ、ジュゴン、海藻、プランクトンなど。また、魚といってもたくさんの種類がいて、水中を泳ぎ回る種類もいれば、海底でほとんど動かない種類もいます。自分が調べたい生き物は何か、どのような暮らしぶりを知りたいのか、調査の目的によって研究の方法は変わってきます。また、潜水という手段で調べやすい種類と、調べにくい種類がいます。

興味のある生き物を調べる場合、図鑑•本•学術論文•報告書などを読み、事前にある程度の知識を得ておくと役にたちます。そこに記された調査の方法なども大変に参考になります。

それでは、第2章から第13章まで、リサーチダイビングに必要な道具•技術•知識をご紹介していきましょう。

(※1)専門用語で海洋生物とよばれます。ここでは「海の生き物」という表現を使うことにします。

(※2)専門用語で生態学(エコロジー: Ecology)とよばれます。観察や実験などによって、生き物が暮らしている様子を調べる学問です。ここでは「暮らしぶり」という表現を使うことにします。海の生き物の暮らしぶりを扱う学問を海洋生態学(マリンエコロジー: Marine Ecology)といいます。