2016

皆無軟体の月々の話題など。書評が主ですが。

読書の泉2016年01月号

『異種間通信』ジェニファー・フェナー・ウェルズ著/幹遥子訳 早川書房/ハヤカワ文庫SF

・アメリカでUFOが墜落し、異星人の遺体を米軍が隠していた!というあのロズウェル事件が本当にあったという設定で、その時のUFOの母艦が火星軌道の外側、小惑星帯にあった……という設定のお話。

・NASAが宇宙船を仕立てて、その母艦を探査するのだが、その宇宙船の中は大変なことになっていた。怪しい知的異星生命体とバケモノ、宇宙船の超技術の描写が、なかなかスゴイ。

『人工知能 人類最悪にして最後の発明』 ジェイムズ・バラット著/水谷淳訳 ダイヤモンド社

・遺伝的アルゴリズムやニューラルネットを使って構築されたソフトウェアは、目標通りの動きが実現できたとしても、なぜそのように動くのかが説明できない。このことから、自己保存を最終目標として勝手に進化する人工知能のシステムが開発されたとすれば、限りあるリソースを全て使い尽くしてしまい、人類の脅威となりうるというのも想像できないことではない。

・とはいえ、従来のアルゴリズムを使ったシステムでも、あまりに複雑なものは、なぜそのように動くか説明できないということも多々ある。人工知能の暴走までの道のりは、険しいのかもしれない。

『からだビックリ!薬はこうしてやっと効く』 中西貴之著 技術評論社

・試験官の実験では素晴らしい薬効を示す化学物質も、人間の体内ではうまく効かないことがある。薬物の吸収を阻害するシステムや、吸収された薬物を肝臓で分解するシステムなど、あらゆる障害が薬効を妨げる。

・とにかく人体というのは複雑なシステムだ。


読書の泉2016年02月号

『ラグランジュ・ミッション』 ジェイムズ・L・キャンビアス著/中原尚哉訳 早川書房/ハヤカワ文庫SF

・30世紀の宇宙海賊キャプテン・ハーロックは「宇宙の海は俺の海」と自ら宇宙船に乗り込んで暴れまわるが、本書の登場人物である21世紀の宇宙海賊キャプテン・ブラックはホテルの一室からコンピュータで海賊宇宙機を操作する。獲物はヘリウム3。本書の設定では、これは月で採掘される重要なエネルギー資源で、地球まで宇宙輸送船で運搬される。

・宇宙空間での戦闘描写はクールで知的だが、地上ではダーティで野蛮だ。

『IoTまるわかり』 三菱総合研究所編 日本経済新聞出版社/日経文庫

・IoTとはInternet of Thingsの略で、日本語では「モノのインターネット」と訳される。

・ヲヤヂの年代では、あらゆるモノにコンピュータが搭載され、ネットワークで繋がるというコンセプトには既視感がある。1980年代にはマイコンが劇的に安価で小型、軽量化されたおかげで、マイコンが何にでも搭載される風潮があった。この安易な風潮を皮肉ったエッセイ「マイコン内蔵型商品を利用してキミの魅力度を10倍アップさせるコツはこれだ」を小田嶋隆氏が発表したのは1980年代末だ。(『我が心はICにあらず』所収)また、「ユビキタスコンピューティング」という旗印のもと、いかに多くのプロジェクトが発足したか。

・今度のIoTは、とにかく「モノ」からの情報を総合的に活用して生活を豊かにするというのが売りである。この生活には消費生活だけでなく、生産や開発に関わる生活も含まれている。既にあらゆる製品にマイコンが内蔵され、いつの間にか普及していたスマートフォンを主要デバイスとするユビキタスコンピューティングは、もはや、あって当たり前サービスだ。IoTもそのうちそんな技術の一つになるのだろうか。

『新しい自然免疫学』 坂野上淳著/審良静男研究室 監修 技術評論社

・ヒトは病気になってもなぜ自然に治ってしまうのだろうか。マクロファージが生体に侵入してきた病原体の情報をT細胞に渡し、その情報をもとにB細胞が抗体を作るという、人体の自然免疫のメカニズムを図解でわかりやすく解説してくれる本。

