2014

月刊皆無軟体 2014年版

2014年に皆無軟体でのちょっとした活動や読んだ本等をお知らせします。

読書の泉2014年01月号

『スマートグリッド』 横山明彦著 日本電気協会新聞部

・日本のすべての家屋に太陽光発電設備をつくったとき、ゴールデンウィークの日中等、電気需要の低い時間帯では電力が余ってしまうらしい。そうすると、電力会社は電力系統の破壊を防ぐために、顧客に料金を払って「使って頂く」ことになるかもしれない。そんな不思議なことが、スマートグリッドの普及した社会では普通のことになるかもしれない。

・貯めておくのが難しい電力を、無駄なくつくって使うための技術は、まだまだ開発途上だ。

『星を創る者たち』 谷甲州著 河出書房新社・NOVAコレクション

・宇宙土木SF短編集である。月、火星、水星、木星、土星で宇宙開発工事をてがける技術者の物語が詰まっている。

・危機的状況でも、決してあきらめず、解決策を考えていく。そして、解決のためには目を輝かせて作業する。そんな技術者の矜持について考えさせられる。

『ソフトウェア開発で伸びる人、伸びない人』 荒井玲子著 技術評論社・技評SE新書

・「会社員」は職業ではない。プロの開発者としての心構えを分かりやすいことばで解説した本。

・業務全体を常に考えるとか、説明の技術を磨くとか、自分の業務にかかわらない技術も勉強し続けるなど、そういう人がいたらぜひ一緒に仕事をしたいと思える人の条件が書いてある。どうすればそういう人になれるかは、あまり詳しく書かれていない。安易に解決方法だけを求めてはいけないらしい。


読書の泉2014年02月号

『学問の冒険』 河合雅雄著 岩波書店・同時代ライブラリー

・類人猿の社会に入り込んで彼らの社会的行動を観察するという研究手法で、類人猿の生活を明らかにしてきた著者の書。自らの研究体験を語りながら、理想の教育についても言及している。

・書名は、『学問の冒険』だか、筆者の研究活動は『冒険』の連続。それにしても、肺を患いながらも異国のジャングルでフィールドワークに挑むなど、筆者のこのバイタリティはどこからくるのだろうか。誰も知らないことを解き明かしたい、そうしなくては生きている価値がないという信念がそうさせるのか。

『アルジャーノン、チャーリイ、そして私』 ダニエル・キイス著/小尾芙佐訳 早川書房

・「アルジャーノンに花束を」の作者が語る、アルジャーノン・チャーリイ誕生の前から、誕生まで、そして誕生後の舞台裏事情。

・作家になるというのは、これほども大変なことかと感じずにはいられない。作家、編集者、出版社が協調していい作品を出す方向へと動くのが理想だと思うが、なかなか難しいのだ。

・また、小説の映画化やTVドラマ化、ミュージカル化など、他のメディアと原作者のかかわり方も、なんとも難しいものだと感じてしまった。

『アルゴリズムが世界を支配する』 クリストファー・スタイナー著/永峯涼訳 角川書店・角川EPUB選書

・証券取引は、もはや人間がコントロールできる範囲を超え、コンピュータの戦場となっている。優れたアルゴリズムで動くコンピュータに勝利が訪れる。人間は、コンピュータ様のしもべである。

・アルゴリズムが人間に取って代わる現象は、金融業界だけでなく、プロスポーツのマネジメントや医療の分野にまで浸透してきているという。

・本書を読むと、人間の職がコンピュータによってどんどん奪われていく危機感を感じる。しかし、コンピュータの相棒と協働する、そんな働きかたがあってもいいんじゃないか。

『科学技術の戦後史』 中山茂著 岩波書店・岩波新書

・本書を読めば、太平洋戦争後から1990年代までの、日本の科学技術の歩みを概観できる。

・本書は1995年に発行されている。日本の技術は世界に誇れると皆思っていた頃の本を読むと、その後の凋落ぶりが際立つ。もっとも、昨今はマスコミが凋落した分野を好んで取り上げているバイアスも感じられるが。

