自由対流圏エアロゾル粒子の水溶性イオン濃度

エアロゾル粒子の長距離輸送や気候影響について考えるためには、自由対流圏エアロゾル粒子の粒径分布や化学成分についての知見が必要である。しかし、季節変化が議論できるような長期に渡る観測データは世界的にもごく限られている。当研究グループでは、立山(標高2450m)での粒径別エアロゾル濃度の季節変化や冬季-春季(11-4月)にかけての化学成分について報告してきたが(Kido et al., 2001; Osada et al., 2003)、5-10月の化学成分データは実測値がない。そこで、00年9-10月、01年と02年の5-10月にかけて、乗鞍岳(標高2770m)で大気エアロゾルを採取し、化学分析をおこなった。大気エアロゾルの採取にあたっては、谷風の影響を受けにくいように、また降水による局所的な影響を受けないように、好天時の夜間(00-06時)に採取した。

乗鞍岳におけるエアロゾル中水溶性イオン濃度は日々変動する。イオン濃度の低い場合(イオン総量で1µg/m3以下)には、後方流跡線が上空から下降してくる場合か、乗鞍岳への輸送途中に気塊が降水を経験している場合に対応していた。濃度の高い場合には降水の影響なく発生源(汚染地帯や火山、砂漠)地域の低高度領域から輸送されてきていた。乗鞍での5-10月の平均では、水溶性イオン成分重量の6割が非海塩硫酸、2割がアンモニウムイオンで占められていた。

立山での冬季-春季のデータと合わせて季節変化をみると、全てのイオン成分で冬季に濃度が低く、硝酸やシュウ酸、非海塩カリウムイオンは春~初夏に濃度が高かった。非海塩硫酸イオン(nssSO42-)濃度は春から秋にかけて高かった。NH4+/nssSO42-モル比は、春~初夏に高く(約2)、秋~冬に低く(冬に1)なる季節変化を示した。これは、山岳大気の主たるエアロゾル粒子の化学組成が、硫酸アンモニウムと硫酸水素アンモニウムの間で季節変化していることを示唆している。風上側の中国での発生量をみると、SO2の発生量に顕著な季節変化は見られないが、NH3発生量には明確な季節変化があるので、中部山岳地帯上空でのモル比の季節変化は、発生源での季節変化を反映したものであると考えられる。