・免疫の働きは、外敵の侵入との戦いであるから「絵になる」。あさりよしとお著の『まんがサイエンス』でも「インフルエンザ大戦争」(1994年)という名作があることを思い出した。


読書の泉2016年03月号

『やわらかな生命 福岡ハカセの芸術と科学をつなぐ旅』 福岡伸一著 文藝春秋/文春文庫

・科学のおもしろさをわかりやすく伝える。科学的に考えることをわかりやすく伝える。科学だけの狭い視野ではなく、芸術も含めて幅広い視野を持つ。

・どれも必要とされていると思うが、実践が難しい。本書を読むと、どうすればそれができるか、少しわかってくる。

『生産工学入門』 坂本卓著 日刊工業新聞社

・高専の先生と学生の軽妙な会話を読みながら、生産、在庫管理、品質管理から企業経営までの基礎知識が学べる。

・製造業の仕事を総合的に考える良い入門書となる。良い企業と悪い企業が判断できるようになりたい。

『ゼロからトースターを作ってみた結果』 トーマス・トウェイツ著/村井理子訳 新潮社/新潮文庫

・ヲヤヂは以前「自作パソコン」を趣味にしていたことがあった。今になって思えば、「自作」とは名ばかりで、市販されている部品を組み立てっていただけなのだが。

・本書では、そんな名ばかりの「自作」とはおさらばして、鉄鉱石から鉄を作り、ミネラルウォーターから銅を取り出し、ジャガイモからプラスチックを作る。本書の内容がどこまで本当なのか確かめる術はないが、そんなことはどうでも良いくらい、とにかくスゴイ。


読書の泉2016年04月号

『恋するタイムマシン 穂瑞沙羅華の課外活動』 機本伸司著 角川春樹事務所/ハルキ文庫

・改修された粒子加速器「むげん」を使って、宇宙を崩壊させそうな実験が行われる?!

・創られた天才少女・穂瑞沙羅華とちょっと冴えない研究者・両備が共同研究するのは、SF作家なら一度は書いておきたいテーマ、時間移動だ。

・タイムマシンとか時間移動を扱った作品は、どうしても情動が優先されがちだが、著者一流の語り口で、よくある話と思わせておいて、しっかりひっくり返す展開が素敵だ。

・また、本作でも愛すべき凡人代表・綿貫基一の存在は貴重だ。専門家同士の視点だけでは話についていけない。

『メイカーズ進化論 本当の勝者はIoTで決まる』 小笠原治著 NHK出版/NHK出版新書

・著者は、モノづくりヲヤヂ垂涎の施設「DMM.make AKIBA」の総合プロデューサーで、製造業のスタートアップ支援事業を手掛ける。

・IoTを「モノのインターネット」と訳すのは誤りだと著者は主張する。現代のテクノロジーでは、あらゆるものがサービス化し、モノとコトは分かち難く結びついているということだ。

・モジュール化によって、情報家電類の新規開発の垣根が低くなり、3Dプリンタによって、安価に試作品が作れるようになっているという。日本で100個しか売れないとしても、他の99か国にも100個ずつ売れる、そんなモノづくりを目指すという考え方は勇気を与えてくれる。

『サバイバル英文法』 関正生著 NHK出版/NHK出版新書

・副題は『「読み解く力」を呼び覚ます』とあり、ヲヤヂのように記憶容量の小さい人間が誤解なく英文を読むために必要にして最低限の文法力を身につけられそう。

・著者は予備校講師で、情報を最小限に抑えながら、具体的な内容を盛り込む説明手腕が素晴らしい。

『トリーズの発明原理40』 高木芳徳著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

・旧ソ連の門外不出の発明理論、それが「TRIZ(トリーズ)」なのだそうだ。悪化するパラメータと改善するパラメータのマトリクスを使えば、あっという間に改善策が見えてくる、らしい。

・本書は、その発明原理をさらにシンボル化してしまうという発明をやってのけている。アイデアに詰まったら、開いてみると、何か発見があるかもしれない。あまり期待しすぎてもいけないと思うけれども。