・福祉や環境問題は、これまでの競争中心の研究・開発からは解決策が出てこないという。競争を超えた市民に奉仕する科学技術の開発理念が必要だ。


読書の泉2014年03月号

『河森正治 ビジョンクリエイターの視点』 キネマ旬報社編 キネマ旬報社

・マクロス、アクエリオンといえば、河森正治。アニメを中心とする河森正治の仕事を、あまり画像に頼らずに文章で紹介するという、なかなか画期的な書物である。

・河森正治が子どもの頃遊んだという「フィッシャーメカニック」という玩具は、機械の機構を再現できる面白い(製造業の国ドイツらしさを十二分に備えた)ブロックである。ヲヤヂも以前から一つ欲しいと思っていたのだが、製品の種類が多いため、どれを買うか迷うことや、玩具としては高価なこと、販売店が少ないことなどの理由から入手できずにいた。しかし、本書を読んだのも他生の縁と、通信販売で「フィッシャーテクニック・クラシックキット」なる復刻版を買ってしまった。河森正治が遊んだものと同じらしい。パッケージの箱が立派で、すべての部品を美しく収納することができる。ゴミをださず、片付けも楽しいという実に実用的なパッケージであった。すごいぞMade in Germany。

『編集長が語る スマートグリッド産業のすべて!』 甕秀樹/宇津木聡史著 シーエムシー出版

・書名の通り、スマートグリッド産業に係わる様々な業種の企業の取組が紹介されている。スマートグリッド関連業者といえば、電機メーカー、電力会社は誰でも予想がつくところだが、自動車産業や住宅、ITまでその裾野は広い。

『探偵ガリレオ』『予知夢』 東野圭吾著 文藝春秋/文春文庫

・だいぶ前にテレビドラマ化され、子どもが熱心に見ていたのを思い出し、原作本を改めて読んでみた。そうしたら、ドラマの内容をほとんど覚えていないことに愕然とするヲヤヂがいた。

・犯罪の容疑者たちが、ありとあらゆる欲に突き動かされ、ある意味非常に「人間的」に描かれているのに対し、「ガリレオ」こと湯川学が、知識欲だけに動かされるているように描かれ、ある意味「非人間的」というか、「超人的」にみえるところがおもしろい。湯川のように生きたいと思うのは、ヲヤヂが変人だから?

『江戸の産業ルネッサンス 近代化の源泉をさぐる』 小島慶三著 中央公論社・中公新書

・明治維新後、日本は飛躍的な近代化を遂げ、西洋列強と覇を競うほどにもなった。本書を読むと、近代化の源は、江戸時代に蓄積された富と技術、技術を使いこなせる人材であったと感じる。

・本書の論拠は、主に西洋諸国から訪日した人々の日本論や日本に関する記述によっている。江戸時代、日本は西洋人から低く見られると同時に、尊敬すべき民族であることが認められていたところが面白い。

『「ガンダム」を創った男たち (上)(下)』 大和田秀樹著/矢立肇・富野由悠季原案 KADOKAKWA/角川コミックス・エース

・巻頭に「本文中に登場する人物及び内容は事実に基づき、一部脚色を加えて描いています。」と断り書きがある。本書を読むと「一部脚色」というのは、「脚色や演出されていない部分もちょっとある」という程度の意味ではないかと思えてくる。

・主人公「富野ヨシユキ」の作品のためには手段を選ばない豪快さ、「安彦ヨシカズ」の超エリートクリエーター的設定、大河原邦男の町工場の親父風描写などが際立つが、周りで暗躍する、玩具メーカーや映画配給会社のエライ人たちの渋い演技が、また素晴らしい。

・凄まじいエネルギーを感じさせ、登場人物たちは一生懸命熱い汗を流している話なのだが、それゆえにギャグマンガとしての品質が向上しているところがおもしろい。

・健全な青少年が本作品を素直に読んで、アニメ業界への誤った認識を深めないように祈る。

『コーディングを支える技術』 西尾泰和著 技術評論社

・プログラミング言語は、自然言語と違って、徹底的に人間の都合を優先してできている。もっとも、コンピュータのハードウェアの制約があるので、完全に都合通りには行かないのだが。

・本書を読むと、変数名や演算子、制御構造、配列、リスト、クラス……といった、数多くのプログラミング言語を使う上で共通の知識基盤を手に入れることができる。特定の言語にとらわれず、共通の知識に焦点を当てているところが素晴らしい。

