番外編(ゲームパッド)

PS2Uの制作で最も難航したのがゲームパッドの移植工程です。現物合わせでパッドを移植で10個以上は購入したと申し上げた通り、失敗しては買うことを繰り返しては、いっそアナログ式のDualShock2をやめてデジタル式のDualShockにしてしまおうと幾度となく思いました。しかし、どうしても世にあるPS2携帯機との差別化を図りたかったのと、ジャンク品が300円程度と手ごろなので「次こそは」とあきらめがつきにくかったのも手伝って、とうとう移植に成功したときは、達成感とか嬉しいという感情ではなく、やっと終わったという解放感だったことを覚えています。

本編の内容と重複する部分がありますが、この番外編ではその紆余曲折の珍道中をご覧ください。

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分解

パッドの背面側のネジ6本を外し、背面側ケースを取り外します。

パッド左右の持ち手部分に振動モータが2つ入っています。画像のようにモータの軸の先に円盤が半分に欠けたような羽が付いていて、モータが回転した際の遠心力で振動を発生させています。今回、この振動機能は使いませんでした。振動は確実に機械の寿命を縮めます。

羽の枚数が左右で違い、二つの異なる振動を発生させています。これが「デュアル」の由来でしょうから、「DualShock2を移植」などと言うのは本当のところ語弊があると言わざるを得ません。

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背面ケースを外したら、まず初めに基板を取り出します。基板には2つの振動モータがハンダ付けされているので、それもハンダごてを使って外します。

基板にはプレイヤからの入力を処理してPS2へ送信するためのマイクロチップやアナログスティックの軸となる部品などが搭載されています。

ここではこの基板を「マイクロ基板」と呼ぶことにします。

このマイクロ基板とフィルム基板との接続は、パッドの背面側ケースをネジで締めたときにケースで基板同士の圧着する方法です(最初の画像参照)。とても合理的ですが、構造的依存性が高い接続方法のため移植に際しては多少厄介です。

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フィルム基板です。部品を調達で触れたようにすべてのアナログボタンの箇所は数kΩの抵抗素子の膜(以下、抵抗膜)でショートしています。

この基板をPS2Uの筐体に合わせるための延伸加工を施さなくてはなりません。一般的なプリント基板だったらハンダ付けできるので、切ってジャンパ線で繋ぐ方法が適用できますが、このフィルム基板はハンダごてを当てると配線ごと溶けてしまいます。

延伸加工の方法が最大の課題でした。

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このタイプでは、先ほどの緑色のフィルム基板の下に、ボタン部分に穴の開いたただの透明フィルムがあり、さらにその下に画像のようなフィルム基板が入っています。2枚のフィルム基板で真ん中の透明フィルムを挟み、フィルム基板同士にわずかな隙間を作っている構造です。一番下のものは抵抗膜がプリントされているだけです。ボタンを押したときに抵抗膜同士が接触し、その接触面積が増えれば増えるほど(ボタンを強く押せば押すほど)抵抗値が少なくなるという理屈です。その抵抗値の増減を検出して入力の強弱を判定しています。

フィルム基板なので画像のように白いプラスチックの土台で保持しています。この土台はボタン部分が溝になっているため、画像のフィルム基板は一段落ち込んだ状態になっています。ボタンを押したことによるフィルムの「しなり」で抵抗膜同士を接触させています。

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中古品を分解したらまず洗浄です。それにしてもジャンク品とは思えないほどきれいな個体でした。ケースは少しすり減った感じでしたがボタンやゴム、スティックカバーなどはまるで新品のようなマット地で使用感がほとんどありません。前の持ち主がボタンやゴムだけ交換したのでしょうか。

しかし、アナログスティックの軸が渋くなっていたのでジャンク扱いでした。これを直そうと簡単な部品だけ交換してみたものの、結局直らずにハードオフに売った・・といったところでしょうか。

不可解なコンディションですが、ともかくきれいなパーツが手に入ってラッキーでした。

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土台制作

白いプラスチックの土台を加工します。LとRの部分は使うので保管しておきます。モータ部分のフレームや土台の裏のでっぱりなどを撤去して平らに加工しました。

前述のボタン部分がわずかに溝になっている事がお分かりいただけるでしょうか。

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土台を分割し、PS2U筐体に固定するためのプラ板に両面テープで固定します。微調整が必要なので接着剤は使いませんでした。

(画像が見つからなくて、加工が進んだものになっています。)

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次に緑のフィルム基板を、これも中央から2つに切って位置決めをします。

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筐体に合わせ、真上からのぞきながら位置の微調整を繰り返します。

一から十まで現物合わせです。

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失敗続きの延伸工程

次は延伸するために真っ二つに切ったフィルム基板の導通性の物質の配線(導膜線と呼ぶことにします)のパターンをむき出しにします。カッターの腹で慎重に緑色のラバー質のコーティングを剥がしていきます。コーティングと共に導膜線まで剥がしてしまってはいけませんので、画像のようにキズミで確認しながらの細かい作業です。

