皆無軟体通信2022
読書の泉2022年12月号
『フォワード 未来を視る6つのSF』 ブレイク・クラウチ著/東野さやか他訳 早川書房/ハヤカワ 文庫SF
・まもなく2023年。何十年も前からSFを読んでいた身には、すでに超ハイカラな都市にエアカーやら宇宙船やらが飛び交っていそうな年を迎える。
・そんな現代から見た、「新しい未来」を小説で楽しもう。
『古代中国の24時間』 柿沼陽平著 中央公論新社/中公新書
・秦とか漢とか世界史の最初で受験生を悩ませる時代の人々がどのような生活を送っていたのか。本書は、この疑問に朝から晩までをロールプレイングゲームの実況のように辿ることで答えてくれる。
・それにしても、2000年前、紙がない時代に、木簡、竹簡、陶器などに記録を残してきた業のようなものに圧倒される。
読書の泉2022年11月号
『シグナル』 山田宗樹著 KADOKAWA/角川文庫
・300万光年離れた銀河から地球にメッセージが届いた!「ダメ、返信しちゃ、ダメ、絶対」と叫びたくなる展開(「三体」を読んだ後だから)。
・でも、本書は、そんなハードでクールな展開はなく、あくまでもハートウォーミングな展開で楽しめる。
・日本SFは、いい。
『工作艦明石の孤独1・2』 林譲治著 早川書房/ハヤカワ文庫JA
・ワープ宇宙船による交易で支えられてきた、地球から遠く離れた星系で、地球へのワープができなくなった。この時、どうやって文明社会を維持するのか。興味深いテーマの物語。
・さらに、知性体イビスとのファーストコンタクト要素も加わって、どういう展開になるのか、何巻で終わるのか、興味は尽きない。
・カバーイラストが素敵なので、表紙買いしてしまうシリーズでもある。
『世界を変えた実験と研究』 齋藤勝裕著 技術評論社
・実験といえば、化学。本書は化学実験を中心に、歴史的に有名な実験や発見を紹介している。
・テレビの科学番組などでよく取り上げられる内容を、1冊にまとめてある。映像に比べて、文字情報がいかにコンパクトであるかを改めて認識させられる。
『人類の歴史をつくった17の大発見』 コーディー・キャシディー著/梶山あゆみ訳 河出書房新社
・初めて弓矢を放った人は?初めて車輪を組み立てた人は?初めてジョークを記録した人は?などなど、記録に残っていない「大発見」に焦点を当てる本。
・どんな調査や研究が「大発見」を「再発見」するかが、ドラマチックで面白い。
読書の泉2022年10月号
『農家はもっと減っていい』 久松達央著 光文社/光文社新書
・刺激的なタイトルだが、ビジネスとして小規模農業者が生き残る知恵を授けてくれる。
・経験に裏付けられた言葉は重い。
『楽器の科学』 フランソワ・デュボワ著/木村彩訳 講談社/ブルーバックス
・ピアノとかヴァイオリンとか、普通に録音された音楽を聞いてるつもりだが、そこには奥深い秘密が。
・あらゆる楽器がサンプリングで再現できる電子楽器版の楽器の科学を読みたい。
読書の泉2022年09月号
『電子工作パーフェクトガイド』 伊藤尚未著 誠文堂新光社
・電子工作の基本を学び直そうと思って読んでみた。
・実際に回路を作って確かめられる作例や、なぜそうなるかを丁寧に図で解説する姿勢が素敵だ。
『駄菓子屋の【超リアル】ジオラマ』 情景師アラーキー著 誠文堂新光社
・昭和の香り高い駄菓子屋を忠実に再現する模型の作り方を、駄菓子のバリエーションや日本家屋の基本構造も調べ尽くして解説。
・指や一円玉が一緒に写っていないと、本物かどうか判別が難しい模型世界が美しい写真で鑑賞できる。本物を見てみたい。
『動物たちのナビゲーションの謎を解く』 デイビッド・バリー著/熊谷玲美訳 インターシフト
・渡り鳥はなぜ迷わないのか?長距離の渡りをするチョウは何を頼りに方向を決めるのか?アリが餌を探した後、巣へ戻れるのは?ウミガメは、誕生してから決まった方角に旅立つのはなぜ?などなど、ナビゲーションに関する疑問を研究した人々のお話。
・研究者の執念が強く感じられ、圧倒される一冊。
『認知症世界の歩き方』 筧裕介著 ライツ社
・誰にとっても他人事ではない「認知症」という病。その典型的な症状、認知の特性が、柔らかなタッチの図解でわかる本。
・本書を読むと、人間の生活には、いかに高度な認知が必要とされているかがわかる。ヒトの社会でフツーであることは、なんとも大変なことなのだ。
読書の泉2022年08月号
『日本史サイエンス 弐』 播田安弘著 講談社/ブルーバックス
