レストア作業(周辺機器編)
最後に外付けマウスと、20年以上手付かずだったACアダプタを仕上げたいと思います。
私がレストアに使っている道具は基本的にネット通販、ホームセンター、電気屋、プラモデル屋などで手に入ります。それらの道具や故障品の代替パーツにはそれなりのお金がかかります。しかし何より、一番必要なのは新品のように直してやりたいという執念の手作業。言い換えればそれは時間ということになります。個人的に行う限りにおいては時間は無料ですが、これを惜しむと「きれいに掃除された中古品」が出来上がります。
したくても自分はそんなに暇じゃない。・・と思う方はレストアを扱うプロに依頼するという手もあります。ほんの一握りですが、こういう事を仕事として引き受けてくれる人がいます。プロはアマの私よりもはるかに上等な道具と手段、経験もありますから仕事もスピーディでクオリティも高いはずです。ただし、数十年前のPC一式のフルレストアを依頼したら十数万円~の出費を覚悟しなければなりません。この価格の大部分は、先に述べた時間によるものであり、レストアに時間が必要なのは差はあれどプロもアマもきっと同じです。むしろプロは何より時間を重要視していると思います。
あくまで例えですが、くたくたになったPC一式のフルレストアをプロに依頼したとします。各々の症状を見ながらという作業の性質上、時間工賃制としておきましょう。まず、一般的なPC店での分解作業工賃は3,000円/30分くらいが相場の最低ラインでしょうか。「メシおごってくれるなら俺が分解してやるよ。」という人もいるでしょうが、ここはいったん工賃とはそういうものと理解してください。
ただ、このレストアのプロは良心的なので、なんと工賃は破格の2,000円/1時間。ありえない安さです。
お願いした作業も無事に終わり、PCはどこから見ても新品のように仕上がりました。さすがプロは仕事も能率的で速く、かかった時間はたったの40時間だったので工賃は80,000円ポッキリです。そのほかにも洗浄剤などの雑費、故障したパーツや細かい交換部品の費用、輸送費などが上乗せされるので、100,000円は超えるでしょうが安いものです。
もしも、高価でとても払えないと思うなら、それはもう自らの手を動かしてみるしかありません。
ただ、数十年前のPCをアマが手掛けたとしたら、恐らく40時間程度ではとてもじゃありませんが新品のようにはなりません。
外付けマウスとACアダプタ
Nxはタッチパッド式のマウスを内蔵していますが、不器用な私にはどうしても上手く使えません。以前、PC-9801DAに接続していたPC-98用の外付けマウスを持っていたはずだったのですが、紛失したか処分したかで見つけることができず、別途購入する羽目になりました。
黄ばんで汚れたACアダプタはNxを手に入れたときに付いていたものです。硬くごわついたコードはギラギラと鈍くテカっています。まるで黒蛇がとぐろでも巻いているかのような禍々しささえあります。
レストア作業(外装編)と同じように、ひとまず作業の前にこの状態のままそれぞれのラベルをスキャナで取り込んでおきます。
マウスをレストア
まずはマウスから早速分解です。画像にボールが映っていませんが、NEC純正のPC-98用ボール式マウスです。PC-98用マウスは業者から買うと動作保証は付きますが結構いい値段です。出費が続いた私は、不具合覚悟でインターネットの個人売買サービスを利用して2,000円程度で手に入れました。
若干の小傷と汚れ、そして全体的にうっすらと黄ばんでいます。出品者曰く「カーソル移動とクリックできました。」との事でしたが、上下移動ができない状態でした。リフレッシュ作業(ドライブ編)でも述べた通り、個人売買のPC-98パーツに完全動作は期待できません。
ボール式マウスはごく簡単な構造なので、故障個所も突き止めやすいです。受光側のセンサモジュールの足が接点不良を起こしていただけだったので、再ハンダで直りました。
マウスの筐体は表面の汚れを洗剤で落としてから、黄ばみを除去するためのホワイトニング作業を行います。洗濯用漂白剤の花王ワイドハイターEX(以下、ハイター)を使用します。黄ばみや傷が小程度ならば塗装はせずに極力、ホワイトニングで済ませます。
ハイターの取り扱いには十分に注意が必要です。取扱いによっては皮膚がかぶれたり臭気で気分が悪くなったりします。また、衣類などに飛び散ると変色やシミの原因になります。ホワイトニングするパーツの素材や状態、または使用する容器によっては剥離、汚損、破損、溶解、それに伴う有毒ガスの発生もあり得るので、作業する方は十分注意のうえ、自己責任でお願いします。
ハイター原液は少し怖いので、3倍程度に水で希釈したハイターにどぶ付けします。紫外線も重要な要素なので、光を透過できるように食品用の蓋付き透明パックをホームセンターで調達しました。不必要に長時間付け込みすぎると、ロゴが薄くなったり表面の質感が変わってしまったりといったダメージを負いかねません。ですので、日の当たる場所に置き、小まめにチェックします。黄ばみの程度も軽かったので、2日もすると元の色に戻りました。