・ヲヤヂはC, C++やJava,Perl, Rubyなど複数の言語でプログラムを書いた経験はあるものの、いまひとつ理解が足りない。そんな人たちには、本書の内容は、よい道しるべになる。


読書の泉2014年04月号

『大航宙時代ー星海への旅立ちー』 ネイサン・ローウェル著/中原尚哉訳 早川書房・ハヤカワ文庫SF

・たった一人の肉親である母親を亡くした主人公の少年は、他に選択肢もないまま、宇宙商船の乗組員となり、住み慣れた惑星を後にした……。SFの王道をいくお話で、読書中は、楽しいひとときを過ごすことができる。

・人類が恒星間に拡散したために、モノの取引が経済の中心となっている世界で、知恵とチームワークで商売繁盛をめざす。商船が訪れる一つ一つの星系の産業面での特徴付けがわかりやすく、往年のSF RPG "Traveller"を思い出してしまった。

『デジタル社会はなぜ生きにくいか』 徳田雄洋 岩波書店・岩波新書

・デジタルテレビになって不便を感じるのはなぜ?最近の家電に使いにくさを感じるのは?駅の券売機の使い方が分からん!……など、日頃感じている、ちょっとした不満(重大な問題もあるのだが)の原因を改めて考えてみる本。ここまで電子社会のネガティブな面を詳しく書かれてしまうと、未来を絶望的に感じてしまう御仁がいらっしゃるかもしれぬ。

『赤い惑星への航海』 テリー・ビッスン著・中村融訳 早川書店・ハヤカワ文庫SF

・NASAも海軍などの政府組織が巨大企業体に買収された未来(?)ハリウッドの映画会社が、映画を撮るために火星への飛行を成功させるというお話。

・火星での新しい発見から、続編も書かれそうな勢いを感じたが、どうだったんだろう?

『漢字と日本人』 高島俊男著 文藝春秋社・文春新書

・「科学」と「化学」は発音を聞いただけでは区別できないが、普通の日本人は、会話の文脈中で「かがく」という音から漢字を思い浮かべることで意味を理解している。

・本書では、漢字の読みがたくさんある理由や漢字の同音異義語が多いことを、歴史的事実から考察している。

・なかなか日本人というのは、複雑な言語を操っているモノだと感心する。


読書の泉2014年05月号

『電気発見物語』 藤村哲夫著 講談社・ブルーバックス

・静電気の発見、電池・発電機の発明、変圧器、電動機、通信機、テレビ、コンピュータ……電気のおかげで生活が豊かになったことは疑う余地がない。

・これだけ有用な電気なのだが、世間の目は冷ややかだ。電気はあってあたりまえ、見えないからよくわからない、感電すると怖い……。そんなマイナスイメージをあげるときりがないことは確かだ。

・また、電気に興味を持った人がいざ電気のことを学習しようと専門書をひもとくと、そこには理解不能な数式の大海原が広がっている。これでは、電気のことを理解してもらうのは難しい。

・そこで、本書のように、電気の技術が人の役に立つまでの物語を、易しいことばで書いた解説書が必要になってくる。本書は、電気を学びたい人、電気を教えたい人に読んでほしい。

『グリムスペース』 アン・アギレイ著/幹遥子訳 早川書房/ハヤカワ文庫SF

・二次空間グリムスペースを通ることで超光速航行が可能になった世界。グリムスペースを通り抜けるには、J遺伝子という特殊な遺伝子をもつ「ジャンパー」が必要だ。ジャンパーを独占しようとする超巨大企業体と、自由を求める人々との戦いが凄まじい。

・特殊な生体を有する異星生命体、宇宙でたくましく生きる人類。まさにSFの王道を行く話である。

『戦略思考ができない日本人』 中山治著 筑摩書房・ちくま新書

・合理的かつ戦略的に問題を解決するということがどうにも苦手なヲヤヂであるが、これは日本人に共通の特徴のようである。

・本書は、日本人の戦略的センスのなさの要因を水田稲作耕作に求め、実に簡潔明快に論を運ぶ。簡潔明快すぎて、ちょっと同意しかねる部分や、頭の悪いヲヤヂには、根拠が不明でにわかには受け入れがたい記述等もあった。それはともかく、これからも日本人として生きていくからには、気に留めておいた方がよいことが書いてあることは確かだ。

