2011

月刊 皆無軟体 2011年版

月刊皆無軟体は、皆無軟体の活動をお知らせするサイトです。

なぜか書評しかありません。

読書の泉2011-11

『チャンネルはそのまま!【HHTV北海道★(ホシ)テレビ】 4』 佐々木倫子著 小学館・ビッグコミックスペシャル

・ 「バカ枠」採用の雪丸花子は、4巻目だが相変わらず知識も特技もない。しかし、幸運を招き寄せることは誰にも負けない。彼女の言動は、いつも周囲に迷惑を かけてばかりだが、なんとなく世の中うまくいってしまうところが憎めない。本書では彼女を支援する「バカ担当」の山根くんが異動になってしまうぞ、大丈夫 なのか?

・放送局のお仕事が、なんとなく分かった気になる、社会科見学的な要素も楽しい。

『インテグラル・ツリー』 ラリイ・ニーヴン著/小隅黎訳 早川書房・ハヤカワ文庫SF

・ 本書の舞台は、中性子星の回りを星間物質が取り囲む世界である。その中のスモークリングでは、微小重力にして、ほぼ1気圧が保たれている。そして、そこに は、様々な生物が、複雑な生態系を形成している。その構成要素の一つ、積分記号の形をしたインテグラル・ツリーには、幡種ラム・シップが運んできた人類の 末裔が部族ごとにまとまって生活している。

・とにかく奇想天外な舞台で、スリリングな冒険が展開される。幡種ラム・シップやコープシクルなど、ニーヴンに共通な世界設定の上で展開される物語に、世界の広がりを感じ取れる。

『放射線測定と数値の本当の話』 佐々木慎一・森田洋平(テクニカルアドバイス)/細田時宏・細谷淳(文) 宝島社

・福島第一原子力発電所の事故以来、新聞には空間線量が載り、農作物での放射性物質の検出が話題になる。なんとも「想定外」の世の中になってしまったものだ。

・ 放射線の測定値については、よく分からないところが多い。分からない要因は、ベクレルとグレイ、シーベルトなど、複数の単位が使われることにあると思う。 ベクレルは単位時間に崩壊する核種の数を表し、比較的単純な物理現象を数値化したものだ。ベクレルでは、どの程度の放射線のエネルギーが人体や物質に吸収 されるか比較できない。吸収される放射線のエネルギーを反映しているのがグレイという単位だ。同じエネルギーを持った放射線でも、人体を透過してしまうγ 線と、人体の内部で止まってしまうα線では、人体に与える影響が異なる。このような人体に与える影響の大きさを考慮した値がシーベルトで表される。

・本書を読めば、放射線測定器の原理や正しい放射線の測り方がよくわかる。また、ガイガーカウンターの正確さを比較した記事もある。ガイガーカウンターもパソコンやデジカメ並の製品になってしまったのか。

『シブすぎ技術に男泣き!3』 見ル野栄司著 中経出版

・「かんばれ!ものづくりニッポン!」というエールが聞こえてきそうな熱い内容の本だ。熱処理や3次元CAD、メカトロニクスについて、こんなに熱く語るマンガが、3巻も発行されるとは、日本も捨てたものじゃないなと思う。

・4巻目にも期待したい。

『食い逃げされてもバイトは雇うな』 山田真哉著 光文社・光文社新書

・会計士の書いた、ビジネスというより「商売」の基礎の基礎を具体的な事例でわかりやすく解いてくれる本。「タウリン1000mg」と「タウリン1g」、どちらも表している量は同じだが、売れるのは前者である。人間は数字によって、受ける印象が大きく変わるのだ。

・利益をだすためには収益を増やして費用を減らす。この基本原則も、当たり前のことなのだが、実践するのは難しい。そこに商売の奥深さがあるのだろう。

『英語のこころ』 松本安弘・松本アイリン著 丸善ライブラリー

・なぜ日本人は英語に苦手意識があるのか? その原因の一つには、英語と日本語が、まったく異なる気候風土宗教慣習の中で使われ、発展してきたことにある。

・本書では、そんな言語の溝を埋めるためのヒントがいくつもある。

『MM9 -invasion-』 山本弘著 東京創元社

・SF黎明期には、「怪獣はSFにあらず」などと糾弾されていたそうだが、本書を読めば、「怪獣もSFだ」と自信を持って断言できる。

・また、SF黎明期には「円盤はSFにあらず」などと蔑まれていたようだが、本書では、宇宙からやってくる宇宙怪獣が大暴れする。当然、飛来するときにはUFOとして目撃されることとなるわけだが、これをSFと言わずして、何をSFとするのか。

