4.clothes


24時間後の水蒸気濃度の予測。ポリエステルを内側にウールを外側にするより、ウールを内側にポリエステルを外側にした方が水蒸気濃度が低い。縦軸は水蒸気濃度、横軸は厚さ。



あまりにも日本の登山者の知識レベルが低く、このままではヒートテック等を雪山で着て凍傷になる人がでるかもしれない。最低限のサービスとして、ここに「ハイキング・ハンドブック」(新曜社、2013)から重ね着に関する重要な研究(Wu, H., & Fan, J. 2008 Study of heat and moisture transfer within multi-layer clothing assenblies consisting of different types of battings. {\it International Journal of Thermal Sciences}, 47, 641-647.)の紹介を引用しておく。

「ウーとファン(2008)は、衣服内部を35℃、湿度96%、衣服外の環境を-20℃、湿度95%と仮定して、水蒸気の拡散実験を行った。衣服は外から

1. ゴアテックス + ウール層 + ポリエステル層 + ゴアテックス

2. ゴアテックス + ポリエステル層 + ウール層 +ゴアテックス

の二種類で、ウール層とポリエステル層は1.5cmである。ウール層を内側にした方が7%ほど水蒸気の拡散量が大きく、熱損失は10%ほど小さかった。また、ウール層 + ウール層やポリエステル層 +ポリエステル層よりも拡散量は大きかった。24時間後の水蒸気濃度と厚みの関係を図に示す。


長い間、経験的にウールが良い言われていたことが、数値予測と実験で明確に証明された。この実験から分かることを箇条書きにしておこう。


  • ベースからウール + ポリエステル + ゴアテックスとすると、水蒸気の拡散が速く保温性が優れているが、ポリエステル + ウール + ゴアテックスでは、水蒸気がたまり、保温性が落ちる。

  • ウール + ポリエステル + ゴアテックスは、ウール + ウール + ゴアテックスや + ポリエステル + ポリエステル + ゴアテックスより、水蒸気の拡散が速く、保温性が優れている。


最新のポリエステル系のベース・レイヤーがどう振る舞うかは予測不明である。ベース・レイヤーをポリエステル系にした場合、インシュレーション・レイヤーはポリエステル系の方が無難である。


つまり、ファイントラックなど、有名ブランドのベースレイヤーも研究論文は見当たらない。あるのはメーカーの宣伝パンフくらいである。登山関係の文化レベルの貧困さを示していると思う。