ACアダプタのレストア
最後にACアダプタのレストア作業を行います。型番はPC-9821NA-U01です。
マウス同様、配線からです。手順も基本的に同じで、洗剤、無水エタノール、シンナーを使います。ただ、コンセントコードの方は所どころに文字がプリントされたものなので、溶剤で強くこすってしまうと文字が消えてしまいます。これではレストアではなく単なる破壊です。文字を消さないように注意深く作業します。画像は作業途中の状態ですが、このコンセントコードだけでも、あっという間に一日が過ぎます。とても人に勧められる作業ではありません。
PC側のコードにも文字はありましたが、こちらはごく僅かな範囲でした。コード類は汚れと共にごわつきも無くなって、しなやかさが蘇ってきます。一番地味で面倒な作業ですが、ほんの少しでも汚れが残ると絶対に新品の質感は手に入りません。
次は、かなり黄ばみが進行しているACアダプタ本体です。画像のようにつやありのラインをつや無しのケースでサンドイッチしたようなスタイリングです。
一般的なACアダプタは非分解構造です。中の電源基板には高電圧が掛かるため、おいそれと分解して感電しないようにという配慮です。しかし、分解できなければレストアは難航します。四隅などにネジ穴があればまだ望みがありますが、中を接着剤で固定されている場合はやはり厳しいでしょう。このACアダプタもパッと見、ネジ穴はありません。分解できなければ先のマウスのようにハイターにどぶ付けというわけにはいきません。どぶ付けではなくても、液状のものを使えば、わずかな隙間から中へと入りこんでしまうため、細心の注意が必要です。
非分解構造のACアダプタを開けたい場合、殻割りといってプラ板用のカッターやリューターなどの工具でケースを切断するほかありませんが、もちろん外観はズタボロの悲惨なことになります。ハイターで黄ばみを取るために殻割りするというのでは本末転倒です。結局、分解できないとなれば、そのまま研磨、塗装しかありません。
私は塗装が苦手ですが、光沢塗装は特に苦手なので正直あまりしたくありません。とりあえず真ん中のつやありラインは2000番のサンドペーパーの後にコンパウンドをかけてみました。ですが、それぐらいでは元の色が出てきませんでした。なかなか手強い黄ばみのようです。
今度は600番のサンドペーパーからスタートしてみました。するとようやく元の色が出てきました。ただし、600番となるとほどほどにしないとつやありラインの厚みが痩せていってしまうので、深追いせずにサンドペーパーを細かいのに変えて研磨を続けます。とどめのコンパウンドで目の敵みたいに研磨を続けた結果、なんとも美しい艶めきになりました。
この作業が終わった時点で、ある嫌な予感、ACアダプタは大丈夫なのか。という胸騒ぎを覚えました。一旦テストしようと思い、ACアダプタをNxに接続してみました。
予感的中です。Nxはうんともすんとも言ってくれません。テスタで計るも電圧は出ていません。あちこち磨いてACアダプタ本体が転げ回っているうちに、ついに故障してしまったようです。「結局殻割りするのか・・。」と、殻割りした後の成形作業を想像してぞっとしましたが、何となく剥がしてみた古いラベルの下からネジ穴が1つだけ出てきました。
さて、次は故障してしまったと思われる電源基板の修理です。高電圧の掛かる場所があるので、触る前にはその都度、コンセントにプラグが差し込まれていないか確認します。画像は分解済みですが、基板をぐるりと銅板でシールドしてありました。
そのシールド板と電源基板とを2個所ハンダ付けされていたようですが、そのうちの1個所が衝撃か何かで外れてアース不良を引き起こしていました。このシールド板の代わりにジャンパ線でショートしてみたところ、再び電圧を確認できるようになりました。これが故障の原因だったのでしょうか。
Nx本体の方では対策されていましたが、このPC-9821NA-U01というACアダプタには、レストア作業(内装編)でも述べた、問題の4級塩電解コンデンサが使われているそうです。とは言え、基板上に液漏れの跡らしきものも目視できず、膨れた電解コンデンサもありませんし、何よりつい先日まで20年以上使用できていたわけですから今ひとつ釈然としません。何か対策されたロットだったのでしょうか。あとから電解コンデンサを交換したような再ハンダの痕跡も見当たりません。しかし、たとえ4級塩電解コンデンサでなくとも、とっくに耐用年数は超えています。
とにかく、せっかく分解できたので前々から気になっていた電解コンデンサの総交換を試みました。
画像の中でもひときわ目を引く大きな電解コンデンサは150μF、400Vです。これと同じ規格のものがなかなか見つかりません。ネット通販サイトで耐圧400~500Vのサイズ違いはいくつか見つかりましたが、基板のレイアウト的に幅も高さも同じサイズのものでなくては厳しい感じです。
結局、この電解コンデンサだけは通販サイトで会員登録をして購入する事になりました。会員登録などはあまりしたくない性格なのですが、今回ばかりは仕方がありません。他の電解コンデンサは秋月電子のネット通販で調達しました。