月刊皆無軟体の2017年版。
近年、読書の泉しかない。
・足袋の老舗「こはぜ屋」がランニングシューズを開発するお話。
・みんなで協力して頑張れば何かいいことあるよ、という物語を読むと、何かほっとする。
・庶民の書いた著書や描いた書画を拠り所に、とにかく戦がしたかった明治維新新政府勢力と、民の混乱を避け、平和裡に政権を委譲したかった旧幕府勢力という視点で、明治維新を見直す本。
・本書では、明治維新政府の暴虐性が強調され、山口県や鹿児島県の方々が気を悪くするのでは、と、懸念される。もっとも、この種類の新書は、書いてある内容が偏っていることに意味があるとも言える。怖がったり、怒ったりする前に、もっと色々な本を読もう。人の話を聞こう。
・ホモ・サピエンスは、「なぜ?」と疑問に思う本能を持っていたが故に、今日の発展がある、こんな観点から本書は始まる。その後、文化が始まり、文字が発明されるところから科学史を眺めるのは、なかなか新しい発見がある。
・科学の本質は理論的に説明することだと思うが、それを容易にしたのが数学を利用することだという観点も面白い。数学を使って説明すると難しくなりそうに感じてしまうが、逆に数学を使わなかったら、科学はもっと分かりにくいものとなっていただろう。
・2013年に映画化され最近アニメ化もされた本作は、辞書を作る人たちの物語だ。
・辞書であれ、ロケットの部品であれ、シューズであれ、モノを開発して世に出す物語には勇気付けられる。一つの目標に向かって愚直に真面目に頑張る人物の影響で、周囲の人々が変わっていく展開も、未来への希望を感じさせる。
・もっとも、この分野の物語のお約束として、製品完成直前の段階では必ずデスマーチが展開してしまうのが辛い。
・士農工商は身分制度ではなかった。金や都合でどうにでも変更ができたらしい。こんな江戸時代の別の局面を、本書では、地方に残る古文書から読み解いていく。
・食料ばかりでなく、生活必需品の生産を担う百姓の生き生きとした姿が新鮮だ。
・巻末に参考文献の一覧があると、さらなる読書ガイドになったのだけれど。
・人工知能が当たり前のように使われる社会では、どんなドラマが生まれるのだろうか。本書を読めば、その一端が見えてくるかもしれない。
・本書に収録された作品の中で「仕事がいつまで経っても終わらない件」は、それほど遠くない未来に起こりそうな予感を感じさせる。人工知能を使って仕事をするとき、それを操る人間は、人工知能と同等の猛スピードで仕事をしなければならない。そのため、人間の代わりになるべき人工知能が、かえって人間を疲弊させるという皮肉。
・太陽系内の火星と木星の間あたりにあるらしい、打ち捨てられた円柱型コロニーで繰り広げられる青春絵巻。ホバーバイクでコロニー内の人工太陽に肉薄するバトルに命を懸ける若者たちと、それを取り巻く大人たちの謎めいた行動。次第に明らかになっていく真相と、「大人になる」ことの意味が重なり合っていく。
・ホバーバイクや宇宙船のメカ描写が魅力的だ。特に、既存の部品を組み合わせて新しいホバーバイクを組み立てるところがいい。メカ設定イラスト集が欲しいくらい。
・ノーベル賞受賞物理学者ファインマンの語った、興味深いエピソードをまとめた本。ファインマン氏は、天才としか言いようのない人物だ。何にでも興味をもって、楽しんでしまう、人生を豊かにする術を心得た人物であるとも言える。
・本書では、NASAのスペースシャトル、チャレンジャーの事故調査委員会での仕事についてかなりのページを割いている。その中で印象的なのは、科学的・合理的に考えている現場の技術者と、政治的・経済的な原理で考える管理職との対立関係だ。現場と管理職をつなぐ、ファインマンのようなプロフェッショナルが必要とされるのかもしれない。
