2019年の皆無軟体

最近、読書の泉しかないなぁ。

読書の泉2019年01月号

『生命の星の条件を探る』 阿部豊著/阿部彩子解説 文藝春秋

・生命に必要な条件とは何か?SFではよく取り上げられるテーマではあるが、本書ではその疑問に学術的な見地から挑む。

・陸の割合が多い惑星の方が生命が生まれやすいという結論も興味深い。地球温暖化や寒冷化には、地球の海の割合が多いことに由来するという。

・生命が生まれる条件を考えることで、地球上での生命の存続を考察する大きなヒントが得られそうだ。

『美しき免疫の力』 ダニエル・M・デイヴィス著/久保尚子訳 NHK出版

・ガンの免疫療法については、科学的見地とエセ科学的見地が混在して、よくわからない状況になっている。本書を読むとその理由が少しわかった気になる。要するに、ヒトの免疫システムは複雑すぎて、制御するのが非常に困難だということだ。

・本書の最後にある「収益に関係なく、人類の健康と幸福、地上で暮らす他の生物の健康と幸福を何よりも優先するような国際組織を新たに立ち上げ」という言葉には、人類の次なる躍進へのきっかけになるのでは、と希望を感じた。医療や製薬がビジネスの枠組みの中にあるうちは、真の人類の幸福も進歩もありえないと思う。


読書の泉2019年02月号

『星系出雲の兵站2』 林譲治著 早川書房/ハヤカワ文庫JA

・「兵站」という重要ではあるが、実に地味なことをメインテーマにして小説は成立するのか?本書を読むと、かなり面白い作品になることがわかる。

『海の地政学』 ジェイムズ・スタヴリディス著/北川知子訳 早川書房/ハヤカワ文庫NF

・日本列島が中心にあるメルカトル図法の世界地図ばかり眺めていては、国際情勢を見誤る。

・北極海を中心にした地図を見れば、ヨーロッパとロシア、アジアが緊密な関係に見えてくる。カリブ海を中心にした地図は、「アメリカ」が違って見える。

『ブラインドサイト』 ピーターワッツ著/嶋田洋一訳 創元SF文庫

・加藤直之氏の表紙絵が素晴らしい。

・異質の知性とのコミュニケーションは可能か?難しい問いだが、SFがすでに色々な可能性を示してくれている。本書もその一つである。


読書の泉2019年3月号

『首都消失(上)(下)』 小松左京著 ハルキ文庫

・突然、首都東京とその周辺へ立ち入ることができなくなり、そこに住む人々と連絡することもできなくなったら……。そんな状況下で、政治、外交、軍事面でどのような動きが考えられるかをシミュレーションした小説。

・1980年代の先端技術が詳細に描写されていて、現在と比較しながら読むと興味深い。

『ファクトフルネス』 ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング著/上杉周作、関美和訳 日経BP社

・人間は、思い込みにとらわれ、合理的な判断ができない傾向にある。その思い込みを本能に基づいて10種類に分類して、筆者の豊富な経験に裏付けられたエピソードを交えて分かりやすく説明している。

・データをチャートにする徹底的な「見える化」が美しい。この本に書かれている13問の質問の答えは、あと10年後には、全く変わってしまっているかもしれない。知識のアップデートを心がけていきたい。

『たのしいプロパガンダ』 辻田真佐憲著 イーストプレス/イースト新書

・大日本帝国、ソ連、ナチスドイツ、北朝鮮、宗教組織、そして現代の日本における「たのしい」娯楽系プロパガンダを、恐ろしくもわかりやすく解説してくれる。

・娯楽系プロパガンダは販売促進にもつながるため、資本主義と親和性が高いことを思い知らされる。

・大切なのは、エンターテインメントの裏にある意図を読み解く力と、自分の立ち位置を認識して行動できる知的体力か。

『わかりやすさの罠』 池上彰著 集英社/集英社新書

・池上彰氏の分かりやすい説明を鵜呑みにしてはいけない……という内容を池上彰氏自身が書いているところがすごい。

・本書は、メディアリテラシーの入門書としての基本的な内容を押さえつつ、著者の豊富な経験に基づく具体例の説得力に圧倒される。


読書の泉2019年04月号

『ロケット・ササキ』 大西康之著 新潮社・新潮文庫

・副題は「ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正」という、実にヲヤヂが喜びそうな文言が並んでいる。