『スターシップ ー反乱ー」 マイク・レズニック著/月岡小穂訳 早川書房・ハヤカワ文庫SF

・テロニ連邦と共和宙域政府が戦争をしている世界で、共和宙域軍の有能な士官である主人公ウィルソン・コールが、巡視艦<セオドア・ルーズベルト>に配属されるところから物語は始まる。この艦は、銀河辺境宙域に配備された老朽艦で、乗員はすべて、なにか問題を起こした人物(異星人含む)ばかりだった。軍の命令よりも、状況分析に基づく合理的な現場の判断を優先する、主人公の活躍がすばらしい。

・現場の判断やサービスを受ける側の論理よりも、上部組織の都合がしばしば優先される社会は悲劇的であるが、本書では、そこのところが喜劇になってしまうところが興味深い。

『超常現象をなぜ信じるのか 思い込みを生む「体験」のあやうさ』 菊池聡著 講談社・ブルーバックス

・UFO、超能力、霊感……現代の科学ではどうしても説明のできない超常現象の数々を、人は容易に信じてしまうのはなぜか。その理由を認知心理学の視点から易しく解説してくれるのが本書だ。

・「百聞は一見に如かず」というが、「一見」によって与えられる強烈な印象が、人間の思考に与える影響の大きさを改めて認識する。

・ヲヤヂの私的見解では、現代の科学的方法では、「まだ」超常現象を説明する理論が構築できない、と考えている。特に、確率や統計学の限界を超えていく理論が必要だと思う。


読書の泉2014年06月号

『科学は冒険!』ピエール=ジル・ド・ジェンヌ、ジャック・バドス著/西成勝好・大江秀房訳 講談社/ブルーバックス

・本書の中では、科学者の仕事が、具体的な内容に基づき、平易に語られている。著者の一人、ピエール=ジル・ド・ジェンヌは、ノーベル物理学賞の受賞者で、本書は彼の高校生を対象にした講演会の記録である。

・最後の方には、科学教育についてフランスの問題点、アメリカの有利な点等に議論が及び、高等教育の在り方を深く考えさせられる。入試制度が科学教育に適合していないというのは、どこの国も同じなのか。

『バイオミメティクスの世界』 宝島社/別冊宝島

・鮫肌の競泳水着、ミツバチの巣のようなハニカム構造、カワセミのくちばしにヒントを得た新幹線の形状など、この世の中には、生物の器官や生態からヒントを得た工業製品が多数ある。

・本書にはバイオミメティクス=生物模倣技術の例が、1テーマ1、2ページにまとめてあり、ちょっと時間のあるときに少しずつ読むことができる。

『民族の世界地図』 21世紀研究会編 文藝春秋/文春新書

・アイヌ人、ユダヤ人、アルメニア人、クルド人…いろいろ「人」と名のつく民族の人々や、フツ族、ツチ族、チベット族など「族」のつく集団に属する人々について、歴史的背景と現在の状況についてコンパクトにまとめられた本。

・今どき「日本は単一民族」などというと大変なことになる訳で、もっと民族について意識したい方には、本書を一読すればよろしいのでは?

『宇宙ロケットに夢をのせて 〜小さな会社の大きな挑戦〜』 植松努著(講演録) さんだる文庫

・北海道でロケットを製造し、無重力実験設備まで有する株式会社の専務の講演録だ。「爆発しない」ロケットを作っていると言いながら、次の瞬間に試験中にロケットが爆発している映像を見せるなど、なかなかお茶目な講演だ。生で聴きたかった。

・他人と同じ土俵で競争しないという生き方に共感できる。土俵を作ってしまう人になりたい。

『宇宙生命へのアプローチ』 祖父江義明著 誠文堂新光社

・銀河の生成、恒星、惑星系のできるまでを解説した後で、銀河全体に情報を発信し、銀河宇宙空間に情報を蓄える「銀河図書館構想」が語られる。人類以外の知的生命体が、人類と同じ波長の電磁波通信に使うのか?とか、まったく異質な文化をもつであろう生命体の通信プロトコルが解析できるのだろうかとか、悪い宇宙人が地球の場所を知ってしまったらまずいのではないかとか、いろいろ心配な点はあるものの、構想自体は壮大でおもしろい。


