・大学教授という職業に憧れを感じることもあるが、ヲヤヂにはできないといつも思う。誰もやったことのない新しいものやシステムを創造するという仕事は、なかなか大変そうだ。
・で、本書を読むと、研究以外にも何やかやと雑事が多い大学教授の実態を思い知らされる。独特のリズム感をもつ文体にも惹き付けられる。
・世の人々がかかえる問題点になんらかの解決策を提案するのが工学という学問だ。そんな原点を再認識させられる作品である。
・事故で損傷した少女の脳を超高性能大型コンピュータで置き換える……こんなアイデアを中核に据えた連作短編集。本書に収録された作品の初出は1982年。パソコンがやっと仕事の道具として使える可能性がみえてきた頃だ。往年の名機NEC PC-9801は、この年の10月に発売される。
・一台の大型コンピュータが人間社会を思い通りに動かそうとするくだりは時代を感じさせる。しかし、人とコンピュータの共存共栄を期待する展開には、現代にも通じるものがある。
・世界のソニーである。It's a SONYなのである。盛田昭夫と井深大、このコンビなくしてはソニーを語れないらしいのである。
・井深大は技術者であり、教育にも大きな関心を寄せ、教育事業を立ち上げてきた。もっと教育に心を砕く技術屋が出てきてほしい。
・東京神田秋葉原といえば、電気街。最近は、かなり印象が違ってしまっているようだが、秋葉原駅前のラジオセンターは健在である。ヲヤヂは頻繁に秋葉原に通うわけにはいかない田舎者なので、どうしても秋月電子や千石通商、鈴商といったスーパーマーケットのような店に行ってしまう。しかし、露店のような専門店で相談しながら部品をそろえる楽しみも秋葉原の魅力だろう。
・本書では、そんな店舗の集合するラジオセンター内にある内田ラジオという店を切り盛りする著者が、自身と家族、秋葉原の過去と現在を語る。本書を読んだ後で、里好のコミック「トランジスタ・ティーセット」を読むと、読後感が違ってくるかもしれない。
・著者の夫の内田秀男氏は、発明家、超常現象の研究者としても有名だ。超常現象のブーム到来時のエピソード等もおもしろい。トランジスタとほぼ同じ原理で増幅作用をもつ「三極鉱石」の研究や、人体表面に発生する微弱電界を測定する装置「オーラ測定器」の研究などもしている。氏のすばらしいところは、電子技術を一般の人々や若者に伝えようと、実践しているところだ。こういう生き方ができると、すてきだと思う。
・ガリレオやニュートンは、物理現象を数式で表現した。これはシステムの数理モデル化の成功例だ。これをもっと発展させれば、世界というシステムが解明できるかもしれないと考えるのは自然な流れだろう。
・コンピュータの発達は、数理モデルの飛躍的な進歩をもたらした。しかし、同時に、複雑なシステムの振る舞いを予測することが不可能であることもわかってしまった。
・できる範囲で予測して、予測が外れても慌てない備えが必要なのだろうな。
・対海賊課宇宙フリゲート艦(に搭載された人工知性体)ラジェンドラの語りで始まる、とある事件の報告書、という形式をもつ物語。なかなかややこしいが、こういう理屈っぽさも楽しみのうち。
・本作では、海賊・匋冥を神と崇める宗教団体が登場する。いよいよ匋冥も神の領域に……と思ったら、ことはそんなに単純ではない。宗教とは、ある意味、身勝手を合理化する装置なものなのかもしれない。
・ラジェンドラ、アプロ、ラテルという機械、非人類、人類が漫才のようにことばをやりとりする場面がとにかく面白い。彼らのやり取りを見せるためなら、物語などどうでもよい、と考えているのではないかと疑いたくなるほどだ。
・我々は、リアルと虚構、その違いを認識して生きているだろうか?本書を読むと、ちょっと自信がなくなる。
・過剰な清潔指向はかえって病原菌の活動を活発にしてしまう……本書は警告する。人間は無数の常在菌に守られているのだと。常在菌をも殺してしまうような過度の消毒は害をもたらす。
・経験上、ガラスやプラスチックにカビが生えることは常識だと思っていたが、学会の常識になったのはそれほど古いことではないらしい。カビたちは、プラスチック上で繁殖する能力を身につけ、更なる発展を遂げたと言える。
・皆無軟体の事務所であるヲヤヂの住宅は、いまどきエアコンが装備されていない、在来工法木造建築である。本書を読むと、ツーバイフォーとかコンクリート造の家にしなくてよかった、と心から思う。
