積雪へのイオン成分沈着過程

大気からのエアロゾル粒子やガスの沈着過程は、降水との関連から湿性沈着と乾性沈着、あるいは降水に取り込まれる場所の区分として雲内除去と雲底下除去のように別けることができる。しかし、全沈着量に対するそれぞれの内訳について、観測的に研究した例は少ない。そこで、立山山域で、標高の高い室堂平とふもとの千寿ヶ原とで06年12月から07年3月までの積雪期間に、積雪や降水、粒径別エアロゾルの観測をおこない、千寿ヶ原での湿性沈着量に占める雲底下除去の割合を見積もった。

観測した冬春季には、室堂平での降水が常に雪であり、しかも気温が氷点下であるために、室堂平の積雪は冬期間の全沈着量を保持していると考えられる。千寿ヶ原で採取した日降水試料は、降水毎・日毎に採取しているので、湿性沈着による沈着量として考えることができる。千寿ヶ原での粒径別エアロゾル成分濃度と、代表径に対しての仮想的な粒径別沈着速度とから、粒子態による乾性沈着量を見積もった。同様に、近隣の八方尾根でのガス濃度と、雪面へのガス沈着速度を仮定して、ガス成分による乾性沈着量も見積もった。室堂平での全沈着量から、これらの乾性沈着量を観測期間に対して差し引くことで、室堂平での湿性沈着量を見積もることができる。

室堂平は標高が高いので、冬春季はほぼ常に雲の中に位置するのに対し、千寿ヶ原は雲の下に位置することが多い。そこで、室堂平での湿性沈着量と、千寿ヶ原での湿性沈着量とを比較することで、雲底下除去の寄与率を見積もった。その結果、粒径の大きな粒子で支配的な成分(海塩粒子(Na+)は 56%、黄砂(nssCa2+)では45%)では、小さな粒子で支配的な成分(例えばアンモニウム塩では23%)に比べて、雲底下除去の寄与率が大きいことがわかった。

従来、沈着過程の研究は個別の降水事象について観測しても、バラツキが大きくて解釈が難しい面もあった。本研究では、一冬のアーカイフとして山岳積雪を用いることで、ある程度(ひと冬)の期間にわたる平均的な沈着過程を調べることができた。