読書の泉2014年7月号

『科学史を考える』 大沼正則著 大月書店

・本書では、科学の歴史そのものではなく、科学の歴史がどのような思想を持って語られてきたのかが論じられている。

・科学技術の進展を資本主義の拡大と結び付け、戦争との関連にも言及する。その中で、過去の思想家たちや国の科学技術行政をめった切りにして批判しているのがすごい。当然、原子力開発についても批判的で、現在に至るもその状況が変わっていない(悪くなっている?)のがつらい。

・消費税が導入される前の本なので、「定価1200円」とだけ書いてある。「税」の字がない本を見ると、何か時代を感じる。

『SFを実現する 3Dプリンタの想像力』 田中浩也著 講談社/講談社現代新書

・"SF"といっても"Science Fiction"の略ではなく、"Social Fabrication"の略である。「みんなでものづくり」といった感覚か。3Dプリンタを使って別の3Dプリンタを作る試みから、ものづくりを通じて、「もの」が進化していくという現象が面白い。

・部品を手軽に作れる3Dプリンタを皆無軟体でも導入したいところだが、資金も場所もない。電子回路までつくれてしまうプリンタが現れたら、考えてもいいかもしれない。

『原発事故と放射線のリスク学』 中西準子著 日本評論社

・「安全」は技術的、理論的に実現できるが、「安心」は感情の問題なので、簡単に実現するのが難しい。

・「安心」を手に入れるためには、リスクを正しく判断し、「安全でない要素はあるが、この程度なら覚悟する」姿勢が重要となる。本書を読むと、リスクを評価する方法の一端を知ることができる。

・人間の感情というのは、問題の解決を困難にする。心理学や社会学的な知見も総動員して、解決策を探る必要がありそうだ。

『宇宙戦艦FILEアニメ編』 中村宏治&宇宙戦艦研究倶楽部著 学研パブリッシング

・本書で取り扱う宇宙戦艦は、あくまでもアニメで活躍する類いの、科学的・技術的・戦術的に考えるとあまり合理的とは思えないツッコミどころ満載の設計思想で開発されているアレである。

・ハードSFを愛する御仁には、とても許せない、存在価値を認められないシロモノが多数収録されている。ヲヤヂは、宇宙戦艦ヤマトに登場する滑走路のある宇宙空母とか、宇宙なのに「急降下」爆撃とか、そういう遊び心には寛容なほうなので、楽しんで読むことができた。

・残念なのは、超時空要塞マクロス関連のメカが全く収録されていないこと。

・続刊として、「宇宙戦闘機FILEアニメ編」というのを希望する。


読書の泉2014年08月号

『日本の国境問題 ー 尖閣・竹島・北方領土』 孫崎享著 筑摩書房・ちくま新書

・国境は複雑だ。過去の支配状況、条約、現在の状況、当事国の国力など様々な要素が絡む。

・国境問題がマスコミで報じられるときは、我が国の言い分が協調される。これは当然のことではあるが、国際問題を解決する方策を考えるときには、危うい状況と言える。

・本書を読むと、元外務省の著者から見た、日本の「国境問題の問題点」が明らかになる。

・国境問題が取りざたされるときは、なにかと国内に問題があるときが多い。だから、最後の一文は、国民一人一人が気に留めておくべきだと感じる。「政治家が領土問題で強硬発言をする時、彼はこれで何を達成しようとしているのかを見極める必要がある。」

『すべてはネーミング』 岩永嘉弘著 光文社/光文社新書

・著者は日立洗濯機「からまん棒」の名付け親で、製品や店、雑誌の名前を数多く手がけている。本書では、その創作過程がわかりやすく説明されている。

・ワークショップ風に、架空の商品に名前を付ける課題を設定し、ふさわしい名前を決定するまでの過程が疑似体験できる章がおもしろい。

『ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験』 大鐘良一・小原健右著 光文社/光文社新書

・医師やパイロット、大企業の技術者などが宇宙飛行士になることがあるが、宇宙飛行士になると彼らの所得は下がることが多いという。所得が減る上に危険が増える、こんな業種を、なぜ彼らはめざすのか。「ふたつのスピカ」や「宇宙兄弟」を読めば、その気持ちはなんとなく分かったようにはなるのだが。本当のところはよくわからない。