読書の泉2016年05月号

『住んでみたい宇宙の話』 竹内薫著 キノブックス

・月、火星、金星、タイタン、スペースコロニーに住むために必要な技術や住んでみた時の厄介ごと、楽しさなどなどを平易な文章で説明した本。宇宙に興味を持ち始めた青少年が読むとよろしいかと。

・挿絵が昭和の少年雑誌や図鑑を彷彿とさせ、とても素敵だ。

・小惑星や太陽系外惑星に住む章がないのは残念だが、他に良書『宇宙暮らしのススメ』(野田篤司 著)があるので、そちらを読みましょう。

『オービタル・クラウド』 藤井太洋著 早川書房

・技術者を重んじない日本に愛想を尽かして、アノ北の方の国に渡った天才ハッカーが、半永久的に軌道上で運用可能な推進システム「スペース・テザー」を使って仕掛けるスペース・テロ。それに対抗するWeb制作者とITエンジニア(あとCIAとかNORADとか)の物語。

・ローレンツ力で軌道変更できる宇宙機スペース・テザーの他に、宇宙ホテルとか、超高出力電波望遠鏡とか、F15から対衛星兵器の投射とか、とてつもなく大掛かりな仕掛けが次々と出てくるのが素晴らしく面白いが、対抗する側のガジェットが<ラズベリー>という基板型コンピュータというのもヲヤヂの心を打つ。

『荘子 II』荘子著/森三樹三郎訳 中央公論社/中公クラシックス

・荘子が書いたとされる思想書ではあるが、結構趣旨が一貫していないところがあり、多様性のある荘子一門の思想総集編といった趣である。

・孔子などの先達を勝手に物語に登場させて、エピソードを作り上げるあたり、当時としては、かなりエンターテインメント性の高い書物だったと推察される。


読書の泉2016年06月号

『時間泥棒』 ジェイムズ・P・ホーガン著/小隅黎訳 東京創元社/創元SF文庫

・ニューヨークで異常事態発生!時計によって指ししめす時間が違ってしまうのだ。正確に合わせても差が生じてしまう。昔ながらの機械式時計と電子式時計では、時間のズレ方が違うという。そして、最新型のコンピュータが集積する建物では、赤い靄が発生、人の動きもおかしく見える事態に。

・時間と空間が変換可能な世界で起こる奇妙な事件の顛末を、ちょっとコミカルに描いた作品。

『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』 レイ・カーツワイル著/井上健監訳・小野木明恵・野中香方子・福田実共訳 NHK出版

・遺伝子工学(G)、ナノテクノロジー(N)、ロボット工学(R)と人工知能(AI)の発達によって、人類の知性を超える「何か」が現れる。本書では、「シンギュラリティ」という言葉でまとめられている、人類知性の転換点が本当に来るかどうかはよくわからない。しかし、人類の知性が大幅に拡張され、新しい生き方が生まれることは確かだろう。

・本書は、原著が2005年発行、翻訳が2007年初版発行のため、書かれている技術には現在とは異なる局面に至るものもあるが、基本的な考え方は変わっていない。本書の分厚さにひるんでしまう向きには、最近出版された『シンギュラリティは近い [エッセンス版] 人類が生命を超越するとき』(NHK出版)がオススメ。

『科学は歴史をどう変えてきたか その力・証拠・情熱』 マイケル・モーズリー&ジョン・リンチ著/久芳清彦訳 東京書籍

・宇宙、物質、生命、エネルギー、人体、脳という切り口から科学と歴史の関わり合いを検証する。美しい図版や写真と豊富なエピソードで、科学の魅力を伝えている。

・教科書で有名な出版社の本だけに、なんとなく最近の高校理科の教科書っぽい構成になっているのが面白い。


読書の泉2016年07月号

『HAKUTO月面を走れ』 袴田武史著 祥伝社

・民間での月面ロボット探査競争”Google Lunar XPRIZE”の中間賞を受賞したチームを率いる著者が、宇宙開発にかける思いを綴る。

・商売になる民間主導の宇宙開発へ動き出した米国と我が国との格差を実感する。また、日本には高度な技術を持つ技術者の数は決して少ないわけではなく、複数の技術を統合して事業化できる人材が少ないというのが問題のようだ。