・尻の痛みを耐えながら振り子に乗り、あごを粉砕されるおそれがありながら、振り子を振り、電気ショックに耐えながら蛍光管を光らせる。まさに身を挺した実験で物理学のすばらしさを伝えて頂いた。
・ここまでやらないと物理学に興味が出ないとしたら、物理学とは、まぁ、因果な学問であると言える。
・本書の後半は、著者の専門分野である宇宙物理学、特に中性子星やブラックホールの話になり、ハードSFファンには必読の内容とも言える。
・お仕事小説である。公務員とテレビ局の仕事ぶりが、なかなか素敵に描かれている。組織の中で働くことの難しさや遣り甲斐といったことが、わかりやすく伝わってくる。
・「働くってどういうこと??」と疑問に思っている高校生や大学生が読むと、ちょっとは参考になるかもしれない。もっとも、自衛隊は、公務員としてはかなり特殊な職場であるし、テレビ局は更に特殊な存在だろう。そんな職場の話なのだということを意識して読んでもらえるとよいかもしれない。
・副題は「日本のソフトウェアはなぜ敗れたのか」とある。この問いへの答は、本書を読むと明らかになる。要するに適切な人材を適所に配置できなかったということのようだ。
・人間が複数集まって組織をつくると、なぜか必ず始まってしまうのが権力闘争だ。鳥や猿でも集団の中で順位を決めないと気が済まないらしいので、ヒトも同じということか。
・本書は、筑波大学設立時の混乱と闘争を「ヒラノ助教授」の視点から綴られている。計算機科学という新しい分野の研究内容については、あまりよくわからないが、研究をするためには、泥臭い雑事や厄介ごとがたくさんあることは、よくわかる。
・地球外生命体「謎の種族」の調査に向かったアライアンス艦隊の前に、「謎の種族」以外の地球外生命体(外観はテディベアに似ている)が現れた!なにやらややこしくなってきたと思ったら、さらに別の種族(外観はクモとオオカミを合わせたような姿)も現れ……。
・地球外生命体の種類だけでも混乱しそうだが、それに人類社会の陰謀や思惑が重なって、混迷の度合いを深めていく。
・「世界一でなければ日本一ではない」この一見論理破綻しているようなフレーズも、当時のホンダにとっては、けっこう合理的な言葉だったのではないかと、本書を読んでから思えてきた。広く海外で認められてこそ本物であるという理念は、21世紀のグローバルスタンダードの支配する世界での企業の在り方にも重なってくる。
・天才エンジニアの本田宗一郎の天才ぶりが、とにかく本書の隅々まで充満している。もっとも、その天才を発揮できたのは、戦前・戦中・戦後のめまぐるしく移り変わる世界情勢あってこそだと感じる。現在、本田宗一郎のモノマネをしても、おそらく成功することは不可能だろう。彼のような天才を活用できるような社会的な余裕のようなものがなくなっているような気がするからだ。
・火星・小惑星・地球の間で惑星間戦争勃発。その陰には、人類の存亡を左右する超大企業の秘密計画があった。なかなか複雑に絡み合った物語が、すさまじい速度で展開していく。
・核融合技術によって、太陽系内の惑星間空間を比較的自由に行き来できるようになった世界。「職場は宇宙」どころか、「人生は宇宙」な人々の生活が、生き生きと描かれる。
・もっとも、映像化されると、ちょっと気持ち悪くて見られないかな、ヲヤヂには。
・街中には危険がいっぱいだ。段差でのつまづき、転倒、頭打ち、感電、衝突等々。それらの危険性を身を挺して伝えてくれるのが「ピクトさん」だ。商業施設にはかならずある非常口のマークで出口に駆け込んでいる、丸い頭のあの人である。
・世界中のピクトさんが働いていることも本書を読んで感心する。
・地味なピクトさんの働きに対して光を当て、素敵なコメントを書き綴ってくれた本書の作者にも敬意を表したい。
・前作『星界の戦旗V』が出版されてから9年の歳月が流れた。9年といえば、生まれた子どもが小学生になって生意気な口をきくようになるくらい長い。どんな話だったのか忘れてしまっていたヲヤヂは、もう一度既刊を読み返してしまった。
・本巻では、<アーブによる人類帝国>の帝都(アローシュ)ラクファカールに敵勢力が侵攻し、星界は新たな局面を迎える。
・帝国(フリューバル)、皇帝(スピネージュ)……異世界の言葉のルビの嵐に久しぶりに翻弄されて、懐かしい気分もよみがえった。架空世界を創造するのは、なかなか大変なことだが、創られた世界を楽しむのも、すこし努力が必要だ。
