1.definition

バックパッキングとは

バックパッキング(backpacking)という言葉は、背中(back)に荷造り(packing)するという意味である。二つの意味がある。一つは格安の外国個人旅行を指す。経費節約のため、大きなバックパックを持ち歩くからだろう。もう一つは、野宿しながら自然の中を何日も歩くことを意味する。これも食料から生活道具一式まで、すべてを持ち運ぶからである。

バックパッキングはアメリカの用語で、ニュージーランドではトランピング(tramping)、オーストラリアではブッシュ・ウォーキング(bushwalking)という。トレッキング(trekking)はアフリカ起源で、数日間の辛い徒歩旅行を意味する。すべて同じ意味である。なお、ハイキング(hiking)の意味がもっとも広く、自然の中を歩くという意味である。つまり、バックパッキングやトレッキングは、数日間のハイキングのことを指す。日本のハイキングという言葉は、日帰り限定の軽い散歩というイメージがあるが、デイ・ハイキングという言葉から由来したのだろう。

ハイキング・スタイル

ジョン・ミューア・トレイル(JMT)の長さは、公式的には三五六キロである。速い人は一〇日、普通に歩いて二〇日程度かかる。しかし、JMTはパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)の一部に過ぎない。PCTはJMTを含み、メキシコ国境からカナダ国境まで続くトレイルで、総延長は四二六〇キロもある。PCT踏破には五ヶ月程度が必要である。また、アパラチアン・トレール(AT)は、アメリカ東部のアパラチアン山脈を縦走するルートで、三五〇五キロもある。アメリカには、このように長大なハイキング・ルートがいくつも整備されている。そのため、長距離ハイキングを行う戦略がいくつか発展した。

スルー・ハイキング

最初から最後まで一気に歩く戦略である。ハイキングの気分が持続するし、達成感がある。アプローチの交通費は一度だけなので、総費用は安く仕上がる利点もある。もちろん、無補給で歩けるのは、二週間が限度なので、物資の補給は、あらかじめ郵便局や、物資を預かってくれる補給基地に送っておくか、町に下りて買い物をする必要がある。

PCTのような長大なトレイルでは、相当数の補給が必要になる。また、季節的な制約もある。春にメキシコ国境を出発し、初夏に残雪の残るJMTを踏破しないと、北のワシントン州を雪が降る前に、抜けられない。つまり、一定のスピードを保たないと、PCTのスルー・ハイキングは難しい。

日本人は、長期休暇が取りにくいので、スルー・ハイキングはやや厳しいが、JMT程度の長さであれば、荷物を軽量化して速く歩けば、三週間程度の休暇でも達成できるだろう。

セクション・ハイキング

セクション・ハイキングは、長大なトレイルの一部を歩く戦略である。PCTのように長ければ、半年近い休暇が必要であるし、疲労の蓄積も大きい。また、一気に歩き通す戦略の関係で、通過できる場所と季節が限定されてしまう。

セクション・ハイキングは、トレイルの一部を歩くだけだが、一般的には数百キロの長さがあり、一~二週間が必要である。実質的にはJMTのスルー・ハイキングとあまり違いがない。アプローチを何度も行う必要から、スルー・ハイキングよりもコストはかかるが、自分が望ましいと思う季節にハイキングできる利点がある。

スピード・ハイキング

長いトレイルを、ある一定の期限内に踏破するには、速いスピードで長時間歩く必要がある。そのために、できるだけ荷物を減らして、スピードを上げるという戦略である。より軽量で、高性能な物が開発されたこともあり、一九九〇年代以降、荷物の軽量化を進める動きが活発化した。ライアン・ジョードンの「ビョンド・バックパッキング」(一九九九年)を継起に、ウルトラライト・バックパッキングという動きが加速した。つまり、できるだけシンプルで軽い物を選ぶというアプローチである。水、食料、燃料等の、ハイキング途上で消費される物を除外したバックパックの総重量をベース・パック・ウェイト(base pack weight)と呼んでいる。そして、このベース・パック・ウェイトでバックパッキングを区分する。

スーパー・ウルトラライト・バックパッキング \ldots 二.三キロ以下。

ウルトラライト・バックパッキング\ldots 四.五キロ以下。

ライト・ウェイト・バックパッキング\ldots 九.一キロ以下。

軽量化は、スピード・ハイキングの必要条件である。軽量化すると脚を痛めにくいし、危険地帯も速く通過できる。合理的ではあるが、ライアン・ジョードン(編)の「ライトウェイト・バックパッキング・アンド・キャンピング」(二〇〇六年)を読むと、一部は行き過ぎで、先祖返り的で、不合理な点もある。