・副題は「再生・日本製紙石巻工場」という。中心となるのは、東日本大震災で被災した製紙工場が、半年という短い期間で紙の生産を再開するまでの社員の奮闘記だ。しかし、その工場をめぐる街の人々のエピソードも加えて、本書を厚みのある内容としている。また、本書を読むと、書籍に使われている紙の豆知識が豊富に得られる。
・大企業だからこそできた復興という見方もあるだろうが、それでも危機に直面した人間の生き方を考えさせらる。
・震災当時の報道では、未曾有の災害があっても秩序正しい日本人が強調されていた。だが、本書では、店舗の略奪やガソリンの盗難などの闇の側面も記されている。
・古書をめぐる人間模様も7巻で一旦の完結を迎えたようだ。ちょっと残念な気持ちもある。
・ドロドロした血縁関係が複雑で、なかなか物語の構造を捉えるのが難しいが、それも本書の楽しみの一つかもしれない。
・「意味わかんないけどカッコイイ」と、夢中になってしまうSF小説は数多い。本書は、そんな書の一つといえる。特に、日本SFは、漢字の単語にカタカナでルビを振るという独特の表現手法があり、カッコよさを倍増する効果がある。
・本書のストーリーは、情報と素粒子が密接に関係する世界での少年少女の冒険を描いているらしいのだが、かなりハードな冒険だ。
・紀元2600年といえば、昭和15年。太平洋戦争開戦の前年である。この年に日本初のテレビドラマ『夕餉前』が放送されたという。
・技術開発の中核にいたのは、高柳健次郎先生。ラジオ放送が始まる前に、すでにテレビジョンの研究を公言していたというからすごい。
・高柳先生の恩師の言葉、「10年後、20年後の日本の役に立つことをコツコツと研究しなさい」は真実であると思うが、現代の日本社会はそこまで寛大ではない。強い危機感を感じる。
・超弩級プロフェッショナルの女性と、ちょっと頼りないが、成長の伸び代が大きい青年が登場する、ミステリアスな物語。こう書いてしまうと、結構色々な物語が当てはまってしまう気がする。それくらい、現代では王道パターンと言える人物設定なのかもしれない。
・本書のプロフェッショナルは「建築士」。美的なセンスと法律の知識、書類処理能力、図面処理能力など、とてつもなく総合的な技術と技能を必要とする職業だと思う。尊敬してしまう。
・MIT在学中に米国政府のシステムに侵入したことで逮捕歴のある天才ハッカー「プロメテ」が、アクの強い仲間とともに、国際サイバーテロ組織と対峙する内容の連作短編である。
・コンピュータの話は、地味になりがちだが、サイバー攻撃やサイバー犯罪系のお話は、アクションを適切に絡めることで、読者を飽きさせず楽しませることができる。いいですね。
・Scienceと理科は、概念的に一致しない部分がある。ヲヤヂも漠然と感じていたが、それを実に真面目に論じた本。
・「理科離れ」を憂うる前に一読したい本。
・SIer(システムインテグレータ)という職種の皆様のお仕事を、ドラマ仕立てで知ることができる貴重な一冊。「コンピュータ カンケーのシゴト」に就きたいと漠然と感じている学生さんが読んでみると良いかも。
・本書は、複数の著者がプロジェクトチームをつくって執筆されたという、小説としては珍しいもの。そのうち、AIと人間がプロジェクトチームを組んで小説を書くようになるのだろうか。
・よく新聞などで見にする「帝国データバンク」は民間信用調査会社だ。本書の著者はその情報部長を務めた人物だという。
・大手企業でも潰れる時は潰れるという、予測が難しい不透明な時代に、潰れる会社には潰れるなりの理由があるということを思い知る。コワイことが書いてある本ではある。
・地球上での生命誕生から、人類の進化まで、生命の本質を考える本。
・科学的に考える面白さを実感させてくれる。