・造船技術を武器にして、日本史を斬る!技術系な歴史書の第2巻
・本書のお題は、邪馬台国、秀吉の朝鮮出兵、日露戦争の日本海海戦だ。
『自分の中に毒を持て』 岡本太郎著 青春出版社
・「芸術は爆発だ」で有名の岡本太郎の有名な著作の新装版。
・刺激的な文言が並び、勇気づけられるところもあり、それは無理だろうと呆れるところもあり、だから岡本太郎はすごいのだろう。
・某放送協会で放送していた”TAROMAN”に影響されて本書を買うあたり、自分も、まだまだだな、と思う。
『戦闘妖精・雪風<改>〔愛蔵版〕』 神林長平著 早川書房
・一体、何冊の『戦闘妖精・雪風』を買ってしまうのだろう。文庫本、電子書籍そして単行本だ。
・これはきっとジャムの仕業に違いない。
読書の泉2022年07月号
『身近な雑草の愉快な生きかた』 稲垣栄洋著/三上修画 筑摩書房/ちくま文庫
・雑草の緻密なイラストと、軽妙な生存戦略の説明が素晴らしい。
『最後の宇宙飛行士』 デイヴィッド・ウェリントン著/中原尚哉訳 早川書房/ハヤカワ文庫SF
・太陽系外から巨大な質量が地球に近づいてくる。そして、それは減速しているというのだから、宇宙船に違いない。ということでNASAの探査チームが派遣される。本書の設定では、宇宙開発は民間企業が主流で、NASAは有人宇宙飛行から撤退していることになっている。実に興味深い。
・で、地球外生命体の描写が、なかなかオドロドロしいので、映像化されたら、見る人を選ぶ作品になるかも。
『やらかした時にどうするか』 畑村洋太郎著 筑摩書房/ちくまプリマー新書
・失敗学の畑村先生が、失敗を正しく恐れ、創造的に生きる考え方を伝授してくれる。
・革新的な「何か」は、失敗抜きには手に入れられない。
読書の泉2022年06月号
『宇宙を支配する「定数」』 臼田孝著 講談社/ブルーバックス
・万有引力定数G、光速c、プランク定数h、電気素量e、ボルツマン定数kなど、理系を学んだ人々であればお馴染みの定数について、ほとんど数式を使わずにまとめた本。
・今や質量もプランク定数で決まる時代である。もう何が何だかわかんらん。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 アンディ・ウィアー著/小野田和子訳 早川書房
・某少年漫画雑誌の三原則とされる「友情・努力・勝利」の物語が太陽系近傍の恒星世界で繰り広げられる。本書には、科学的で工学的な「努力」が詰め込まれている。
・科学者、技術者、理系教員への賞賛も読み取れる、素敵な作品である。
『法治の獣』 春暮康一著 早川書房/ハヤカワ文庫JA
・地球外生命体のバリエーションを楽しめる短編中編小説を収録。
・かなり奇妙な存在をも「生命」として探究する人間の想像力は測り知れない。
『選択の科学』 シーナ・アイエンガー著/櫻井裕子訳 文藝春秋/文集文庫
・ジャムの選択肢が多すぎると、人はジャムを買わなくなる。この衝撃的な実験結果は、iPhoneが好まれる、現在のスマートフォンの日本でのシェアの説明にもなっている、
・選択の余地は残しながら、あまり選択肢を多くしないというのが、幸せへの一歩なのかもしれない。
・本書で紹介されている実験は、50年以上前のものもあるので、今実験したら違う結果になるかもしれないというのが、ちょっと興味深い。
読書の泉2022年05月号
『フォン・ノイマンの哲学』 高橋昌一郎著 講談社/現代新書
・「人間よりも進化した生物ではないか」とまで言われたフォン・ノイマンの業績の光と影を知ることができる新書。
・いわゆる「ノイマン型コンピュータ」ありがたく使わせてもらっている私などには、彼は神のような存在であるが、そういう存在が本書には何人も出てくるのがさらにスゴイ。
『戦争はいかにして終結したか』 中央公論新社/中公新書
・戦争を始める方は、歴史の教科書にも詳しく書かれているが、終わる方は淡白なことが多い。始めた戦争がどうすれば終わるのかを素人向けに論じたユニークな書。
読書の泉2022年04月号
『世界は「e」でできている』 金重明著 講談社/ブルーバックス
・あの有名な「オイラーの宝石」 e^(iπ) - 1 = 0 に現れるネイピア数eのお話。
・eだけではなく、円周率πにも虚数単位iにも詳しくなれる本。
『若い読者のための宗教史』 リチャード・ホロウェイ著/上杉隼人・片桐恵里訳 すばる舎
・仏教、ユダヤ教、ヒンズー教、キリスト教、イスラム教のみならず、儒教、神道、ゾロアスター教、シク教などなど、割とたくさんの人に馴染みのある宗教の歴史がコンパクトにわかる。