・太陽光をレーザに変える媒質を使って、海水からマグネシウムをつくる。このマグネシウムを燃料電池につかったり、実際に燃やして燃料にしたり、エネルギー資源として利用する。残った酸化マグネシウムは、再びレーザでマグネシウムに……こんな夢のようなエネルギー循環社会が実現するかもしれない。本書を読むと、そんな明るい未来が見えてくる。
・エレキットの燃料電池カーはまさに、マグネシウム燃料電池で走る玩具だったが、マグネシウムに塩水をかけるだけの手軽さがすばらしかった。新しいエネルギーは、燃料の供給インフラも簡単でなければならないと感じる。
・とはいえ、ネット上の情報だけから判断すると、安価にマグネシウムを精錬するという点が、実用化の面でまだまだ発展途上にあるように思われる。本書の刊行は2010年1月。これからの進展に期待したいところだ。
・「国産」という言葉を聞くと、なにか誇らしげな気分になる。戦後、設計・製造された国産の航空機といえばYS−11である。本書では、そのYS-11の開発にかかわるお話や、写真、イラストが楽しめる。
・YS-11を開発したのは日本航空機製造株式会社。設計は輸送機設計研究協会。YS-11の由来はYusouki (輸送機)Sekkeikenkyuukyoukai(設計研究協会)-(エンジン候補番号10案)1(機体仕様候補番号1案)1なのだとか。だから、11は「じゅういち」ではなく「いちいち」と読むのが正しいらしい。
・現在話題の国産ジェット旅客機MRJにも、こんな本が出るのだろうか。
・自分が欲しいと思ったものを、作って、売って、稼ぐ。製造業の原点ともいえる行動なのだが、現代の企業では、なかなかそれがむずかしい。
・実際、CADを使って設計したり、3Dプリンタを使って試作品を作ったりと、開発の部分では、かなり敷居が低くなってきたことは確かだ。しかし、それを量産して売るとなると、とたんに敷居が高くなる。知的財産権や製造物責任など法的な問題も軽視できない。
・本書では、インターネットを使って、開発者と製造や販売に関わる専門家や投資家などをつないで、「やりたい」ことを商売にする取組が紹介されている。
・短編集である。表題作は、あまりにも有名すぎて、今まで読んでいなかったのが申し訳ないくらいの作品。太陽光の光圧によって加速される宇宙ヨットで地球から月まで行ってかえってくるという壮大な規模のレースのお話だ。
・この作品が発表された1963年から47年後の2010年には、JAXAのIKAROSが太陽光圧によって加速したことが確認された。IKAROSは無人機だが、なかなか感慨深いものがある。
・もっとも、クラークの作品では、2010年には、「ソ連」の宇宙船レオーノフ号が木星に向かったりしているのだが。現実の宇宙飛行は、とにかく大変なのだな。
・時間SFである。しかし、タイムマシンも登場しないし、タイムスリップもタイムトラベルもしない。情報とモノだけが217年の歳月を超え、地球と少年の命を救う。
・多次元の時間軸に生きる知性体の尻尾が、何かに「ひっかかって」しまっために、西暦2014年の地球は壊滅の危機に瀕する。おなじことが原因で、2231年の小惑星アキレスでは、二人の少年たちに危機が迫っていた。双方の危機を回避するため、ひっかかってしまった尻尾を解放するべく、21世紀と23世紀の時間を超えたやりとりが始まった……。本書は、宇宙SFと時間SFが同時に楽しめる、異色の作品である。
・本書では数学の分野で天才的な能力を持つ人物が主人公である。天才というのは、なかなか常人には計り知れないアルゴリズムで思考し、行動しているようで、理解しがたい存在である。
・だから、天才を生かすには、周囲に理解ある協力者が必要だ。しかし、学者の世界も人間の集団であり、理屈通りには動かない。
・本書では、金融工学の日本での発展の歴史をたどることもできる。
・日本海に浮かぶ島、島根県海士町(あまちょう)でベンチャー企業を立ち上げ、地域社会にとけ込みながら、町おこしを模索している、素敵な人たちの記録。
・こんなに精力的でこんなに魅力的な人が世の中にいるのだということに驚嘆する。
・この小さな島が抱える数々の課題は、未来の日本が直面する課題そのものだという。未来の日本では、こんなスゴい人でないと生きていかれないのだろうか?