・日本のエンジニアも、なかなかやるじゃないか、と誇らしげに感じる。一方で未来のエンジニアをしっかり育て、処遇しているかと考えると心細い。

『就職先はネジ屋です』 上野歩著 小学館/小学館文庫

・自分の母親の経営するネジ製造会社に就職する女子のお仕事ストーリー。

・前作の登場人物も現れて、とても興味深い。

・必要なのは、ネットワークなのだ。

『放課後地球防衛軍2 ゴーストコンタクト』 笹本祐一著 早川書房/ハヤカワ文庫JA

・待望の第2巻は、高校の天文部とか電波研とか、マスコミではほとんど話題にならないような部活動の部員が、大活躍するお話。素晴らしい。

『菜の花工房の書籍修復家』 日野祐希著 宝島社/宝島社文庫

・痛んだ古書を修復する、なんとも地味だが、想像を絶っする集中力と手先の器用さを要求されるお仕事のお話。最近の「お仕事小説」の王道で、うら若き女性が主人公だ。

・本書の素晴らしいところは、登場人物が全て、自分の思いに正直なところ。正直者ばかりが登場する落語「井戸の茶碗」に通じる爽快さがある。


読書の泉2019年05月号

『面白くて眠れなくなる化学』 左巻健男著 PHP

・なぜ氷は水に浮くのか?なぜ爆発は起こるのか?素朴な疑問に答えられないことは多い。また、正確に答えようとするあまり、難解な説明になってしまうこともありがちだ。

・本書を読めば、そんな疑問に優しく答えることができるようになるかもしれない。

『工学部ヒラノ教授のラストメッセージ』 今野浩 著 青土社

・工学部の先生方の暗黒面を綴った工学部ヒラノ教授シリーズの集大成。

・理工系大学教授を目指す人には、必読の書か??

『天空の防疫要塞』 銅大著 早川書房/ハヤカワ文庫JA

・未知の異性体「空食い」が銀河を食い尽くす!銀河規模の脅威に人類はどう立ち向かうのか?

・素敵なスペースオペラを楽しもう。

『仏教抹殺』 鵜飼秀徳著 文藝春秋社/文芸新書

・明治維新の直後、神道を国の思想の礎として、仏教を廃絶する「廃仏毀釈」の嵐が吹き荒れた。

・積もり積もった不満は、何かのきっかけで爆発する。それを制御するのは困難だ。

『天災から日本史を読みなおす』 磯田道史著 中央公論新社/中公新書

・地震、高潮、津波……、古来から日本は天災による被害を被り続けてきた。そして、それを記録し続けてきた歴史がある。

・「役に立つ歴史学」という観点で、古文書の記述を未来の防災に役立てられたら、素晴らしい。


読書の泉2019年06月号

『UFOはもう来ない』 山本弘著 PHP研究所/PHP文芸文庫

・銀色の体、つるんとした頭、大きな目……こんな「宇宙人」のイメージは「間違っている」、このまま放置はできないから「最終シークエンス」を発動する……と、「本物」の地球外知的生命体「スターファインダー」が決断した!

・そんな「スターファインダー」の動きに、インチキ・オカルトTVディレクター、UFO研究家、詐欺師、小学生など、アクの強い登場人物が巻き込まれていくお話。

・UFOとは未確認飛行物体の略であるから、確認しなければ、あらゆる飛行物体はUFOだという基本的なところから、歴史上のUFO事件の解説のみならず、詐欺的宗教の手口など、とにかく情報密度の高い作品。

『星系出雲の兵站3・4』 林譲治著 早川書房/ハヤカワ文庫JA

・未知の異星知性体ガイナスとの戦いの物語、第一部完結。異世界の宇宙戦争で、超宇宙兵器のぶつかり合いが大迫力だ。メカ類の動作原理や構造の描写も興味深い。

・知能と知性の違いを考えさせられる作品でもある。

『ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる』 片山杜秀著 文藝春秋/文春新書

・いわゆる「クラシック音楽」の歴史を、ヨーロッパの近代史と連動させてたどる。登場する作曲家はベートーヴェンだけではない。

・本書の内容を知らなくともクラシック音楽の響きは素晴らしいが、本書を読んだ後に聴くと、作品の聴こえ方が違ってくるかも知れない。


読書の泉2019年07月号

『現代語訳 論語と算盤』 渋沢栄一著/守屋淳訳 筑摩書房/ちくま新書

・本書では、実業家は、私利私欲に走らず、道徳を持ち、世の中の幸福のために仕事をせよ、と説く。

・孔子や孟子をはじめとする中国古典の引用が豊富で、若年期から親しんできたことがうかがい知れる。論語の言葉の本質を考え、新たな時代にふさわしい解釈を与えようとしているとも受け取れる。