・とても親しみやすい文体のおかげで、宗教がわかった気になってしまうのが問題かもしれないところがちょっと気になる。
『認知バイアス』 鈴木宏昭著 講談社/ブルーバックス
・人間は、論理的な思考判断が苦手で、どうしても非論理的な偏った判断をしがちだ。
・そんな認知バイアスは、確かにあるのだが、それにこだわりずぎると新たなバイアスを生じるという論点が興味深い。
読書の泉2022年03月号
『暗記しないで化学入門』 平山令明著 講談社/ブルーバックス
・電子の振る舞いを知れば、化学反応が見えてくる。
『平安京の下級官人』 倉本一宏著 講談社/現代新書
・今から1200年前の大都市、平安京での貴族の暮らしを古文書から読み解く。
・位の低い者や庶民の記録がほぼない中でも、彼らの大変な暮らしがよくわかる。
読書の泉2022年02月号
『よくわかる思考実験』 高坂庵行著 イーストプレス/イースト新書
・シュレディンガーの猫とかトロッコ問題とか、張り紙禁止と書かれた貼り紙とか、クレタ島の住人はみんな嘘つきだとクレタ島の人が言ったとかそういう、「なんか聞いたことある」というパラドキシカルな思考実験を集めた本。
『特許やぶりの女王』 南原詠著 宝島社
・通常は、賞をとったような作品は読まないことにしているのだが、この作品は技術系のミステリということで読んでみた。
・主人公の周囲には、キレる優秀な人間しかいないところがすごい。
『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』 オードリー・タン著 プレジデント社
・仕事さえできれば、学校へ行かなくてもいい。オードリー・タンの生き方は、生き方の選択肢を広げてくれる。
・ただ、仕事ができるようになるためには、それなりのスキルが必要だ。オードリー・タンの場合は、コンピュータのプログラミングやシステム開発のスキルを自ら高めてきた。
・AIは人間の職を奪う敵ではなく、協力して仕事をするための助手であるとする、Assistive Intelligenceの考え方は、とても共感できる。SF小説では当たり前に描かれていた世界が、現実になるのだ。
読書の泉2022年01月号
『大日本帝国の銀河1〜5』 林譲治著 早川書房/ハヤカワ文庫JA
・1940年代の地球社会に、高度な地球外知性体が現れたら、という設定のお話。架空戦記の雰囲気も濃い物語が5巻で完結した。
・地球外知性体のとぼけた言動と超合理的で血も涙もない(人間じゃないので当然か)行動の対比が興味深い。
『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』 バーツラフ・シュミル著/栗木さつき、熊谷千寿訳 NHK出版
・食料問題やエネルギー問題は、数値で状況を把握して、対策を立てることが肝要だ。レジ袋削減やプラスチックストローの廃止などは、環境改善活動の入り口としては価値がある。しかし、次の段階として、それだけで問題は解決しないことを定量的に理解する必要がある。
・本書では、「定量的に考える」ヒントと実践例を与えてくれる。数字は嘘をつかないが、人間は数字で嘘をつくことができることにも注意しよう。
『図解 人類の進化 猿人から原人、旧人、現生人類へ』 斎藤成也、海部陽介、米田穣、隅山健太著 講談社/講談社ブルーバックス
・20世紀の教科書に書いてあった人類の歴史は、現在の化学的な成果から検証すると、結構間違っていたようだ。
・本書を読んで、知識をアップデートしたい。
『火星に住むつもりです』 村木風海著 光文社
・二酸化炭素に魅了され、二酸化炭素吸収装置「ひやっしー」を作り、「そらりん計画」で夢のある未来を提唱する。
・理念だけではなく、実際にモノを作ってしまう技術力に脱帽。こういう若手技術者を、応援する組織が欲しい。
『宗教図像学入門』 中村圭志著 中央公論新社/中公新書
・キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教など世界の主要な宗教における、シンボル、絵画、彫像、映画なども含む「図像」について、宗教横断的に解説する。
・「仏像の見方」のような本は多数あるが、複数の宗教における横の視点を提供する本は珍しい。
『IT全史』 中野明著 祥伝社/祥伝社黄金文庫
・腕木式通信から現代までの通信技術歴史を知り、未来を考えるためのヒントがもらえる。