・コンピュータの急速な処理能力の向上により、失業問題が深刻になる……。感覚としては、そういうこともあるのかなと思ってはいたが、本書では、それを統計的な裏付け(アメリカのものだが)をもって主張する。
・コンピュータを操って(コンピュータと協同して)仕事のできる人間と、肉体労働者だけが必要とされ、事務処理やレジうちのような容易にコンピュータに置き換えられる労働はなくなるというのだ。そして、コンピュータ・システムの高性能化が人間の代わりとなれる職域を急速に広げている。
・就職活動が大変になるのも、こんな構造増的な原因があるかもしれない。
・生命とは何か?その究極のドグマに天才達が挑む。でも、物語の中心は「猫探し」。とある特別な猫を求めて、コンピュータ・パワーとマン・パワーをつぎこみ、上を下への大騒ぎが展開する。
・物理学の究極の理論から設計された量子コンピュータと、生物学から誕生した分子コンピュータの戦いの物語ともいえなくもない。技術者や科学者の倫理とか社会的責任とかいうやつも、天才の前には何の歯止めにもならないという場面もあり、背筋が寒くなることも。
・零式艦上戦闘機とその試作機である十二試艦上戦闘機の設計・開発のエピソードが、読みやすい文章で綴られており、ものづくりの魂が伝わってくる。
・とはいえ、戦争に使われる兵器の開発に係わる話なので、美しいことばかりではない。無敵を誇った零戦も、新型機の出現や戦争の長期化による資源・人材不足などで窮地に至る。そこまで冷静に記述されているところも、本書の魅力といえる。
・理工系人材不足と為政者の戦略的思考の欠如が、戦前から現代まで続いていることを改めて思い知らされる。
・8月が近くなると書店には太平洋戦争関係の書物があふれるようになる。本書もそのような本のひとつであり、奥付によれば出版されたのは2007年7月31日。
・いわゆる玉音放送でピタッと戦争が終わった訳ではなく、ある時間の幅を持って、戦後が始まったことがよくわかる。その混乱は想像を絶する。
・本書を読むと、占領政策の中核となった米国が、なかなか懐の深い、余裕のある国であった印象を強くする。今の米国は、まるで別の国のようだ。
・本書では、違法な事業をやっているわけではないが、「法令遵守、倫理、経済的合理性などのさまざまな面からみて問題を抱えており、働き続けるのはとんでもない」職場を「ブラック職場」と定義している。
・ヲヤヂの感覚では、過酷な労働環境で働かせて人材をすりつぶす職場だけがブラックかとおもっていたのだが、本書では、スキルを伸ばせない仕事ばかりやらせる職場もブラックなのだという。ついでに、「グレーカラー」という分類も本書で初めてみた。中央官庁の官僚のように、とんでもない長時間にわたり、頭脳労働をさせられることをいうようだ。
・ブラック職場が存在する理由として、大手企業の無理な要求があるというのはうなずける。もっとも、本書で提案されている雇用流動化への具体策はどれも大幅な意識改革を必要とするもので、実現はかなり困難であると感じた。
・永久に成長することを前提とした資本主義は、あまりにも不自然だ。生物の世界に目を転じれば、永久に個体数が増え続けることなどありえない。増加と縮小はワンセットなのだ。
・産業革命以降の資本主義の歴史の中で、初めて「縮小する」社会に直面しそうな我々は、生物の生き方に、そのモデルを求めよう、という本書の方向性には説得力がある。
・もっとも、人間が「生物」という枠からはずれる存在になってしまえば、永久に成長する社会が実現できるかもしれないが、これはこれで恐ろしいような気がするぞ。
・3D-CADと3Dプリンタで試作品をつくり、クラウド・ファンディングで資金を集め、クラウド・ファクトリーで生産する。もちろん販売にはWebを使う。本書では、このような「だれでも参入できる」製造業の在り方が紹介されている。
・本書にあるモノづくりと趣味のモノづくりとが大きく異なる点は、商売になる、稼げるようにするにはどうするかということまで考えていることだろう。本書は、「持続可能な」小規模モノづくりのガイドブックだ。
・巻末には、すぐにでも使える(使いこなすには時間が必要)なツールの紹介もある。