・前作で活躍した、気象庁特異生物対策部、略称「気特対」の面々は、本作では裏方に回り、主人公は高校一年生の少年だ。ジュブナイルなのだ。

・怪獣は、時代を象徴する建造物を狙って壊しにくるのがお約束だが、今回も約束は忠実に守られる。今回の標的は、世界一の高さを誇る、あのタワーである。

・怪獣と言えばウルトラマンが連想されるが、そこもしっかり押さえてあるところがすばらしい。

『まんがサイエンス XIII』 あさりよしとお著 学研

・学研の「科学」が休刊してから、何年になるのだろう。こうして「まんがサイエンス」が読めるのも、あとわずかなのだろうか。

・貴重な最新刊は、最新科学技術をわかりやすく解説。しか作者一流のブラックユーモアも健在だ。もっとも、このある種の「毒」の部分のために、「まんがサイエンスは怖い」という印象をもつ子どもがいることも確か。

・科学まんがの伝統の火は、どこかで誰かが、しっかり受け継いでいただきたい。

『スモーク・リング』 ラリイ・ニーヴン著/小隅黎訳 早川書房・ハヤカワSF文庫

・『インテグラル・ツリー』の続編。前作の子どもの世代が活躍する。呼吸のできる無重力空間で人類はいかに進化するか。続編でもその思考実験は続く。

・この続編では、牧歌的に暮らしていたインテグラル・ツリーの住人達が、「文明」に遭遇する。「文明」は、さらなる躍進への原動力か、はたまた滅びの前兆か?なかなか奥深いテーマである。


読書の泉2011-12

『地球生命35億年物語 進化の秘密は氷河期にあった』 ジョン・グリビン著/木原悦子訳 徳間書店

・地球上に生命が誕生して、人類が地上に君臨する現代までの歴史を1冊にまとめた本。とはいえ、35億年というのはあまりにも長いので、本書では、人類の祖先となる霊長類が登場してから、現代までの話が中心となっている。

・地球上では、海や川が凍るような寒い時代が周期的に訪れ、そのたびに生命の進化や文化の変化をもたらしてきたという。本書の面白さは、地球の気候変化と進化や歴史的事件をむすびつけて論じるところにある。

『リリエンタールの末裔』 上田早夕里著 早川書房・ハヤカワ文庫JA

・空を飛ぶ、脳の情報を共有する、海に潜る、時を正確に計る。人類の欲望が技術を発展させてきた。本書からは、技術を追求する者への熱い思いが読み取れる。

・中編の「幻のクノロメーター」は、舞台が18世紀のロンドン。船の現在位置を知るのに重要な経度を測定するための時計「クロノメーター」を作る職人の話。非常に正確な時刻を機械式の時計で計るという、とてつもない挑戦にかかんに挑む。これだけで十分面白いのだが、SFらしい「謎」も追加されて、とんでもなくサービスの行き届いた作品となっている。

『大人の時間はなぜ短いのか』 一川誠著 集英社・集英社新書

・「小学生の夏休みは長かったが、大人になってからの夏休みは短い」・・・まぁ、日数的にも確実に短いんだから、これはあたりまえ。「小学生の一日は長く感じるが、大人の一日は短く感じる」これなら、不思議に思う方がたくさんいるだろう。

・この疑問への答として、よくいわれるのが「ジャネーの法則」だ。「同じ1年でも、10歳の子どもにとっては10分の1に相当するが、60歳の大人には60分の1の時間にすぎない」という、あの法則である。本書では、この法則は「同じ年齢でも人によって年齢による時間の感じ方の変化は異なる。加齢によって生じる感じられる時間の長さの変化は、反比例的な関係よりもゆるやかである」として、「検討すべき仮説とはみなされていない」と言い切る。

・本書では、子どもよりも大人の時間が長い大きな要因は、人は歳をとると代謝が低下するので、大人の方が子どもより、体内時計の進み方が遅くなることにあるという。歳をとると時代に置いていかれるような感覚に襲われるが、この解釈は、それとも一致する。

・大人の方が、子どもよりもやることが多いから短いんじゃないのかな?とか、単純なヲヤヂは考えてしまうのだけども。

『精神科にできること 脳の医学 心の治療』 野村総一郎著 講談社・講談社現代新書

・うつ病・統合失調症・不安障害・摂食障害・・・正常な社会生活が営めなくなったら、それは精神科の門を叩いた方がよい。本書では、症例をわかりやすく説明してあるので、「こうなっちゃたら精神科にかからなきゃダメ」というのがよくわかる。

・日本の精神科行政の歴史や方向性、「心療内科」との相違点など、精神科医療のまめ知識が得られるのも、本書の魅力だ。

『約束の方舟』 瀬尾つかさ著 早川書房・ハヤカワ文庫JA

・植民惑星<タカマガハラII>をめざし、100年の航海を続ける、多世代恒星間宇宙船の中で成長する少年少女を描いた作品。多世代恒星間宇宙船のシステ ムや、ベガーとよばれるゼリー状の生命体など、それだけで、SFのおいしいところを味わえるのだが、本書では、それに推理小説のような謎解きの要素も加わ る。てんこ盛りのエンターテインメントと言える。

