レストア作業(外装編)

以前の作業はとてもレストアとは言えないような内容でしたが、それが精一杯の作業でした。

思えば学生時代に私が初めて手にしたPC-9801DSも、いじり倒したPC-9801DAもすべて誰かの使い古しの黄ばんで妙にテカった中古品でした。当時の私にとって新品のPC-98はそれはもう高嶺の花だったのです。それにひきかえ、裕福な友人の60万だか70万だかの新品のあのPC-9821Ap2。サラサラとマットで真っ白くてエッジもピンピンに効いていたあのPC-9821Ap2は、憧れと共に強烈なインパクトとして記憶に刻まれています。

そんな切ない事情もあり、私はPC-98の話になるとどうも感傷的になりがちです。ついには一度も手に入れることのなかった新品のPC-98。それが頭をよぎるたび、どうにかしてこの切ない事情にケリをつけたいという気持ちがこみ上げてくるのでした。それにはもうフルレストアしかないと、いつも思っていました。

ここにきてようやく重い腰を上げる気になり、溜飲を下げる事にしました・・。

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まずはラベルを作成

では、作業開始です。

筐体に貼られていたラベルも剥がれかけてみすぼらしい状態です。新しく作ってしまいましょう。

というわけで最初の作業は、本体に貼られているラベルをスキャナでPCに取り込むことです。基本的にラベルは機器から剥がさずにスキャンします。剥がしたときのシワや破れがあると修正が困難になるからです。解像度は300dpiで十分だと思います。取り込んだ画像をペイントツールできれいに加工修正します。ペイントツールはフリーソフトのGIMPを使用しています。

印刷媒体は紙ラベルよりもフィルムラベルの方が劣化も少なくていいでしょう。白色フィルムや透明フィルムなどのラベルに印刷し、印刷面保護のためにその上から透明のラベルでコーティングします。このコーティングのためのラベルの選定は、もともとのラベルの質感によって、つやの有り無しを決定します。

こういった小物は、レストアの仕上がりにとても効果的です。

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分解

Nxを分解します。

ボルトやネジが数種類あるので、外す際に一本ずつ場所をチェックします。チェックの方法は個人的に分解するならば本人さえ理解できればどんなやり方でも構いませんが、組み立てる際に場所を誤ると外装や基板を破壊してしまう可能性がありますので、確実な方法を選択します。

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外装レストアの手段

つや消しの外装をレストアする手段として私が思いつくのは、サンドブラスト、ホワイトニング、塗装くらいでしょうか。

サンドブラストとは研磨剤となる砂やガラスビーズなどのメディアを高速で吹き付けて対象の表面を切削し、素地を露出させる研磨の手段です。切削される表面はほんの薄皮一枚ですので元の形状が崩壊してしまう心配はほとんどありません。しかし、対象の状態によっては薄皮一枚を剥がす程度では表面の均一性を確保できない場合があります。例えば古くなったプラスチック製品の中には、生産時の成形過程において材質の表面が受ける負荷にバラつきがあり、そのバラつきによって黄ばみや変色などの進行度合いが一定ではない場合があります。これは年数の経った車の黒い樹脂バンパーに白い縞模様が浮かんでくる状態をイメージしていただければ分かりやすいと思います。劣化の深度が深く、それを取り除こうとした場合、元の形状を保てなくなる可能性があります。何より機材をそろえるにしても業者に依頼するにしても相応のコストがかかります。

ホワイトニングは表面に付着した色素を薬品と光を用いて分解する作業です。対象へのダメージも少なく状態によっては最良の手段ですが、劣化具合が酷い場合にあまり追い込みすぎると表面にプリントされたロゴなどを犯してしまったり、その後の黄ばみや劣化の進行を早めてしまう場合もあるようです。そもそも前回、安易に雑な塗装してしまっているのでホワイトニングでどうにかなる問題ではありません。