・量子力学といえば、大学の物理学の講義でいきなりカルチャーショックを受けるものと相場が決まっている。高校の物理ではほとんどとりあげられないからである。
・本書は、20世紀初頭、量子論の誕生と量子力学の進展という、とてつもなくカタい話題に、少年マンガ的な勝負・対決の味付けをした感覚だ。物理学の教科書でおなじみのアインシュタイン、ボーア、プランク、コンプトン、ラザフォード、ディラック、パウリ、ハイゼンベルク、シュレーディンガー…、その他大勢の物理学者が量子の物語を紡ぎだす。
・物理学の参考書を脇に置いて読むと、もっと面白いかもしれぬ。
・自分勝手で人の話を聞かない、時間が守れない、思ったことをすぐ口に出して周囲を当惑させる、片付けが下手……。こういう人は、どんなところにも必ずいると思うが、どうもこれは発達障害が原因であることが多いらしい。
・本書にもあるが「障害」という言葉が問題解決への道を狭めているのではないかと思う。治療可能な症状ととらえて、心療内科などの専門医療機関に気軽に相談できるようになってほしい。
・社会に適応できない「困った人たち」が、その能力を発揮できる社会になるとよい。そのためには、社会全体にもっと余裕が必要だ。競争ばかり叫んでも、事態は解決しない。少子高齢化が急速に進む我が国では、人材の切り捨てはぜったいにとってはいけない選択肢だからだ。
・国鉄(日本国有鉄道)が民営化されJRとなったころ、「自衛隊も分割民営化」という冗談が流行った。本書は、それが冗談とはいえない国や地域があることを示している。
・本書を読むと、「戦争」という国家の存続に係わる事業(?)でも、民間企業が重要な役割を果たしていることがわかる。
・「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助の一代記。事業で稼いだ金を有効に使うことの難しさを知っていた彼のような経営者は、今いるのだろうか?
・電気の普及にあわせて、松下電器の事業が発展していく様子が興味深い。本書は、日本の電気製品の歴史書ともいえる。
・もし、人類が文明を残して突然消え去ったら…究極の「もしも」の答の一つがここにある。
・本書は大ベストセラーだったので、話題となった時期には読む気にならなかったが、出版後5年経過したので、読んでみることにした。
・地球の自然が人類の産業活動でいかに破壊されてきたかよくわかる。人類が消え去ったとしても、破壊された自然は復旧しないようだ。「復旧」に意味があるかどうか不明だが。
・ソノラマ文庫版の「星のパイロット3」、「同 4」を再構成した本。衛星やロケットを使用して宇宙空間を利用するビジネスが民間に広く展開されている世界が舞台のお話。
・宇宙船やら輸送機やら巨大パラボラアンテナやら、とても興味をそそられるガジェットを、零細民間宇宙企業の人たちが自在に操る爽快感がとてもよい。
・イラストに1990年代の雰囲気が感じられて、ヲヤヂ的にはとても好感が持てる。
・アメリカの大学というところは、広くて環境が整った楽園のような印象を持っていたが、本書を読んで、ほぼそのとおりであることを確認できた。もっとも、「楽園」の意味合いがちょっと難しいところにあるのも事実。能力の高い人間にとっては確かに楽園だが、そうでない者にとっては、存在を許されない世界となっている。
・本書では、アメリカの教育があまりにも金儲けに重点を置きすぎるきらいがあることを憂慮している。日本の教育は、逆に金儲けを遠慮し過ぎていると思う。
・地球を狙う宇宙怪獣に立ち向かう地球怪獣たちが繰り広げる「地球最大の決戦」。怪獣には物理法則の支配は及ばないという「神話宇宙」の突抜けた設定も素敵だ。
・宇宙怪獣には、メカメカしいロボット的なものや、透明吸血怪獣など、異質な魅力が満載だ。
・対する地球怪獣たちは、甲羅のような構造を持ちマッハ3で飛行する怪獣、2足歩行の巨大怪獣、光輝く巨人など、個性豊かだ。往年の特撮を愛する人ほど深い読みができそうなものばかり。
・次回作が楽しみだ。今度は気象庁特異生物対策課が活躍する話が読みたいような気がするぞ。
・コンピュータ上に構築されたピッツバーグ市(一部、日本を含む)で、大規模なシミュレーションが実施される。その仮想都市の中に、記憶を消された人間がいたら……。
