研究成果の紹介

2020~

研究紹介:2020~

Osada, K., Saito, S., Tsurumaru, H., Itahashi, S., NH3 emissions from the human body in central Tokyo decreased during the COVID-19 pandemic lockdown, Atmospheric Environment, 318, February 2024, 120244.

大気中のアンモニアは、農業、自動車排気ガス、産業活動、人体(経皮および呼吸器)など、さまざまな発生源から放出されている。都市部では自動車排気ガスの寄与が知られているが、人口密集地における人体からの排出がどれほど寄与するのか、良くわかっていない。東京は、世界で最も人口の多いメガシティのひとつである。2020年4月から5月にかけて、東京では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延を防ぐために社会経済活動が厳しく制限され、その結果、人の流れや自動車交通が大きく変化した。排出量の急激な減少は、NH3濃度への人体排出の寄与を明らかにするまたとない機会である。2018年から2021年にかけて東京都心で観測されたNH3濃度は、2020年の封鎖期間中に約20%、有意に減少した。同時期の風速や降水量に有意な差は見られなかった。この地域のNH3濃度の大気質モデルシミュレーションを行ったところ、2019年のシミュレーション結果は、観測されたNH3濃度と時間変化をよく再現していた。しかし、2020年のシミュレーション結果は過大評価であった。ロックダウン時の排出の寄与の違いを評価するために、2020年についてNH3排出強度の感度試験を行ったところ、自動車からのNH3排出量を20%、人体からのNH3排出量を80%削減したシミュレーションであれば観測結果をよく再現した。これらの結果は、東京都心部のNH3濃度に人体や自動車交通に由来するアンモニアが大きく寄与していることを示している。

Song, Q., Osada, K. (2023). Comparison of Aerosol Acidity Based on a Direct Measurement Method and a Chemical Thermodynamic Model. Aerosol Air Qual. Res. 23, 230096. https://doi.org/10.4209/aaqr.230096

エアロゾル粒子が有する水の酸性度は、エアロゾルを介した多くの化学反応に影響を与える重要なパラメータであり、E-AIM等の化学熱力学モデルを用いて推定されることが多い。一方で、エアロゾル酸性度の直接的な測定方法が限られているため、化学成分の分析結果を基にしたモデルシミュレーションの結果がどの程度正確に現実を反映しているのか、不確実な面もある。

本研究では、pH試験紙を用いて直接測定する手法(Song & Osada, AE, 2021)で相対湿度85%における粒子サンプルのpH(pHmeas)を測定し、その結果と、試料のイオン成分のデータに基づくE-AIM IVモデルで見積もった値(pHest)とを比較した。両者の関係は、pHest = 1.05pHmeas + 0.38 で近似されることを明らかにした。

VOCパッシブサンプラーのバッテリー駆動による自動切替装置の開発

長田 和雄  , 小山 慎一, 大塚 克弘, 星 純也, 橳島 智恵子

大気環境学会誌、2023 年 58 巻 3 号 p. 67-73

大気中の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds: VOCs)は、光化学反応によりオゾンやエアロゾル粒子を生成する原因物質である。近年は人為的な排出量が削減されて都市域での大気濃度は低下しつつあるが、継続的なモニタリングが必要とされている。本研究では、バッテリー駆動で自動的にパッシブサンプラー(VOC-SD)の曝露と保管が可能なオートサンプラー(VOC Passive Automatic Sampler: VPAS)を開発した。この装置は8本の吸着管を装着できるので、1試料あたり24時間の曝露で7日分のサンプルと1つのブランクを得ることができる。比較のため、キャニスターによる標準手法(24時間採取)との同時観測を1週間行い、トルエンやエチルベンゼン、キシレンについて解析した。吸着管への捕集量と、キャニスターによる大気濃度と曝露時間の積との間には非常に良い直線関係が見られた。取り込み速度は既往研究とほぼ同様の値が得られた。また、採取時間が24時間と比較的長くても、日ごとの濃度の違いが風向頻度の違いに関連付けられることがわかった。今後、種々のVOCに対する大気濃度レベルでの取り込み速度をVPAS用に整備すれば、遠隔地あるいは商用電力の利用できない場所におけるVOC濃度の経時変化や、面的な分布を把握する際に有用である。

Nojiri, R., Osada, K., Kurosaki, Y., Matsuoka a, M., Sadanaga Y., Variations in gaseous nitric acid concentrations at Tottori, Japan: Long-range transport from the Asian continent and local production, Atmospheric Environment, 274, 118988, 2022.

 アジア大陸からの長距離輸送について知るために、鳥取大学の乾燥地研究センターにてガス状硝酸(HNO3)濃度と関連物質の連続観測を2016 年 4 月から 2017 年 10 月まで実施した。国内からの影響を受けにくい海風の時間帯のデータについて整理したところ、HNO3 濃度およびHNO3/NOyは春から夏にかけて高く、秋から冬にかけて低い季節変化を示した。春夏期の海風期間中の濃度は陸風時の濃度よりも高かった。HNO3濃度およびHNO3/NOyの日内変動は類似しており、季節に関係なく日中に最大値、夜間に最小値を示した。これらの季節変動や日内変動は、NO2とOHラジカルとの反応や、硝酸アンモニウム(NH4NO3)の熱分解に起因するものと考えられる。

Osada, K., Yamato, K., Song, Q.,  Passive permeation sampling of atmospheric HNO3

Atmospheric Environment, 267, 118758, 2021

テフロン膜を通して分子拡散する硝酸ガスを、ナイロンフィルターで捕集する手法を検討した論文です。テフロン膜の厚みや孔径により抵抗がかわるので、それを捕集期間の調整に使うことを提案しています。また、研究期間中にPall社のNylasorbが入手できなくなり、代替品としてGVS社のMagnaを用いて試験を継続しました。その結果、MagnaはNylasorbとほぼ同等の硝酸吸収性を持つこともわかりました。

Q. Song, K. Osada, Direct measurement of aerosol acidity using pH testing paper and hygroscopic equilibrium under high relative humidity

Atmospheric Environment, 261, 118605, 2021.