・本書を読むと、そんな奇特な人物を選び出すための、大変な試験の様子が分かる。技術や技能、専門知識を、生かすも殺すもコミュニケーション力次第ということのようだ。

『推定脅威』 未須本有生著 文藝春秋

・自衛隊の最新鋭練習/戦闘機TF-1が、国籍不明機を追跡中に謎の墜落。この事故を始まりとして、国籍不明機によるTF-1の墜落事故が連続して発生する。

・この謎の裏にある陰謀とTF-1開発にまつわる秘話が、一人の女性技術者の調査で明らかにされていく。彼女の持ち前の強い好奇心と、多数の人を巻き込みながら謎に挑む姿が、とても魅力的だ。

『集団的自衛権とは何か』 豊下楢彦著 岩波書店/岩波新書

・今の内閣総理大臣が、7年前に総理大臣だったころ書かれた本である。この本で指摘された未来の姿と現在とを比べてみるのも、面白そうだ。

・本書を読むと、強い米国とつきあうには、それなりの覚悟としたたかさが必要だということが、痛いほどわかる。


読書の泉2014年09月

『未来からのホットライン』 ジェイムズ・P・ホーガン著/小隅黎訳 東京創元社・創元推理文庫SF

・もし、過去へ情報を送ることができるタイムマシンが開発されたら……。コンピュータ・プログラミングや核融合、人工衛星での実験など、空想科学的イベントを複雑に絡み合わせて、サスペンスフルな展開が楽しめる。

・自分を複製するワーム的な動作をするプログラムで、敵のシステムを破壊して世界を救うという話はたくさんある。しかし、本作のように、ワームを利用することで世界を救う様子を描いた作品は稀ではないだろうか。

・1980年に発表された本作の舞台は2009年なので、すでに過去の年代となってしまった。SF小説というのも、一種のタイムマシンのようだ。

『博士の異常な発明』 清水義範著 集英社/集英社文庫

・もし、プラスチックを分解する細菌が発明されたら? もし日本が沈没した後で1万年後に浮上したら? などなど往年の日本SFを彷彿とさせるテーマの作品を21世紀によみがえらせた。さすが清水義範である。

・シーマンやアイボなど今となっては懐かしいアイテムが登場し、歴史の流れを感じさせる。

『FREE フリー <無料>からお金を生みだす新戦略 クリス・アンダーソン著/小林弘人監修/高橋則明訳 NHK出版

・Googleが有料だったら誰も使わない?無料でもお金を動かす様々な方策を豊富な実例とともに紹介している。

・もちろん、この本は無料ではない。原著の電子書籍は無料のようだが。

『雷撃深度一九.五』 池上司著 文藝春秋・文春文庫

・本書は、太平洋戦争末期、日本帝国海軍の潜水艦が米軍の重巡洋艦を撃沈した史実に基づいて書かれた、ドキュメンタリー風フィクション。「眼下の敵」が好きな向きにはたまらない趣向の作品と言える。

・映画「真夏のオリオン」は、本書を原案にして制作されたという。この映画は、水上鑑対潜水艦戦闘の緊迫した部分については、本書の雰囲気がよく映像化されていたと思う。


読書の泉2014年10月号

『感性工学への招待 感性から暮らしを考える』 篠原昭・清水義雄・坂本博編著 森北出版

・工学の使命は、人間の生活を便利にすること。最近は、便利になりすぎて、これ以上便利にすると人間がダメになりそうな勢いだ。実際ダメになっている気もしないでもない。

・これだけ便利な世の中になってしまうと、便利さを構成する要素に、使い易さや心地よさのような感性の重要性がどんどん高まっていく。

・本書では芸術や文学など、工学とは縁遠いと存在であった分野を感性という尺度で「測定」していくと、新しい便利が見えてくるのかもしれない。

『ビブリア古書堂の事件手帖 4、5』 三上延著 メディアワークス・メディアワークス文庫

・古書にまつわる人間ドラマを推理小説風の味付けで語る独特の物語。本シリーズも折り返しから終盤に差し掛かった。

・今まで謎の存在だった栞子の母、智恵子が要所要所で不気味に登場する。篠川智恵子が登場するとどうしてもドラマ版の安田成美氏の顔が思い浮かんでしまって、ちょっと戸惑う。