・アーティストもプロデューサーがいなければ活躍できない。技術の世界でも同じなのだろう。

『ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか』 ランドール・マンロー著/吉田三知世訳 早川書房

・著者のウェブサイトに寄せられた質問に、マンガと軽妙な文章で答える。副題にもある質問は「光速の90パーセントの速さで投げられた野球のボールを打とうとしたら、どんなことが起こりますか」というもの。想像するだけでとんでもないことが起こりそうだが、著者は、結構真面目に計算して、「スゴイことになる」のを定量的に説明している。

・計算結果を味のあるイラストで示すところも素敵だ。

『あの戦争はなんだったのか 大人のための歴史教科書』 保阪正康著 新潮社/新潮新書

・国力差が歴然とした大国と戦争に突入した太平洋戦争について、発端から終戦まで、数々の人間ドラマを交えながら綴ったノンフィクション。旧日本軍の組織についての解説から始まるところが興味深い。

・「あの戦争」では、戦術には長けているが、戦略的思考に基づく合理的な行動がとんでもなく苦手という、日本人の弱点が露わになった。それは今も変わらないような気がするのが、思い過ごしであってほしい。

『日本文化の歴史』 尾藤正英著 岩波書店/岩波新書

・日本の原始時代から近代まで、主に日本人の思想に関する文化の歴史をコンパクトにまとめたもの。紙幅の関係上、歴史書や宗教、思想書が中心に取り上げられ、美術や音楽、演劇などの芸術・演芸に関する話題は控えめ。農業や工業の技術については記述がなく、日本の知識層には技術は文化ではないと捉えられていたことがよくわかる。

・日本人が、仏教、儒教、洋学といった海外の思想をいかに取り入れ、固有の文化に育てたか、という視点で歴史を見直すのも面白い。

『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』 マーティン・ファクラー著 双葉社/双葉新書

・記者クラブの弊害を著者の体験をもとに論じており、報道のあり方や新聞の読み方について考えさせられる本。米国式キャリア形成と日本式のそれとの違いも興味深く読んだ。

・新聞社も一営利企業であり、新聞のページ数も限られているがゆえに、報道できる内容に偏りや制限が生じるのは自然なことだ。新聞を読む側には、そこを意識して読むしたたかさが要求される。


読書の泉2016年08月号

『神社の系譜 なぜそこにあるのか』 宮元健次著 光文社/光文社新書

・鳥居から冬至の太陽が昇る、または鳥居から夏至の太陽が沈むなど、「自然暦」の観点から、神社かその地にある意味を推理しており、ミステリーを読み解くような気分で読める。

・それにしても、日本には神社が多い。国家神道を推進していた時代につくられたものもあるのかもしれないが、同じ名前の神社が数多くあるのも面白い。

『ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か』 エリヤフ・ゴールドラット著/三本木亮訳 ダイヤモンド社

・このまま業績が回復しなかったら後3ヶ月で工場閉鎖。窮地に立たされた工場長アレックスが、恩師である物理学教授の助言をもとに、工場の仲間と努力奮闘、業績を劇的に回復させる。本書はこのような痛快ストーリーで、成年コミック誌の漫画のような爽快感があるビジネス書。

・著者は惰性に陥ってはならないと警告しているが、惰性は楽なので、つい陥りたくなる。

『数学的決断の技術』 小島寛之著 朝日新聞出版/朝日新書

・4つのタイプの意思決定方法(期待値基準、マックスミン基準、最大機会損失・最小化基準、マックスマックス基準)を具体的な事例をもとに解説した本。

・冒頭のyes-noアンケートでは、ヲヤヂは見事に「判断軸に矛盾がある」と診断されてしまった。予測不能な行動をするということだろうか。

『10年後に失敗しない未来予想図』 森永卓郎監修 神宮館

・「この1冊で人生丸わかり!」と表紙にある通り、進学、就職、退職、起業、結婚、出産、育児、離婚、定年、年金、介護、終活、最後は葬儀と、波乱万丈の人生のすべてで想定されるイベントについての基礎知識を網羅している。そんなことまで!と驚く情報が満載だ。