・映画「マトリックス」でも同様の世界を描いていたが、システムの詳細は不明だった。本書では、仮想空間を実現する技術が、かなり詳しく説明されている。脳とコンピュータをインタフェースする技術なので、どれくらいリアルなのか、ちょっと判断がつきかねる。
・プロの科学者として生計をたてるのは現在でもかなり難しい。科学の黎明期にはその困難さはさらに際立っていただろう。
・本書では、ガリレオやニュートンなど、教科書でおなじみの科学者たちを経済の側面からとらえた、一風変わった科学の歴史書。経済的な援助をどうやって受けて科学の仕事を続けていたかがわかる。
・イースター島はなぜ無人島になってしまったのか?マヤ文明はなぜ滅んだのか?その他にも、入植が成功した土地と失敗した土地の例が挙げられ、膨大な内容となっている。
・江戸時代の森林政策は成功例としてとり上げられているが、現在の我が国の森林の状況を見ると、手放しで喜べない複雑な気分になる。
・江戸時代の武士、農民、商人の生活を史料から読み解く。大都市・江戸での生活、貿易問題、経済の進展と不良債権など、学校の教科書とは違う観点がおもしろい。
・一揆、打ちこわし、争議など昔は日本人も荒っぽい抗議活動をしていたものだと思う。
・ヲヤヂはまだ同名のアニメ映画は見ていないが、その作品と大きな関係がある名作ということで読んでみた。この美しい話がどうやって零式艦上戦闘機の開発者の話と結びつくのか、とても興味深い。
・結核が国民的死病であった時代のお話で、「幸福」について考えさせられる作品ではある。
・同名のアニメ映画も見といた方がよいのだろうか?
・よく我が国では、新しいことをやろうとして人を納得させるときの常套句として「欧米では・・・」という言葉を使う。文化と文明の先進地であるヨーロッパと、新しい可能性を追求するアメリカ合衆国をまとめて「欧米」と言ってしまっている。
・ヲヤヂはこの言葉を聞くたびに「ヨーロッパとアメリカはかなり違うようなぁ」と違和感を感じていた。本書を読んで、これからは「ヨーロッパもけっこう違うみたいだぞ」と違和感を感じなければならなくなりそうだ。
・古代ローマ帝国が強大だった頃、経済力で帝国と張り合った国、カルタゴ。
・本書では、カルタゴ興亡の歴史を、かの地の現在の状況と重ね合わせながら振り返ることができる。
・経済だけにしか価値を認めなかった国家の悲劇が、ここにある。
・宮崎駿の漫画「風の谷のナウシカ」に登場する飛行具「メーヴェ」といえば、その美しいフォルムとどこからでも離発着できる夢の乗り物というイメージがある。皆無軟体のマンガでも「宇宙メーヴェ」が登場する。
・その「メーヴェ」のイメージそのままに、ジェットエンジンで飛行する航空機を作ってしまったメディアアーティストがいる。本書は、その素敵な挑戦の記録である。
・自分の作りたいモノがあるから、その資金を稼ぐために仕事をするという、なんとも魅力的な生き方が垣間見える。万人がマネできる生き方ではないけれども。
・巻末のあさりよしとおのマンガも素晴らしい。
・日本の人口が減少し始めたという。本書にある「アベコベガエル」は、オタマジャクシよりもカエルの方が小さいという。縮小する社会をどう生きるか、生物に学ぶべき点は多い。
・今年(平成25年)は伊勢神宮の式年遷宮の年で、神宮の人工的な構成要素一式を新しく造りかえる年だという。20年に一回行われるこの式年遷宮というシステムは、建築技術その他の技術技能を継承するのに実に合理的な仕組みだといわれる。エジプトのピラミッドや、巨大な前方後円墳を造る技術は失われたが、神宮を造る技術は脈々と引き継がれている。
・本書を読むと、歴史を技術的な視点で見直し、将来の技術の行方を探ることができる。
・近代博物学の歴史を、博物学者たちのエピソードをもとに非常にドラマチックに知ることができる本。巻末には、博物学の原点として、「ひとりひとりが実行してたのしむ学問」とある。本を読んだり、博物館に行って見るだけでは十分とは言えないということか。
・巻頭の口絵の美しさに圧倒される。全ページがカラーだったら、きっとすばらしく美しい本となっていただろう。