『巨大翼竜は飛べたのか スケールと行動の動物学』 佐藤克文著 平凡社・平凡社新書

・タイトルにあるとおり、巨大翼竜は飛べなかったんじゃないの?という論文で、いろいろ議論を巻き起こした著者の研究成果をとても分かりやすくユーモラスにまとめてある。

・巨大翼竜は飛べなかったとする根拠は、著者の現生鳥類の研究成果によるものだ。その研究の方法は、移動速度や加速度などを計測し、データとして蓄積でき る「データロガー」とよばれる装置を動物に取り付け、後で回収したデータから行動を分析するものだ。この手法は「バイオロギングサイエンス」とよばれ、従 来の観察から得られた推測の正確さを再確認する成果をあげている他、逆に、従来の観察とはまったく異なる結果により、新たな事実が判明する異もあり、なか なか刺激的だ。

・研究の困難とその克服、研究のおもしろさといったことも端々から読み取れる。自然科学の研究者という仕事を目指す人には、ぜひ読んでもらいたい一冊。

『アップルを創った怪物 もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝』 スティーブ・ウォズニアック著/井口耕二訳 ダイヤモンド社

・アップルのスティーブと言えば、先日亡くなったスティーブ・ジョブズ氏がとにかく有名である。とある検索サイトで、"スティーブ・ジョブズ"で検索する と約 2,030,000件が見つかるのに対し、"スティーブ・ウォズニアック"では、12,600件しかヒットしない。

・本書を読むと、ウォズニアック氏は、Apple I,IIといった歴史に残るコンピュータをほぼ一人で設計した天才エンジニアであることが印象づけられる。その一方で、ジョブズ氏は、コンピュータ用の チップを格安で入手したり、製品をたくさんの人に売りつける天才として書かれている。内気なエンジニアよりも、社交的なビジネスマンの方が有名になってし まうのが、社会の趨勢か。

・少年時代に、父親から教えてもらった電気電子工学の知識がウォズニアック氏の未来を方向づけたことがわかる。その教え方の肝は、ものごとは原理や仕組みから丁寧に教えるということ、そして教えすぎないということだ。

・複雑なコンピュータシステムが手軽に買える時代になり、電子工作をする「わくわく」した感じを伝えるのが難しくなってきている。電気と電子の「わくわく」を大切にしたい。

『聖書時代史 旧訳篇』 山我哲雄著 岩波書店・岩波現代文庫

・本書では、聖書に書かれている内容と史実を比較検証し、聖書の書かれた時代を浮き彫りにする。紀元前というはるか昔の世界の話であるが、生存をかけた戦い、争いの連続だ。人間というのは、罪深き生き物である。

『聖書の奇跡 その謎をさぐる』 金子史朗著 講談社・講談社現代新書

・旧約聖書に記されたノアの大洪水、ソドムとゴモラを滅ぼした災害などは、実際に起きた事件をもとにしているのではないか?本書は、そんな推理小説のような疑問を、丁寧に説明する。

・日本は地震国であるが、パレスチナの地も過去大きな地震に襲われているようだ。そのたびに奇跡が起こり、人々はたくましく生き延びてきた。日本でも奇跡がおこせるだろうか。

『企業倒産』 熊谷勝行著 平凡社・平凡社新書

・「会社がつぶれる」というのはよく聞く表現だが、つぶれても仕事を続けている会社があったりして、よくわからない。

・本書では、前半で企業の倒産の実例を解説しながら、後半の章では法律的な「倒産」の解釈についての説明が読める。会社を潰さないようにするにはどうすればいいのか、どう働けばいいのか、考えさせられる。

『スティーブ・ジョブズ』 ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳 講談社

・アップルの創業者の一人で先日亡くなったスティーブ・ジョブズの伝記だ。AppleのMacintoshやiPodは皆無軟体でも愛用しているハード ウェアだ。なぜ皆無軟体のヲヤヂはアップル製品を買ってしまうのか……それは、伝説のパーソナルコンピュータApple][への憧れであり、伝説のワーク ステーションNeXt cubeへの憧れがあるからだ。もちろん、発売当時「車を買うかMacintoshを買うか」とよばれた、大変高価な一体型Macintoshへの憧れも ある。

・これらの製品は、スティーブ・ジョブズの完全な製品を創ろうとする執念と、それに応えるエンジニアたちの技術力で完成したものばかりだ。本書で、それらの製品が開発され、世に出るまでの経緯を知ることで、さらに憧れが強くなったとさえ言える。

・本書で描かれているスティーブ・ジョブズ像は、なんとも偏った社会性のない人物である。だから、アップルのもう一人の創業者ウォズニアックの伝記と合わ せて読むと、どうしてもウォズニアックの生き方や考え方に共感する部分が多い。ヲヤヂにも少しはエンジニア魂が宿っているということか。