DRAEMON 09年の湿性沈着分布

日本への黄砂(ダスト粒子)の飛来は、大気を介した物質循環のみならず、気候影響や大気環境影響の観点からも重要である。しかし、大気からのダスト粒子沈着量の空間分布や沈着過程に関する知識は依然不充分なままである。ダスト粒子の沈着過程には、降水と共に沈着する湿性沈着と、降水を伴わずに乾性沈着する過程とがある。従来のダスト沈着量の観測では、両者を明確に区別しての観測がなされておらず、沈着現象の理解を妨げていた。そこで、降水の有無に応じて自動開閉する湿性・乾性沈着物採取装置を用いて、2008年秋から体系的なダスト沈着量の観測を全国6ヶ所でおこなった(DRy And wEt deposition MOnitoring Network: DRAEMON)。ここでは、2009年についての湿性沈着量の時系列変化と地理的分布について報告する。

2008年10月下旬から、札幌、富山、名古屋、鳥取、福岡、沖縄・辺戸岬の6ヶ所にて、小笠原計器のUS-330を用いたダスト沈着物の観測を開始した。

雨水は本体冷蔵庫内のボトルに保管され、乾性沈着物はデポジットゲージ内のポリ袋に採取され、1週間毎にそれぞれ交換した。雨水試料には、0.01%相当の殺菌剤(オスバン)を添加して常温保存し、ドライのサンプルと共に4週毎に名古屋に集積し、孔径1µmのヌクレポアフィルターでろ過後、残渣重量を秤量した。フィルター上の残渣には花粉や植物繊維など、鉱物質ダスト粒子以外の非水溶性粒子も含まれている。そこで、蛍光X線分析法により、フィルター上残渣のFe量からダスト量を見積もった(浦ほか, 2011、エアロゾル研究)。

複数箇所で同時に湿性沈着量が増加したイベントは、2009年に5回観測された。また、2009年の年間湿性沈着量は、札幌:4.1、富山:8.7、名古屋:2.4、鳥取:5.1、福岡:4.0、辺戸岬:1.1 g/m2yrであり、沖縄や名古屋では低く、富山と鳥取で高い数値であった。観測期間の最大値は、cのイベントに対する富山での値であった(411 mg/m2day)。人工衛星からの観測によるダスト粒子の広域分布図と、ライダー観測によるダスト濃度の鉛直分布時系列観測の結果とを用いて、このイベントの地理的分布を考察した(詳しくは本編をご覧ください)。その結果、ダスト濃度の高い地域と降水分布域とが一致した場合に、ダスト粒子の湿性沈着量が高くなることがわかった。逆に、目視で大気中に黄砂が観測されていても、降水現象とマッチしなければ大きな沈着量とならないケースもあった。このように、ダスト粒子の湿性沈着量は、降水イベントとダスト高濃度域との重ね合わせの時空間頻度に大きく左右されると考えられる。