・明治維新から現代まで、なぜ極東の小さな島国が、かくも大きな変化を遂げることができたのか。この疑問について、いろいろな意見があるはずだが、それらを考える上で、資料となりそうな本である。
・日本の電機メーカーの失敗の根底には、東京電力と電電公社(NTT)による業界支配の構図があった、という視点で電機メーカーの凋落を分析した本。
・失敗を踏まえて、未来への一手を打っていきたい。
・極性が定期的に入れ替わる摩訶不思議な電気「交流」を図解してくれる。派手なトピックスのない、電気分野の入門書は貴重だ。
・地球上に埋もれている太古の巨大ロボットのパーツを見つけ出し、復元するという途方もない計画のお話。
・上下巻で1,960円+税ということで、SF文庫も高価になったものである。
・「工学部の語り部」という使命感に燃えた著者が、大学教育行政の問題点を痛快に綴った作品。
・頭のいい人は、実に羨ましい限りだが、それなりに大変なこともあるようだ。
・「かとく」での活躍が注目されている労働基準監督官のお仕事を、実例を交えてわかりやすく、ドラマチックに伝えている本。いくつもの法律を駆使して労働者の安全を守る、大変な仕事だ。
・労働者の安全を守ることが長期的に見て、企業の繁栄にもつながるという論法が、なかなか説得力がある。
・「事実」を見極める力が必要とは思っているが、どうすればいいかがよくわからない。本書を読むと、最低限これだけは実践すると良いことがわかる。
・もっとも、本書の内容が事実かどうかを、本書に掲載された方法で検証することができるかどうかは、ちょっと自信がない。
・サーバー犯罪に関わるデータ流出ネタのミステリー短編集。
・80代の上品な女性が主人公という、素敵な設定。
・「ダストレスチョーク」を製造する日本理化学工業のドキュメント。知的障がい者を多数雇用し、「日本でいちばん大切にしたい会社」と本で紹介された会社である。
・人口減少社会になっていくこの国で、より一層、人を大切にする社会の実現への道のりは険しいが、日本理化学工業のような会社で頑張っている人々のことを思うと、希望を感じる。
・ICT(情報通信技術)について色々と考えさせられる作品の詰まった短編集。
・人工知能によって、インターネットが使えなくなる未来。遺伝的アルゴリズムで勝手に進化するソフトウェアがもたらす悲劇と可能性を考える。AIに制御されたドローンではなく、人間が戦争する世界。量子コンピューティングが開く、巡回セールスマン問題も瞬時に解けてしまう未来。ナノマシンが太陽系の軌道上に展開する世界。
・幸せとか不幸とかを超越した未来の世界が、そこにある。
・世界最長のSFシリーズとして名高い「ペリーローダン」だが、その長さゆえに新しい読者が入りづらいことも確か。本書は、そんな思いを抱いて、読んでこなかった諸兄に朗報と言えるか。
・近未来に舞台を移してはいるが、宇宙船、異星人、超能力とSFの楽しさを詰め込んだ、素敵なエンターテインメントだ。
・ファラデーが実験で発見した電磁誘導の原理は、運動を電気に変える基本原理だ。電気を潤沢に使うためには欠かせない技術である。マクスウェル方程式は、電気系学生を悩ませる代物ではあるが、電磁波を考える基礎となる重要な式だ。
・本書は、とかく難しいという印象を持たれがちな電磁気学について、豊富な科学者のエピソードを中心に物語として楽しむことができる。
・数学は苦手だが、実験装置の達人にしてサイエンスエンタテイナーの側面を持つファラデーと、理論家マクスウェルとの対比が面白い。また、電磁気学に関する多数の実験を行い、目をみはる発見をしながら、一切公表しなかった、奇才キャヴェンディッシュ の話もなかなか興味深い。
・素人っぽいパンフレットと玄人はだしのパンフレットというのは、確かに違う。でも、なかなか玄人はだしのデザインは敷居が高い。見る目を養うという意味で、こういう本を読んでおくのは役に立つ。