・最近の若者はなっておらん、教育が悪いせいだと断じるくだりもあり、これが古今東西を問わず普遍的な課題であることを再認識させられる。

『闇を裂く道』 吉村昭著 文藝春秋/文春文庫

・丹那トンネルと新丹那トンネル建設を描いた小説。特に旧丹那トンネルの方は、大正7年に着工し、関東大震災や北伊豆地震に襲われ、幾多の崩落事故も起き、多数の犠牲者を出しながら16年の歳月を経て完成する。なんとも壮絶な建設の記録だ。

・また、トンネル工事が原因で丹那盆地の渇水が起こり、住民運動の高まりも描かれる。静岡県がリニア工事で水の問題を重視しているが、慎重な議論が望まれる。

・20世紀のトンネル工事の課題を教訓にして、21世紀にふさわしい、環境に配慮した建設が実現されることを願う。

『文系と理系はなぜ別れたのか』 隠岐 さや香著 星海社新書

・海外では、文系と理系ではなく、もっと色々別れているらしい。だが、文系と理系の2系統に集約される動きもあるという。

・文系と理系が別れた方が、学習効率はたかそうな気はするが、仕事をするようになったら、どちらの素養も重要だ。

『「ロウソクの科学」が教えてくれること』 尾嶋好美編訳/白川英樹監修 サイエンス・アイ新書

・科学者ファラデー19世紀に行った講義録「ロウソクの科学」は、科学を学ぶ者というよりは教える者にとって、貴重なリファレンスマニュアルである。

・その名著を、豊富な写真と、実験レシピを加えて、総合的に解説した本書は、なんとも素晴らしい。

・ロウソクはなぜ燃える?という問いに、わかりやすい説明ができるか?科学的な知識を試される。


読書の泉2019年08月号

『Pythonではじめる機械学習』 Andreas C. Muller, Sarah Guido著/中田秀基訳 オライリー・ジャパン

・AIといえば、よくディープラーニングが話題になるが、本書を読めば、そればかりでないことがよくわかる。しかも、Pythonを使えば、とても簡単にプログラムできる。

・本書では、ライブラリやツールのインストールから、サンプルコード、果てはAIの性能評価まで説明してくれている。

『世界をよみとく「暦」の不思議』 中牧 弘允著 イースト新書Q

・太陰暦と太陽暦の違いは知っている方も多いと思うが、明治時代に太陰暦から太陽暦に変わった時の混乱は、知る人ぞ知る事件だろう。

・世界各地の暦の例が豊富に紹介されており、海外旅行のお土産に暦を買ってくるとういうのも一興だ。行かないけど。

『青い海の宇宙港 春夏篇・秋冬篇』 川端裕人著 早川書房/ハヤカワ文庫JA

・種子島ならぬ多根島の宇宙遊学生(小学校5、6年生)の、果てしなく密度の濃い1年間+αの物語。

・春夏篇では、島特産の黒糖を燃料にしたロケットを打ち上げ、秋冬篇では、島特産の酒(エタノール)を燃料にした深宇宙飛翔体を打ち上げる。ジェットコースターに乗っているような1年間だ。

・作中では、ロケットの理論が説明されているのは当然だが、地域振興の方法論も踏まえた物語構成になっているところが素晴らしい。

『まんが 偉人たちの科学講義』 亀著 技術評論社

・アリストテレス、ニュートンからアインシュタイン、ディラックまで、歴史に名を残す偉人たちが自説を講義してくれる。素晴らしい。

・偉人といえども、というか偉人だからこそ、私生活は幸福とはほどとおかったりするのが興味深い。


読書の泉2019年09月号

『農ガール、農ライフ』 垣谷美雨著 祥伝社/祥伝社文庫

・農業が大変だとは、認識している。しかし、具体的にどう大変なのかを説明しようとすると言葉に詰まる。

・本書は、そんな農業の大変さを描写しつつ、素晴らしさも伝える。同時に、女性の生き方の難しさを浮き彫りにしながら、世の中悪いことや悪い人ばかりじゃないよ、いいことにもいい人にも巡り会えるよと訴える。

・型にはまった幸せが得られないことを嘆くよりも、多様な幸せを噛み締めたい。「みんなちがって、みんないい。」(金子みすゞ)のだから

『ケーキの切れない非行少年たち』 宮口幸治著 新潮社/新潮新書

・本書によれば、非行少年の中には、認知能力に問題のある少年が少なくないという。彼らの見る世界は歪んでいる。彼らには、学習をする基礎となる認知能力のトレーニングが必要だ。