・未来の日本でも、本書にあるような予測可能な人生を歩む人が多数であることを切に祈願する。


読書の泉2016年09月号

『物理がわかる実例計算101選 大づかみに計算して物理現象を理解する』 クリフォード・スワルツ著/園田秀徳訳 講談社/ブルーバックス

・人間が1秒あたりに発生する熱量は何ワット?洗面台に溜めておいた水が流れ出るときの渦はコリオリ力?疑問に思ったことは、とにかく大雑把に計算してみよう。という計算好きにはたまらない課題が盛りだくさんだ。

・本書の計算結果は、あくまでも概算なので、より詳しい計算が必要な方は、大学で学びましょう。

『航空宇宙軍史・完全版 一』 谷甲州著 早川書房/ハヤカワ文庫JA

・1980年代にS-Fマガジン(第1作は「奇想天外」)、ハヤカワ文庫や単行本で発行された「航空宇宙軍史」は、刊行の順序と歴史的な年代順序が一致していなかったが、今回の完全版では、航空宇宙軍史の年代順に刊行されるようである。

・完全版の第1巻である本書には、『カリスト―開戦前夜―』『タナトス戦闘団』が収録されている。弱小な国家が戦争を開始するまでの流れが、なかなか恐ろしい。


読書の泉2016年10月号

『彷徨える艦隊11 巡航戦艦レビヤタン』 ジャック・キャンベル著/月岡小穂訳 早川書房/ハヤカワ文庫SF

・苦悩しながら、アライアンス艦隊をなんとか勝利させてきたギアリーが、今度は人工知能が制御する「黒い艦隊」と戦う。

・自分の戦術的思考を模倣する機械を相手に苦戦する描写は、物語として普遍的な構造のような気もするが、それはそれで面白い。

『サイバー戦争論』 伊東寛著 原書房

・サイバー戦争はすでに始まっている。定義がまだ明確でないだけだ。従って、法整備もされていない状態で、合法的な反撃というのが難しい状況。

・サイバー攻撃では、攻撃する側は、1箇所の脆弱性を利用すればいいのに対して、防御する側は1箇所の脆弱性を残すことも許されない。圧倒的に攻撃側が有利なサイバー戦争では、サイバー戦争に専守防衛は成立しないのか。そうは言っても、先制攻撃をすれば良いという単純な問題でもない。

・なかなか難しい時代になってきたものだ。

『エアー2.0』 榎本憲男著 小学館

・市場動向を確実に予測するシステム「エアー2.0」が開発され、極秘裏に日本政府が運用を始めた。このシステムがもたらす莫大な富の一部は、システムの開発者に流れるのだが、彼らがその富を元に始める壮大な社会実験を描く、素敵なホラ話。ヲヤヂはこういう話がとても好きである。

・現代の資本主義は「信用創造」、要するに借金をすることで未来の利益を先食いすることが根幹にある。これは、必然的に経済成長が起きないと、必ず行き詰まる仕組みになっている。本書では、借金のできない資本主義を、福島の原発周辺に設定された特別区でやってみたら、こうなったというフィクション。資本主義の行く末に疑問を感じている方はぜひ一読を。

『みんなが知らない超優良企業』 田宮寛之著 講談社/+α新書

・未来の日本の産業を支えるのは、こんな企業だ!と、BtoB企業を中心に、それらの凄さを紹介している。

・就職活動を始めるにあたって、会社四季報を読むのが面倒な人は、本書からどうぞ。本書は非上場企業も紹介されているので、その点でも参考になるかも。

『50カ国語習得法』 新名美次著 講談社/ブルーバックス

・ラトビア語、リトアニア語、ポーランド語、……タイ語、ベトナム語まで、まぁとに買うたくさんの言語の「ありがとう」や「はい」「いいえ」がパッとわかるようになっている。ついでに文字まで簡単に説明してある。