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塗装は説明するまでもありませんが、対象の上から新たに薄い塗膜を形成する手段です。もちろんデメリットもたくさんあり、対象の肌の質感や色、耐久性などにおいてオリジナルと同等になるわけではありません。ラッカー塗装はお手軽ですが、ほとんどの溶剤に犯されてしまうので塗装後はクリーニングにも気を使うことになります。特につや消し塗装は傷なども目立ってしまいますので慎重な扱いが求められます。かと言って、溶剤に強いウレタン塗装は塗料の扱いが難しい上に高コストなので、やはり私には敷居が高いです。

現実的に私には結局のところラッカー塗装くらいしか手段がありません。

ただし、あくまで塗装は最後の砦です。まず初めに考えるべきことは、いかにして塗装せずに済ませられるかです。

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外装塗装

塗装の前に表面に付着した汚れや油脂などを取り除きます。私はたいていサンドペーパでの下地処理と洗剤を使った水洗いで済ませてしまいます。前回Nxを塗装した時もそうしましたが、特に何かで引っかいたりしなければ塗装が剥がれてくるようなトラブルはこれまでなかったので、今回も基本的にこれでいきます。

洗剤が残らないように丁寧に水でそそぎ、その後は塗装する面に触れないように注意します。きれいなウエスで塗装する面を拭き取ったら、水分が完全になくなるまで少し放置します。

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水洗いの最中に筐体の一部を折ってしまいました。画像の折ってしまった箇所は裏側をレジンで補強し、表面はパテで成形しました。

こういった細い部分は特段の注意が必要ですが、これくらいの年式ともなると経年劣化によってプラスチックの強度もそれなりに落ちており、注意深く扱っていても分解などの過程でツメが折れたりすることは珍しくありません。今回のレストアでも数か所のツメが欠けましたが、補修すればいいと割り切っています。

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黄ばみの無い、恐らく新品に近いと思われる筐体部分に色を合わせます。できあがった塗料を専用の薄め液で粘度調整します。エアブラシの場合、塗料の粘度は牛乳くらいと例えられます。

Mr.colorの317(FS36231)のつや消しグレーに黒を少しだけ足しました。

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前回の施工時にモニタフレームには深刻な黄ばみが無かったので、洗浄のみで済ませていました。今回もこのモニタフレームに合わせて調色しました。

画像の細長い部品はFDドライブの防塵カバーです。試しに小さな部品に塗装してみて、色が一致していなかったら再度調整します。

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スライドスイッチ部分などの可動部は擦れて塗装が剥がれてしまうので、マスキングします。今回はマスキングゾルというものを使ってみました。マスキングゾルを塗った個所はカバーされて、塗料から下地を保護します。塗ったマスキングゾルはしばらくすると乾燥してゴム状になります。しかし、剥がす時にとても苦労したので私には今ひとつ使いどころが分かりませんでした。

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私は広い面の塗装がそもそも苦手で、前回の天面パネルの塗装では特に塗りムラが目立っていました。

他にもこの天面パネルの塗装工程では、さんざん間取ってしまいました。その詳細は番外編(天面パネル)をご覧ください。

紆余曲折ありながらも、最終的にはなかなか上手に塗れたと思います。

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塗装完了です。一見するとすぐに乾いたように見えますが、完全にシンナーが気化するまでにはそれなりに時間を要します。1日や2日程度の乾燥時間ではまだまだ塗装面がもろい状態ため、爪などでひっかいてしまうと簡単に傷が付いてしまいます。早く組み立てたい衝動を抑えて少なくとも1週間は放置します。

私は完全硬化を1ヶ月と定め、それまでは慎重に扱います。完全硬化すると強靭な塗膜になります。それとラッカー塗装はある程度の時間、ゴム素材と接触すると溶解します。良かれと思ってゴム系のクッション材などで保護したりすると塗膜が変質しますので、これも注意が必要です。