・筆者の提唱する「コグトレ」で、非行少年が減るとすれば、素晴らしい。

『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』 スコット・ギャロウェイ著/渡会圭子訳 東洋経済新報社

・Google, Apple, Facebook, Amazonというグローバルに展開する超有名企業の、今と未来を、軽妙な文体で描写している。

・一握りの億万長者になるか、その他多数の農奴になるか……、こんな刺激的な文章に挑発させられる。農奴の幸福を追求するのが、これからの幸せの形かもしれない。

『ザ・ベスト・オブ・ラリイ・ニーヴン 無常の月』 ラリイ・ニーヴン著/小隅黎・伊藤典夫訳 早川書房/ハヤカワ文庫SF

・異常に明るく輝く月の一夜、それは、大災害のしるしだった。という表題作『無常の月』のほか、ノウンスペースシリーズ、ウォーロックシリーズ、タイムハンター・スヴェッツシリーズから代表作や第1作を収録した日本オリジナル短編集。

・1970年代の素敵なSFをもう一度味わいたい。

『メイカーとスタートアップのための量産入門―200万円、1500個からはじめる少量生産のすべて』 小美濃芳喜著 オライリージャパン

・3Dプリンタやマイコンボードの高性能化と低価格化により、ものづくりで起業する敷居がだいぶ低くなってきた。しかし、量産して販売し、利益を得るとなると、まだまだ難しい。

・本書は、アイデアを形にして、量産、販売するときの幅広い知識が得られる。何よりも実例が豊富に書いてあるのが興味深い。

『群青神殿』 小川一水著 早川書房/ハヤカワ文庫JA

・2002年ソノラマ文庫刊の加筆修正再文庫版。貨物船が「硬い化け物」に沈められた。その謎に、民間の深海潜水調査艇が挑む。なんともワクワクする設定ではないですか。

『ビット・プレイヤー』 グレッグ・イーガン著/山岸真訳 早川書房/ハヤカワ文庫SF

・表題作は、ゲームエンジンの中のコンピュータ制御の登場人物(AIか?)が、不可解な世界の謎を解き明かす。最近のゲーム開発環境は、物理エンジンがとんでもなく精巧にできていると感じるが、この作品ではその未来を描く。

・他にも、これがSFだ、としか言いようのない作品が詰まったオリジナル短編集。


読書の泉2019年10月号

『SDGs入門』 村上芽・渡辺珠子著 日本経済新聞出版社/日経文庫

・SDGsとは、持続可能な開発目標を表す略語で、これからの社会のあり方の基礎的な方針を示すものである。先進的な施策というものは、このSDGsの目標のどれかに当てはまっているだろう。

・一消費者として、一市民として、一社員として、SDGsを意識して、筋のとおった生き方をする人が増えると良いと感じる。

『組織の不条理 日本軍の失敗に学ぶ』 菊澤研宗著 中央公論新社/中公文庫

・本書では、ガダルカナル戦やインパール作戦など、悲惨な結果になった作戦は、旧日本軍の非合理性による失敗ではないという。人間は、限定的に合理的であるがゆえに、全体として非合理的に見える結果になってしまうという。人間が完全に合理的に行動できるというのは幻想に過ぎない。

・取引コストが革新的な試みを潰すという理論は、なかなか興味深い。


読書の泉2019年11月号

『ホンダジェット』 前間孝則著 新潮社/新潮文庫

・自動車メーカーが30年かけて、ビジネスジェット機を開発・事業化したのは、奇跡という他ない。本書を読めば、その思いはさらに強くなる。

・飛行機のデザイン画は、素人が描くと、「絶対飛ばない」ものになってしまう。難しい。

・本書は、表紙や扉以外には、ホンダジェットの写真や図がほとんど掲載されていない。それだけに、ホンダジェットの初期イメージである「藤野氏がカレンダーの紙に書いたスケッチ」は貴重な図といえる。

『月まで3キロ』 伊与原新著 新潮社

・人生に問題を感じている登場人物が、人との出会いを通じて、自分の問題への向き合い方を少し変える、そんんな物語が6編収録されている短編集。天文学、気象学、地質学、素粒子論などの科学知識が随所に現れて、物語が進行していく。科学と文学がこんな風に融合するのは、新しい発見だ。