エアロゾル粒子中の水分のpHを測定する手法についての論文です。高イオン強度でも応答の良いpH試験紙を選び、高湿度下で吸湿成長した粒子スポットの水滴に適用しました。

Hara, K., C. Nishita-Hara, K. Osada, M. Yabuki, T. Yamanouchi, Characterization of aerosol number size distributions and their effect on cloud properties at Syowa Station, Antarctica

Atmos. Chem. Phys., 21, 12155-12172, 2021.

南極・昭和基地における2004~2006年のエアロゾル粒径分布の観測結果について、新粒子生成とUVとの関係に着目してまとめたものです。

Yamagami M, Ikemori F, Nakashima H, Hisatsune K, Ueda K, Wakamatsu S, Osada K.: Trends in PM2.5 Concentration in Nagoya, Japan, from 2003 to 2018 and Impacts of PM2.5 Countermeasures.

 Atmosphere. 2021; 12(5):590

名古屋市における2003年から2018年にかけてのPM2.5成分濃度の観測結果と排出量の変化について、関係を調べたものです。

Osada, K.: Measurement report: Short-term variation of ammonia concentration in an urban area: contributions of mist evaporation and emissions from a forest canopy with bird droppings, 

Atmos. Chem. Phys., 20, 11941–11954, 2020.

名古屋大学構内で2017年11月から2019年10月にかけてガス状アンモニアと微小粒子中のアンモニウムイオン濃度を1時間毎に測定しました。霧の蒸発に伴って数時間で濃度が急増する現象の他、夏の好天時の朝に、落葉樹の葉の気孔を介したアンモニアの放出が大気濃度の急増に関与する可能性を示しました。夏はカラスの糞害により窒素過多となったため、気孔からアンモニアが放出されたと考えられます。条件によっては都市域の樹木がNH3の重要な排出源となる可能性を示しました。

Wang, Z., Uno, I., Osada, K., Itahashi, S., Yumimoto, K.,Chen, X., Yang, W., Wang, Z.: Spatio-Temporal Variations of Atmospheric NH3 over East Asia by Comparison of Chemical Transport Model Results, Satellite Retrievals and Surface Observations,

 Atmosphere 2020, 11(9), 900; doi.org/10.3390/atmos11090900, 2020.

九大・応用力学研究所のWangさん・鵜野先生らとの共同研究です。長田がRIAMで行った地上観測の結果も検証データの一つとして使用されています。

Hara, K., K. Osada, M. Yabuki, S. Matoba, M. Hirabayashi, S. Fujita, F. Nakazawa, and T. Yamanouchi,  Atmospheric sea-salt and halogen cycles in the Antarctic, Environ. Sci.: Processes & Impacts, 

DOI: 10.1039/d0em00092b, 2020.

福大の原さんがまとめた南極の海塩粒子とハロゲンサイクルに関するレビュー論文です。

Ueda, S., K.Osada, M. Yamagami, F. Ikemori, K. Hisatsune, Estimating Mass Concentration Using a Low-cost Portable Particle Counter Based on Full-year Observations: Issues to Obtain Reliable Atmospheric PM2.5 Data, 

Asian J. Atmos. Environ., 14 (2), 155-169, 2020.

粒径別個数粒径分布や質量濃度と比較することにより、簡易PM2.5簡易測定器(Dylos・DC1700)の性能評価をおこないました。

齊藤 伸治, 星 純也, 池盛 文数, 長田 和雄, PM2.5中の水溶性有機炭素濃度の測定:フィルタ分析と連続自動分析装置との比較, 

大気環境学会誌, 55 巻 3 号, 150-158, 2020 年5月.


PM2.5中の水溶性有機炭素 (WSOC) 濃度について、自動測定機(ACSA-14)による結果と日毎にサンプルを採取・解析した結果と比較する内容です。

Song, Q. & Osada, K., Seasonal variation of aerosol acidity in Nagoya, Japan and factors affecting it. 

Atmos. Environ.: X, 5, 1000622020, 2020.

名古屋大学構内で2017年~2018年にかけて測定したNH3、HNO3、粒径別粒子成分の結果と、化学熱力学モデルE-AIMに基づいて、エアロゾル粒子pHの季節変化について解析したものです。pHは夏に低くて冬に高い季節変化を示しており、季節変化に最も寄与するのは硫酸イオン濃度で、海塩粒子等が時折急増することも変化要因の一つとわかりました。

Inoue, J., Moritsugu, K., Okudaira, T., & Osada, K., Elemental compositions and sizes of carbonaceous fly ash particles from atmospheric deposition collected at Cape Hedo, Okinawa, Japan: Implications for their long-range transportation and source region variation. 

Atmospheric Pollution Research, 11(2), 393-400, 2020.

ドラエモンプロジェクトにより沖縄・辺戸岬で採取した沈着物を球状炭化粒子に着目して解析した論文です。