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塗装しない部分は無水エタノールで汚れを除去します。ただし、やりすぎると純正のコーティングを犯してしまい、ギラギラと光沢が出てしまったり下地のプラスチックが出てきてしまったりするのでほどほどに。

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さて、ラッカーの塗装面はほとんどの溶剤に犯されてしまうため、今後の手入れに下手なクリーニング剤は使えません。そこで塗装面のフッ素コーティングを考えました。フッ素自体は溶剤にも強いはずです。試しに画像のコーティング剤を購入して小さい部品に施工してみました。

効果のほどは・・よくわかりません。表面の様子も特に変わった感じはなく、水を掛けてみても、いかにもフッ素らしいバシバシとはじく感じがありません。ラッカー塗装の上にはあまり定着しないのかもしれまん。一応、今回塗装した部分は全て施工しておきましたが、溶剤に対する耐久性などの検証は怖くて今のところしていません・・。

(※ 後で分かったことですが、このコーティング剤には粗目の研磨剤が配合されています。)

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キーボード塗装

キーボードの黄ばみは前回のホワイトニングで除去できましたが、スペースキーや方向キー、リターンキーなどといった使用頻度の高いキーはどうしても表面のつや消しの被膜が削れてテカリが出てきてしまっています。こればかりはホワイトニングではどうにもなりません。こういう部分が手付かずだと何をやっても中古感を拭うことはできません。

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テカっているキーを選別し、透明のつや消し塗装を施しました。画像の左が塗装前、右が塗装後です。全てのキーのうち、4割ほど塗装しました。

見た目にもサラサラした新品感が蘇ります。効果不明のフッ素コーティングも、おまじないだと思って軽く施工しておきました。ただ、フッ素の被膜がきちんと形成されたとした場合、以降の塗装は不可能に近いと思います。フッ素の上からでは塗装は定着しませんから、まずフッ素を除去しなければなりません。溶剤に強いフッ素を完全に除去するには研磨しか手段がありません。しかし、キートップのプリントを保護しつつ、フッ素の被膜だけをきれいに研磨除去することは非常に困難です。

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これで塗装も終了です。

もちろんラッカー塗装にもメリットはあります。前回の塗装から数年経ちますが、屋内で使用している限り退色や黄ばみ化は見られませんでした。この点だけでもラッカー塗装には十分メリットがあると言えます。

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ゴム類を交換

98NOTEの筐体に使われているゴム類はとにかく品質が悪いです。特にゴム足の劣化は凄まじいものがあり、保管状況によってはべとべとになるだけに留まらず、しまいには完全に液状化してしまいダラダラと垂れてきたりするそうです。

御多分に漏れず、私のNxも入手したときには既にゴム足も劣化していたので、とっくの昔に廃棄してしまいました。そして、その場しのぎにホームセンターで購入したゴム足を適当に加工して使用していました。当然、そのゴム足はNxオリジナルのものとは色も形も異なります。

なので、今回レストアするにあたってNyankoPCさんに特注ゴム足を制作していただきました。こちらは既存のPC用の吊るしの商品を販売しているだけではなく、寸法を指定すれば特注という形でゴム足を制作していただけます。また、依頼者がゴム足を送付して同じものを制作してもらうというサービスもあるそうです。

ただ、私の場合はオリジナルのゴム足を廃棄してしまっていたので、記憶を頼りにNxと同じような形状の吊るしの商品を選択し、色をグレーにしたのもので制作依頼しました。

オリジナルを保管しておくべきだったと激しく後悔しましたが、何でもかんでもストックしていたら家中が廃棄物だらけになってしまうので、線引きが難しいところですね。

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次は、モニタフレームに付いている緩衝ゴムです。オリジナルの方はすっかり変色しており、ごく僅かずつですが油のようなものが染み出してきている状態です。

ですから、Nxを開くと、毎回キーボード側の筐体に油のようなものが付着していました。

ゴム足と違い、形状が単純なので、グレーのゴムを切り出して自作してみました。