それでもパターンが少しずつ削れ落ちてしまい、ただでさえ細いパターンがどんどん痩せていきます。

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そうやって何とかむき出しにした動膜線のパターン上に細い銅線を置きます。

銅線を切ってまっすぐに伸ばし、パターンの上に置いて、少量の接着剤をちょんちょんと置く感じです。これを一本一本行いますが、作業中に隣の銅線に触れたりするとあっさりとパターンから浮いたり外れたりします。

こんなの上手くいくのか・・。という絶望感に包まれながらの作業です。

なんとか銅線の作業を終え、接着剤が乾いたら上からテープで保護します。

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土台に戻し、フィルム基板と銅線を圧着するための抑え板を取り付けます。土台と抑え板には薄いゴムシートを敷き接地状態のバラつきを少なくする工夫をしました。

テスタで結線を確認しながらネジを締め込んでいきます。締め込みのちょっとした加減でテスタの針が触れます。こっちを締めるとあっちが立たず、あっちを締めるとこっちが立たず、といった状況です。

同じものをもう一つ作って試しましたが、結果は同じでうまくいきません。とても運用には耐えられないので失敗です。

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銅線をやめて、今度はキッチン用のアルミホイルでやってみました。

アルミホイルを糸状に切るのは至難の技でした。細すぎるとすぐ切れるし、ちょっと太めだと隣のパターンに干渉してしまいます。

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アルミホイルバージョンの完成です。

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テープで封をする前にキズミで確認したところです。

テスタで隣同士の配線の干渉や、アルミホイルが切れていないかを確認します。

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アルミホイルバージョンのパッド全体です。抑え板のネジ数を4本から7本に増やし抑え個所のトルクのバラつき改善を図りました。銅線バージョン同様テスタで接続状況を確認しながら締めていくと、一応、ある範囲ですべての接続を確認できました。

これをPS2につないでテストします。するとパッドが誤動作をします。抑えのネジを調整すると誤動作が止まります。しかし、しばらくしてまた接続してテストすると再び誤動作。これの繰り返しでまったく安定しません。

そんなことを繰り返していると、ついにはネジを調整しても誤動作が止まらなくなりました。誤動作は特定のボタンが押しっぱなしにされるという現象です。

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振り出しに戻されてしまいました。分解して原因を調査すると、おかしなことにフィルム基板内で導膜線が断線しています。何が何だかわかりませんでしたが、原因は腐食(それとも炭化?)でしょうか。

画像のフィルム基板はちょっとタイプの違うものですが、導膜線がところどころ黒ずんでいるのがお分かりいただけるでしょうか。

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反対側から見たところ、黒ずんでいる個所は目視できません。

どうやら、だらだらとトライアンドエラーを重ねているうちにコーティング側から導膜線の酸化が進んでしまうようです。コーティングしてあるのに腐食とは、もはやどうにもなりません。もしかして、テスターを使った導通検査で導膜線がダメージを受けたのか・・?それとも誤動作を重ねすぎてマイクロチップがイカれて大きな電流が流れてしまったのか・・?ではマイクロ基板ももうだめなのか・・。五里霧中です。

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ともかく手早くやらないと導膜線がダメになってしまう、ということは分かりました。コーティングを削ってパターンをむき出しにしている個所はなおさら腐食が早いです。

「手早く」を意識して作業しますが、アルミホイルを使ったものは銅線よりはましなものの、今一つ安定性に欠けやはり誤動作してます。次々と作りますが、どれもこれもうまくいきません。

一つの疑問が生じました。

配線の接続が不安定なのはともかくとして

なぜ、配線同士の干渉が無いのに

「ボタンが効かなくなる」ではなく

「誤動作する」なのか。

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わけが分からず、残骸だけが増えていきます。

理解のある妻も、何だかかわいそうな捨て犬を見るような目です。

そんな試行錯誤の中、正常だったパッドからマイクロ基板だけを接続してPS2を起動してみたところ、例の特定のボタンだけが押しっぱなしになる誤動作が再現されました。フィルム基板は接続していません。

「フィルム基板を接続してないってことは何も押されていない状態なんじゃないの?なぜ?・・あっ」と、ここにきてようやく気が付きました。

フィルム基板は配線だけではありません。抵抗も載っているのです。再三、得意げにアナログボタンの仕組みを解説している通り、すべてのアナログボタンは抵抗膜を介してショートしているわけです。フィルム基板上で。

つまりフィルム基板も抵抗器を担うコンピュータの一部ですから、断線してしまったり、取っ払ってしまったりすれば誤動作するのは当たり前なのです。

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ここからはあくまで仮説になりますが、

「断線=ボタンが効かないだけ」では済まず、

「断線=抵抗値が無限大になり制御できなくなる」ではないでしょうか。

では、「制御」とはいったい何かというと「初期化」です。パッドが接続され電源が入った時にマイクロチップ内で初期化が行われます。各ボタンの抵抗膜の抵抗値を調べ、その抵抗値を「ボタンの押されていない状態」の値として認識するわけです。ところが起動時に一か所でも断線していると抵抗値は無限大ですから上手く認識できずに結果、誤動作してしまうのではないでしょうか。