・表題作に登場する「月 3km」の道路案内標識は、静岡県浜松市にあり、ネットで検索すれば写真がたくさん出てくる。

『銃・病原菌・鉄』 ジャレド・ダイアモンド著/倉骨彰訳 草思社/草思社文庫

・人類発祥の地アフリカに比べれば、遥か後に人類が定住したヨーロッパ人が、アメリカ大陸を征服したのはなぜか。その差はどこにあったのか。それを科学的に考察した書。

・本書によれば、その差を生じさたのは、食糧生産・感染症への免疫力・発明を促進する環境などによるという。ユーラシア大陸が東西に長く、似通った気象条件の地域が広がっていることも大きかったようだ。

・オープンな環境こそが人類発展の源。


読書の泉2019年12月号

『日本大空爆』 松本泉 さくら舎

・太平洋戦争の米軍側の記録を元に、戦時の状況を再現する、壮大なお仕事。

・非軍事施設のみを空爆していたことが、克明にわかる。

・終戦直後の日本国民へのインタビューなどもあり、記録の膨大さが窺い知れる。

『タネの未来』 小林宙著 家の光協会

・食物となる植物の種子を流通させる会社を起業した若者の物語

・流通させるのは日本国内の色々な地方で栽培されている伝統野菜のタネ。単なるコレクターではなく、持続可能な、そして起業活動からも自由な未来を実現するヒントがここにある。

『エネルギーの愉快な発明史』 セドリック・カルル、トマ・オルディース・エリックデュセール監修/岩渕正利訳 河出書房新社

・エネルギーは、太陽光、風力、水力、化石燃料、原子力だけじゃない!ということがわかり、勇気づけられる本。

・日本の乾電池発明や地熱発電、電気自動車の記述があり、かなり好感が持てる。

・図表がもっとあれば、とちょっと残念な気持ちもあるが、それは、読者の今後の学習期待するところだろう。


読書の泉2018年06月号

『工作艦間宮の戦争』 谷甲州著 早川書房

・新・航空宇宙軍史の新刊。第2次外惑星動乱に使用されたイカロス42を巡る、太陽系内戦争のゲンバの物語。谷甲州一流の骨太の宇宙戦争を堪能したい。本当の戦争は困るが。

・現場で働くということは、とにかく辛いことの連続だ。それは、戦時も平時も変わりない。

『技術の街道をゆく』 畑村洋太郎著 岩波書店/岩波新書

・鉄、防潮堤、ダム……具体的な技術の成果の話から始まり、技術の本質に迫る。

・工学の基本は、人の役に立つこと。これを忘れてはならない。


読書の泉2018年07月号

『下町ロケット ゴースト』 池井戸潤著 小学館

・中小企業の希望の星「佃製作所」が、今回は、トラクター用エンジンのトランスミッション(に使われるバルブ)の開発に挑戦する。特許をめぐる法廷闘争や農業後継の課題など、重層的に物語が展開する。

・佃社長はじめとする佃製作所の人々は、皆さん素敵な社会人ばかり。ものづくりの原点を考えさせられるとともに、企業は人の集団であることを痛感させられる。

・本書で語られた物語は、次回作「ヤタガラス」で完結するらしい。期待したい。


『システムの問題地図』 沢渡あまね著 技術評論社

・ユーザの「だってITシロートだから」の一言で、ベンダもユーザも誰も幸せになれない情報システム開発のお仕事。

・著者の「もういい加減にしようぜ」という叫びが、業界の改善に結びつくことを祈る。みんな、社会人になってもちゃんと勉強を続けましょうね。


読書の泉2018年08月号

『世論 (上・下)』 W.リップマン著/掛川トミ子訳 岩波書店/岩波文庫

・世論調査というものが、どうも世の中の人全ての意見を代表しているものではないような気がする。そんな疑問を感じたら、本書を読もう。

・人間は、見たいものしか見たがらないし、これまで見てきたものに基づいた考え方に偏りがちだ。自分と他人の中のステレオタイプを意識して発見していくことが、偏りのない判断につながる。