・地球上の生物がどのように誕生し、進化してきたのかを物質の性質の観点から考察すると、複雑な分子生物学のからくりが明らかになっていく。そんな経験のできる本だ。
・ATP(アデノシン三リン酸)が細胞のエネルギー源であることは高校の生物の授業で習ったが、なぜP(リン)が使われているのかまでは、教えてもらわなかったような気がする(忘れているだけか?)。本書を読むと、ATPとDNA(デオキシリボ核酸)との驚くべき相似点が明らかになっていく。
・本書では、リンの他にもNa(ナトリウム)、C(炭素)、N(窒素)、O(酸素)、Fe(鉄)について、その機能と重要性が分かるようになっている。物理、化学は得意だが生物が苦手という方には、特にお勧めする。
・短く簡潔にわかりやすく…このことに忠実に宇宙について説明した本。
・宇宙物理学や宇宙開発の好きな人が、一般の人に、宇宙のことを説明しようとするときに、とても参考になる。
・本書に倣って「電気電子情報授業」とか、書いてみようかな。
・陸上自衛隊が、有事の際に即時量産可能な小型ロボット戦車を開発する……というお話。
・訳あって閑職に追いやられたアラサー女子技術職技官が、パソコンすらない研究環境で、ノート1冊を助けに、小型ロボット戦車の研究を始める描写がおもしろい。あれよあれよという間に開発が進み、試作機ができてしまう加速感も爽快だ。
・フィクションとはいえ、兵器の開発にまつわる話であるだけに、読後感はスカっとさわやか、とはいかないが。
・「日本の技術は世界一」は、「原子力発電は安全」と同じ程度の神話にすぎないらしい。本書には、半導体の研究開発の最前線にいた著者ならではの鋭い指摘が並ぶ。要するに、日本の技術には「いいものもあるけど、悪いものもあるよね」ということだ。
・総合的に分析し、戦略的に判断する…日本の組織が苦手とするここのところを克服し、「売れる製品」の開発を推進しなければ、日本のモノづくりに未来はない。これは明らかなことのだが、ではどうすればいいのか。本書では、その鍵は「模倣」にあるという。
・学者や官僚、知識人、マスコミなど、日本人の知を導く人々には、もっと製造業の現場のことを理解していただきたい。そのためには、製造業の現場の人々が、わかりやすく伝えなければならない。企業秘密とのかねあいもあり難しいこともあろうが、なんとかしなければならない気がする。
・原子核の周囲に存在する電子の振る舞いが、化学反応を解き明かす鍵となる。本書は、化学反応をエネルギーの視点からわかりやすく説明してくれる。
・本書の後半では、放射性同位元素の話題やボイル・シャルルの法則の力学的解説等、化学を物理で考える。
・手塚治虫の漫画を挿絵に使っているのは、科学を身近に感じられるような配慮か。
・「生物もわかる化学」「生物も物理でわかる」といった類書が出てきたら面白そうである。
・本書は日本の科学技術が、カラーテレビ、VTR、自動車、半導体メモリなどの分野で世界一を誇っていた1980年代末に書かれた。その中で著者は「日本の科学技術は21世紀までもたない」と断言している。半導体メモリの分野について言えば、実際そのようになってしまったように思える。
・また、著者は日本の科学技術の発展には、次世代の技術の種をさがす基礎研究の充実と研究費を配分する際の研究内容の評価方法の改善が必要と主張している。
・親本は昭和60年(1985年)に刊行された単行本というから、パソコンもワープロも今とは比べ物にならない低い性能で、インターネットだってDNSが導入された直後である。パソコンで通信するという感覚がなにか特別なものだった時代だ。
・そんな時代に書かれた本が、電子情報通信機器のブラックボックス化を危惧している。21世紀になって、ブラックボックスは増殖し、もはや「ボックス」ですらない、「クラウド」なるとりとめのないモノにつながっている。
・技術革新とどうつきあうか、これは現在も模索が続いている。本書を読んで、その原点をさぐるのも意味があると思う。
・ぼーっとしたり、家事で体を動かしている間に考えることが人間を聡明にするというくだりには、共感を覚える。考えるしかほかにやることがない時間というのが、なんと貴重なことか。