静止空気中における花粉粒子の終端沈降速度と物理特性

はじめに

花粉症の原因物質である花粉の飛来を予測するモデルシミュレーションには、花粉の物理特性や沈降速度のデータが必要である。沈降速度の測定例は古くからあるが、測定中の乱流の影響を評価した上での報告は少ない。そこで、まず直径と密度が既知の標準粒子についても測定し、ストークスの式で予想される沈降速度との整合性を確かめた上で、花粉の沈降速度を測定した。さらに、形状ファクターや密度のデータも別途取得し、沈降速度と合わせて報告する。


実験の概要とデータ解析

長さ1.2mのアクリルパイプを用いて、ある長さを落下する時間を計ることで沈降速度を測定した。具体的には、暗室内で下方からレーザーポインターで上方を照らし、花粉が落下してくる様子を側面からビデオカメラで録画し、一コマ(1/30秒)の画像での輝線長を10コマ分平均することで求めた。直径10、20、30ミクロンの標準粒子を用いて測定条件をチェックしたところ、10ミクロン以上の粒子であればこの方法で十分測定可能であることがわかった。各種物理パラメーターは、レーザー顕微鏡で計測した。


結果と考察

本編には沈降速度や密度の平均値を掲載しているので、数値の詳細についてはそちらを見て欲しい。杉、ヒノキ、ブタクサについては、密度を1 g/cm3と仮定しつつそれぞれの直径から計算される沈降速度と、測定した沈降速度が概ね一致した。黒松・赤松については実測値が遅い結果となり、これは松の花粉に気嚢があることで、花粉粒子の密度が低くなるためと考えられる。

図-1 花粉の沈降速度の頻度分布。a: 杉、b: ヒノキ、 c:ブタクサ、d:黒松、e:赤松