・月に人類を送り込んだアポロ宇宙船は、コンピュータによる自動操縦とパイロットによる手動操作が、うまく連携した人間・機械システムだった。
・完全な手動操作では宇宙を旅することは到底できないが、自動操縦だけでよしとするのはつまらない。そんなアメリカ人パイロット気質がアポロ宇宙船のシステムを決定し、スペースシャトルにつながっていくのがよくわかる。
・アニメを創る人たちの織りなす感動物語。日頃仕事がうまくいかなくてストレスの溜まった人には、とても爽快な思いを与えてくれるかもしれない。
・アニメが好きな人は、ぜひ読みたい。
・「月刊」ローダンNEOの第2号。ゴビ砂漠に着陸したローダン一行と中国軍の息詰まる戦いを中心に、複数の物語が同時展開する。
・「地球人」とはどういうことか。考えさせるSFです。
・これから警察官を目指す方は必読。警察組織がわかりやすく解説されている。
・また、警視庁と警察庁の区別がよくわからない人も読むといいかもしれない。
・農民を肉体労働から解放し、ローンの苦しみを与えた、トラクターの歴史を概観できる。ランボルギーニやポルシェなど意外なメーカーがトラクターを作っていたという発見も面白い。
・こういう機械やモノの技術的社会的側面から歴史を見るという試みが、もっとあってもよいと感じる。
・「私」の好きな、「私」が見たい、「私」が信じたい情報だけに接していられるネット社会では、しばしば真実は意味を持たない。そんな恐怖を感じさせる連作短編小説集。
・自分の信じる正義は、他人にとっても正義なのか。難しい問題だが、考えることをやめたら負けだ。勝つ必要はないが、負けてはならない。
・他人が大怪我をして痛い思いをした話を聞いただけで、自分もなんだか痛い感じがしてくる経験がある人は多いだろう。そもそも演劇や映画では、登場人物と観客とがほぼ同じ感情を味わうことで成立している。
・本書は、他人の動作を見たときなどに活性化する神経細胞「ミラーニューロン」について、豊富な実験例を挙げて楽しく解説している。神経科学の専門家に憧れを感じる人が増えそうだ。
・失敗を糧として、驚異の低事故率を誇る航空業界と、失敗をないことにして、医療ミスが減少しない医療関係とを対比して、失敗から学ぶことの重要性を訴えている。
・色々と状況設定により、対象法は異なるが、とにかく失敗を処罰しすぎないことが、未来の改善につながるということは確かなようだ。
・本を売って商売をしようとする人、出版業界を舞台にした小説や漫画を書きたい方はには、とても参考になる本。
・専門用語が多数出てくるが、丁寧に説明されているので、なんとか読める。もっとも、初版が2000年であり、コンピュータがらみの内容がかなり古いのは仕方がない。
・月刊ローダンNEOの4巻目。母船を破壊されたアルコン人が動き出す。病気の異星人クレストの病状にも回復の兆しが見え、中国軍との戦いも転機を迎える。
・「クビナガリュウ」と「恐竜」の違いを認識している人は少ないと思うが、その違いがドラマを生む。本書を読むと、違いにこだわる研究者たちの人間模様が見えてくる。
・報道ではあまり表に出てこない研究スタッフを中心にした本の構成が、緊張感を演出している。また、恐竜の骨格の化石を発掘するというのは、想像以上に体力と器用さを要求することがよくわかる。
・帯にある「”いのち”を消費する日本型組織に立ち向かうには」の言葉に「はっ」とさせられる。非合理的な目標でも一度決まってしまうと、目標完遂が至上命題になり、修正が効かなくなる恐怖。これは、日本型組織が抱える共通課題である。
・出撃したら帰ってこないはずの特攻兵が何度も帰ってきてしまう。その度に上官からは叱責されるわけだが、決して信念を曲げようとしないたくましさはどこから来るのだろう。