・共通の単語が多い、よく似た言語があるかと思えば、似たものがない言語があったり、実におもしろい。


読書の泉2016年11月号

『わたし、型屋の社長になります』 上野歩著 小学館/小学館文庫

・水族館とか校閲とか漫画雑誌編集者とか、仕事を頑張る若い女性が主人公の小説や漫画が注目され、テレビドラマ化も盛んだ。本書もそんな「お仕事小説」だが、舞台は製造業、しかも大量生産の要である金型をつくる会社。主人公は、うら若き女性社長である。

・とても地味な業界ではあるが、とても面白いドラマが展開する。技術開発は、挫折の連続だが、こういう小説では、努力が必ず報われるところが素敵だ。

『日本仏教史』 ひろさちや著 河出書房新書/河出ブックス

・日本の仏教が「葬式仏教」になってしまった所以を明確に説き、現状を憂う書。著者一流のわかりやすい説明で、日本の仏教の本質を一覧できる。

・日本人が「無宗教」である理由の一端が明確に論じられている。もちろん著者も自ら記すとおり、わかりやすく書くことは事実を歪めることでもあるので、もっと色々な本を読でいきたい。


読書の泉2016年12月号

『コンピュータに記憶を与えた男』 ジェーン・スマイリー著/日暮雅通訳 河出書房新社

・副題は「ジョン・アタナソフの闘争とコンピュータ開発史」で、「電子素子を使ったディジタル式計算装置」を世界で初めて作ったとされるジョン・アタナソフの計算機開発の奮闘と同時代に、計算機開発に携わった各国の技術者の話。

・前半では、戦争がいかに技術開発に影響を与えるのかを、後半では特許紛争というものが技術に与える影響を改めて考えさせられる。

『クルマの渋滞アリの行列』 西成活裕著 技術評論社

・なぜ交差点や踏切のない高速道路で交通渋滞は起こるのか。本書では、その疑問を数理モデルで説明してくれる。

・さらに、緊急時の避難経路の設計などへの渋滞学の応用など、なかなか興味深い内容だ。

『プロパガンダ戦史』 池田徳眞著 中央公論新社/中公文庫

・戦争では、敵国の戦意を消沈させるために、宣伝ビラや放送などを駆使したプロパガンダが行われてきた。本書は、そのプロパガンダの歴史を国別に分析し、著者の実体験を交えて考察している。

・戦争に限らず、他人を動かすための極意が、本書には記されているように思う。

『外来種は本当に悪者か?新しい野生 THE NEW WILD』 フレッド・ピアス著/藤井留美訳 草思社

・人間は、自分の都合で「悪者」と「味方」に区分しないと安心できない性質があるようだ。本書では、「外来種が悪い」「在来種こそ善」という固執を捨て、刻々と変わっていく生態系をありのままに考えようと提案する。「昔は良かった」と言っても、昔に戻すわけにはいかないのだから、今を精一杯生きようということかもしれない。

・「いいものもあるけど、悪いものもあるよね」という言葉を座右の銘として生きていきたい。

『放課後地球防衛軍1 なぞの転校生』 笹本祐一著 早川書房・ハヤカワ文庫JA

・地球は狙われている。既におびただしい数の地球外生命体が、超技術を駆使して地球に押し寄せてくる。一般人がそれを感じないのは、『地球防衛軍』の地道な(他人に知られないように配慮した)活躍のおかげ……こんな世界(というか宇宙)設定の、実に素敵なSFである。あさりよしとおが漫画にしたら、結構いい感じかもしれない。

・まだまだ1巻であり、今後の展開に期待大である。

『福島第一原発廃炉図鑑』 開沼博編 太田出版

・未曾有の原子力発電所の事故から5年、事実を知らないままイメージだけで福島を語るようになっていないか。日本中の人々に「福島の真実」を知ってもらいたいという思いが溢れている本。

・ヲヤヂの個人的な意見としては、技術的な議論を排除して原発の是非を論じても意味がないと思う。推進派の皆様が資金を出して、反対派の皆様が安全対策や廃炉の技術を開発するというのがよろしいと思うのだけれども。