・本書では、これまでの謎が少しずつ明らかになり、新たな謎の追加で世界が広がる。

・ヲヤヂはそれほど本を読む方ではなく、読んだ本の内容も片っ端から忘れていくので、本書のように古書の話題だけでここまで語り、読者を惹きつける作家の力というのは、なんとも素晴らしいものだと驚嘆するのである。

『こんなに役立つ数学入門−高校数学で解く社会問題』 広田照幸/川西琢也編 筑摩書房・ちくま新書

・文系と理系を分けてしまう悪しき伝統のため、社会科学系の研究者は、とても苦労しているらしい。逆に、理系教育をうけてきた人が、数学を駆使して社会科学系の研究で活躍することもあるようだ。

・純粋に数学を学問として研究している人々は、数学を実生活に役立たせることを、汚らわしくも忌まわしく感じるところがあるようだ。しかし、数学を教育する人は、そのような感覚をもたれては困る。

・本書のように、数学をツールとして使う視点で書かれた解説書がもっと出版されたら、おもしろいだろうな。

『なんでも測定団が行く はかれるものはなんでもはかろう』 武蔵工業大学編 講談社・ブルーバックス

・測定は工業技術の基礎である。測れないものは設計できないからだ。本書を読めば、50種類のものの測り方がわかる。

『プロジェクトぴあの』山本弘著 PHP研究所

・秋葉原で電子部品を大量に買っていく「お姫様」その名は結城ぴあの。宇宙への旅立ちを夢見て、それを実現するためにアイドルになって資金を稼ぎ、人々をプロジェクトに巻き込んでいく。

・本書は、『地球移動作戦』の世界で当たり前の技術になっていた「ピアノ・ドライブ」の開発史だ。ものづくりをテーマにした小説は面白いぞ。

『機龍警察』 月村了衛著 早川書房・ハヤカワ文庫JA

・近未来、高度に武装しているテロリストに対抗するため創設された警視庁特捜部。その特徴的な装備は、「龍機兵」とよばれる近接戦闘兵器だ。人間が乗り込んで操縦し、状況に応じて各種モードに変形する画期的なメカである。

・なんとなく機動警察パトレイバーを彷彿とさせる設定であるが、内容はかなりハード。


読書の泉2014年11月号

『だれの息子でもない』 神林長平著 講談社

・ネットカムコンというインタフェースで脳とネットを接続し、ネットアバターに命令するだけで必要な情報が手に入る世界。そこで、生身の身体が失われても、消滅しようとしないアバターを消去するのが、主人公の仕事。また、各戸に配備されている携帯型ミサイルシステムの管理も業務の一部だという。

・こんな主人公と、死んだはずの父親のアバター、あるはずのない祖父のアバターなど、わけのわからない存在がドタバタ活劇を繰り広げる。仮想と現実が入り乱れたややこしい展開の中で「意識」とはなにかを考えさせるところは、神林長平一流の手腕による。

『プログラミング20言語習得法』 小林健一郎著 講談社・講談社ブルーバックス

・”hello, world”といえば、KernaghanとRitchieの”THE C Programming language”の冒頭に掲載されているサンプルプログラムコードである。パソコンを新調して新しくコンパイラをインストールしたときなど、動作を確認するためによく入力されるコードだろう。

・本書ではC, C++, Java, Perl, Visual Basic, FORTRAN, BASIC, Pascal, Ada, Objective-C, Smalltalk, C#, COBOL, LISP, Haskell, Scala, Python, Ruby, VBscript, AWKの各言語で”Hello!”を出力するプログラムを作っている。その後、各言語の特徴をふまえた例題を解説している。また、Windows環境で動作する言語処理系の紹介もある。

・全部試すと、けっこうやり甲斐を感じられるかもしれない。

『ぼくのマンガ人生』 手塚治虫著 岩波書店・岩波新書

・本書については、以前、書評というか感想を書いたことがある(廃止されたkeinsoftのWebサイトに掲載)。今回、改めて読んでみて手塚治虫の迫力を改めて感じることができた。