『巨神覚醒 上・下』 シルヴァン・ヌーヴェル著/佐田千織訳 東京創元社/創元SF文庫

・全長60メートルの巨大ロボットが世界各地に突然出現し、人類を絶滅の淵に追いやる。絶望的な状況のなかで、登場人物たちは諦めずに、可能性を探り続け、行動し続ける。

・人が乗り込んで操縦するタイプの巨大ロボットでも、SFとして成立するという発見が心強い。


読書の泉2018年09月号

『植物は<未来>を知っている』 ステファノ・マンクーゾ著/久保耕司訳 NHK出版

・植物の持つ強靭さは、中枢を持たないモジュール構造にある。言われてみれば、確かにその通り。

・脆弱性の少ないシステムを作るには、重要なものを集中させず、うまく分散する仕組みが必要不可欠だと気づかされる。


『論理ガール』 深沢真太郎著 実務教育出版

・数学しか信じられない少女と、数学の重要性が実感できない男の成長の物語。

・人生のあらゆる関心事、お金、友人、恋愛などをすべて数学的に合理的に判断できたら、どんなにスッキリすることだろう。とヲヤヂなどは考えるが、自分の論理だけで生き方を決定することは、かなり難しいことは確かだ。

『2022年の次世代自動車産業』 田中道昭著 PHP研究所/PHPビジネス新書

・未来の自動車というと、電動になったり、インターネットに接続されて自動運転になったりといった、細かい技術的な変革に目が奪われる。しかし、実は「自家用車」という概念が破壊され、自動車を使った生活様式が大きく変貌する方の意味が大きいように感じる。

・これから人口減社会となり、縮小する国内市場を考えると、いかに国際的に通用する製品を作り出すかが非常に重要である。一極集中的な社会・経済構造を、分散化された構造に改革していくのは、その根本的な解決に貢献する可能性がある。


読書の泉2018年10月号

『ビブリア古書堂の事件手帖~扉こと不思議な客人たち~』 三上延著 メディアワークス文庫

・衝撃的な一冊。「ビブリア古書堂の事件手帖」が実在していたというのだ!(もちろん作中世界でだが)さらに、栞子さんががお母さんになっているのも、衝撃が走る。ちょっと変わったお母さんとちょっと変わった娘の取り合わせが、実にファンタスティックだ。


『星界の戦旗VI 帝国の雷鳴』 森岡浩之著 早川書房/ハヤカワ文庫JA

・1巻が1996年、実に22年の歳月を越えての、最新刊刊行である。

・アーヴ語のルビの嵐の心地よさを久しぶりに味わうことができた。


『下町ロケット ヤタガラス』 池井戸潤著 小学館

・下町ロケット「宇宙から大地」編の第2巻。前作「ゴースト」で大変なことになっていた主人公たちが、さらに大変なことに。

・佃社長の理想を追い求めるブレない生き方が他人を巻き込むカリスマ性は、もはや聖人のようだ。


読書の泉2018年11月号

『戦国日本と大航海時代』 平川新著 中央公論新社/中公新書

・豊臣秀吉の世界征服の野望とか、伊達政宗の独自外交とか、資料に基づくドラマが興味深い。

・キリスト教布教と貿易との微妙な関係が新たな視点を与える。


『星系出雲の兵站 1』 林譲治著 早川書房/ハヤカワ文庫JA

・戦争の成否は兵站にあり、というのは、『補給戦』や『失敗の本質』を読めば明らかなこと。

・それを、本書では、宇宙での異星生命体との戦いに当てはめて物語にしている。

・まだ物語は始まったばかりで、謎が深まるばかり。これからが楽しみだ。


読書の泉2018年12月号

『日本プラモデル六〇年史』 小林昇著 文藝春秋/文春新書

・静岡県は、「模型の世界首都」だという。静岡県内の模型各社がプラモデルに参入した時期が若干遅いのは、木型模型での成功体験があったことも一因にあるというところが考えさせられる。

・今や学校の授業でプラモデルを作らなければ、一生プラモデルに触れない人がいる時代だ。ものづくりの楽しみを大切に伝えていきたい。

『ドラゴンクエストXを支える技術』 青山公士著 技術評論社

・1000人が同時にオンラインでプレイするという、気の遠くなるような大規模オンラインゲームの開発から運用までを、わかりやすく説明した本。

・この本を読んでワクワクしなかったら、ゲームクリエイターは目指さない方がいい。

『問題解決力とコーディング力を鍛える英語のいろは』 鈴木達矢著 技術評論社

・プログラミング言語は、基本的に英語がベースである。だから、変数名、関数名やクラス名をつけるときに、いつも困ってしまう。これは英語でなんというのか?と。

・また、多バイト文字が通らないエディタを使ってプログラムを書かなければならないことがある。そんな環境では、英語でコメントを書く必要が出てくる。これも困るのだ。

・と、こんな悩みを抱えている人のために、本書をオススメする。英語を使って、開発する場合のヒントがたくさんある。