微水滴サンプリング法による高感度アンモニア計の開発

【はじめに】大気中のアンモニア(NH3)は、エアロゾル粒子の生成に関わる働きや、硫酸など既存の酸性エアロゾルを中和する働きをもつために、大気化学の研究にとって重要な測定項目である。これまで、遠隔大気中でのNH3は、低濃度であるために、酸含浸ろ紙やデニューダーを用いて試料大気を長時間かけて濃縮・捕集したのちにアンモニウムイオンとして定量することが多かった。しかし、これらの手法では、1ヶ月にわたる連続した時別値を得るには、たいへんな労力が必要とされ、長期の連続時別観測は事実上困難であった。また、大気中のアンモニアの動態について知るためには、気温などの要因にも左右されるガス態と粒子態との分配状態を知る必要がある。そこで、ガス態と粒子態アンモニアの捕集と、アンモニア濃度の計測を自動化し、濃度の低い遠隔地でも長期連続測定が可能な装置を開発した。ここでは、国立環境研究所辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーションで実地に観測した例を交えて紹介する。

【装置概要】屋外で微水滴を用いた気液捕集することで、導入チューブ内でのアンモニアの脱着の影響を抑えた。また、ガス態のアンモニアをデニューダーにより除去するラインと、除去しないで粒子態との全量を採取するラインの2系統で連続採取し、差分を取ることでガス態・粒子態それぞれの相別アンモニア濃度を測れるようにしたのが本研究で作成した装置の特色である。溶液中のアンモニウムイオン濃度は、アンモニウムイオンとo-phthaldialdehyde、SO3-との反応によるイソインドール誘導体(1-sulfonatoisoindole)の蛍光を用いて定量した。

【遠隔地大気での観測例】アンモニア濃度が低い遠隔地大気での観測例として、沖縄・辺戸岬での観測結果を示す。途中、3/31~4/2の期間は欠測しているが、約1ヶ月にわたり連続観測ができた。粒子態濃度でみると、3/24や3/28、4/8など、大陸からの高濃度イベントが捉えられている。粒子態NH4+濃度については、フィルターパックの時系列変化と傾向も濃度の絶対値も良く一致していた。アンモニア全量(NHx)に対する粒子態の割合は、高粒子態NH4+濃度イベント時には高くなる傾向を示した。一方、現地の風向で東~南の場合(図中の下矢印)には、ガス態の比率が高い傾向を示した。これは、サトウキビへの施肥など、ローカルな土壌からのNH3揮散の影響を受けたためと考えられる。

【まとめ】本研究で作成したNH3計を用いて、辺戸岬のような遠隔地で30分毎の大気中NH3とNH4+濃度を、約1ヶ月にわたり連続測定できた。この装置であれば、ガス態と粒子態の分配比が数時間で大きく変わるような変化の激しい現象も捉えることができるので、アンモニア態窒素の大気中での挙動を知る上で有用である。