『この方法で生きのびろ!』 ジョショア・ベイビン、デビッド・ボーゲニクト著/倉骨彰訳 草思社

・地震のとき、どうすれば身の安全を保てるか、という課題は、日本人ならば子供のころから常に考えさせられたことだ。しかし、本書に書かれているのは、そのようなありふれた危機への対応策だけではない。

・「雄ウシが突進してきたとき」の防御法や「建物からゴミ収納庫に飛び降りるとき」の安全な降り方、「走る列車の屋根を移動するとき」の注意事項など、ありとあらゆる”THE WORST-CASE SCENARIO”についてイラストをふんだんにつかって簡潔に説明している。

『SF映画で学ぶインタフェースデザイン』 NATHAN SHEDROFF, CHRISTOPHER NOESSEL著 /安藤幸央監訳・赤羽太郎他訳 丸善出版

・「2001年宇宙の旅」で宇宙船の操縦席の操作盤に表示される美しいグラフィックスや、「マイノリティレポート」の手の動きで巨大な画面に表示される情報を操作するシーンなど、SF映画にはカッコいいインタフェースがたくさん登場する。ストーリーよりもインタフェースを見ている方が楽しい映画もあるくらいだ。

・本書は、それらSF映画に登場するシーンから、コンピュータや機械装置の使いやすいインタフェースについて考察するという、珍しい本。大学の講義に使う教科書のような体裁で、この科目なら、映画を見ながらたのしく学習できそうだ。論調の中には「これは無理だろう」いうツッコミも見られるが、大半は作品に対する愛に満ちた洞察が素晴らしい。

・日本人は「アニメで学ぶインタフェースデザイン」というような本を書くべきではないか?

『巨大彗星が木星に激突するとき』 渡部潤一著 誠文堂新光社

・1994年7月、シューメーカー・レビー第9彗星が木星に衝突し、巨大な痕跡を惑星上に残した。

・本書は、その衝突が起こる直前に出版されたもので、衝突への熱い期待が伝わってくる。


読書の泉2014年12月号

『実験室の笑える?笑えない!事故実例集』 田中陵二・松本英之著 講談社・講談社サイエンティフィク

・ヲヤヂの大学時代の研究では、FORTRANでプログラムを作るような実に安全な作業のみで研究が成立していたが、隣室の半導体デバイスをつくるような研究室では、致死性の危険な薬品を使っていた。有毒ガス漏れをいち早く検知するために小鳥を飼っていたとかいないとか。

・本書は、有機化学系の実験でおこりうる(実際に発生した?)事故の例が軽く淡々とした文体で報告されている。本書を読んで、化学系を志す学生が減ってしまうのではないかと危惧するが、この本を読んで逆に「萌えて」しまう御仁もいらっしゃるかもしれぬ。

『電気システムとしての人体』 久保田博南著 講談社・講談社ブルーバックス

・心電図、脳波、筋電図など、人体は発電所をたくさん持っているようなものだ。本書は、人体を電気で動いているシステムとして捉えて解説した本。

・医学や生物学系の専門家が物理・工学系の知見を得るとともに、エンジニアが医療系のものづくりに生かすこともできる。

『定刻発車 日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか』 三戸祐子著 新潮社 新潮文庫

・本書は膨大な資料と取材をもとに構築されており、単なる本の域を超え、「仕事」といってしまいたいほど。

・1分の遅れでも「遅延」とされる日本の鉄道の正確さを、歴史やシステム工学、日本人の行動特性、鉄道会社の経営など、多方面から考察している。

『自然の中に隠された数学』 イアン・スチュアート著/吉永良正訳 草思社

・物理学者の立場から数学を語ったり、工学者が数学を語ると、どうしても数学を道具として扱うことに偏ってしまう。逆に数学者が数学を語ると、純粋な数学世界を善として、道具として使うことを邪悪なものとみなす傾向がある。

・本書は、数学者が自然現象を説明する数学の意味を語るという、ちょっと珍しい立場で書かれている。ニュートンの運動法則と微積分、フィボナッチ数列、複雑系とカオスなど、聞いたことはあるけれど今ひとつ意味が掴めない概念を別の視点から見ることができるかもしれない。