もし、その誤動作中に接続を回復(抵抗値を検出)できれば、そこで初期化され正常動作に移行することができるようです。

では、初期化を正常に終えた後に断線するとどうでしょう。結果は「断線個所の入力ができなくなる」です。「ボタンが押されていない状態」の抵抗値さえ検出できれば、あとは抵抗値が無限大になろうと誤動作はしません。断線していて効かないだけです。(ゲームプレイ中に断線するとか回復するとか、そんな機械では話になりませんが。)

くどいようですが、これは仮説です。PS2の開発エンジニアが見たら鼻で笑ってしまうような内容かもしれませんが、無知ゆえにこの仮説を得るためにずいぶんと時間を費やしてしまいました。

さすがにPS2のゲームパッドについて、このような内容のwebページなどを発見できなかったので、せめて誰かの何かの参考になればと思い恥を忍んで書かせていただいた次第です。

いずれにせよ、一瞬の断線も許されず、最初から最後まで接続状態の安定を確保しなければならないという当たり前過ぎる結論に回帰しました。

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閑話

話が本題から逸れますが、 DualShock2にはたくさんバリエーションがあります。ロットの違いなのか生産工場の違いなのか分かりませんが、外観からの判別は少なくとも私にはできませんでした。

例えば画像のフィルム基板は私が買った中でもかなりのレアものです。全面が緑色のコーティングで覆われていて、このホームページで説明しているようなフィルム基板2枚のタイプではなく、1枚です。もう一方の抵抗膜はボタンゴムに直接付いています。

これと同じ構造ですが、コーティングが全面ではないバージョンもありました。

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このバージョンのスゴいところはマイクロ基板とフィルム基板との接続に差し込みタイプのコネクタが採用されていることです。ケースで挟んで圧着するタイプよりも高コストな感じです。

このタイプだったらいくらか加工が楽そうですが、10個買ったうちの2個だけでした。

このほかにもマイクロ基板の配線パターンが異なっていたり、後付けのジャンパ線が施してあったり、中には基板が大きめでアナログスティックの軸の向きが違うものまで様々でした。

見た目は全く同じでも、抵抗値はフィルム基板によって違いました。実際の抵抗値は覚えていないのですが、

フィルム基板A:すべてのボタンの抵抗値が4kΩくらい

フィルム基板B:すべてのボタンの抵抗値が2KΩくらい

という具合です。

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改めて接続の方法を考える

では、話を本題に戻します。

延伸部分の接触の不安定さがパッドの誤動作を引き起こしていたことが分かったところで、改めて堅牢な接続方法を用いなければなりません。ここでようやく秘めていた方法を使う決心をしました。生基板のエッチングによる自作基板の製作です。やったことが無く未知の領域だったので手をこまねいていました。

基板を用いることによる接点土台の堅牢さに加え、抑え板をプラ板ではなく太めのアルミ材を使うことで、反りのないこれまた堅牢な抑え板にします。

この頃にはフィルム基板のコーティングをはがすのも職人級の腕前になっていました。

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エッチング

秋葉原の千石電商まで出かけて生基板とエッチング道具を購入しました。マッキーを使ったエッチング方法がお手軽そうだったので青マッキーをホームセンターで購入しました。

ここは本編で紹介した通り、生基板を切り出し配線パターンをマッキーで書き込みます。狭いピッチの部分が難しく、筆圧をコントロールするのに苦労しました。ずれたりはみ出したら無水エタノールで消せましたが、隣のパターンも消えたり滲んだりするので初めからやり直すことになります。

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ひとまず、納得のいく線が引けたのでエッチングを開始しました。とりあえず半分、エッチング液につけて揺らしたりすること十数分、基板の下地が見えてきました。マッキーの下の銅はきちんと解けずに残っているのか、祈るような気持でした。

エッチングが終わったので、マッキーを無水エタノールで落とします。結果は良好でした。ピッチの狭い個所もなかなかきれいにできました。

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テスターで断線がないか、隣のパターンとショートしてないかを確認しましたが、問題なしです。

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勢いに乗ってLとRの接点部分も基板を作りました。

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そして完成へ・・

キズミで合わせ目を確認します。

何とか大丈夫そうです。

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左側はどうでしょうか。

こちらも大丈夫でした。

導膜線が腐食しないようにフィルム基板のむき出し部分にまんべんなく5-56を塗ります。基板同士の接点安定化の効果もあります。

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アルミ材になって剛性が格段にアップした抑え板で締めます。締め付けもネジをやめてボルトに変更です。テスターでの導通チェックも一発OKでした。

動作も良好です。