「運河」(浮標集;茨木和生選;2018年1月号~2018年12月号まで)掲載作を整理しました。
第71巻第1号(平成30年1月号)
議事録に残したき星月夜かな
師系図は子規にはじまり秋の風
西は過去東は未来鰯雲
学校の隣は神社烏瓜
父親の命日に炊くむかご飯
第71巻第2号(平成30年2月号)
どんぐりを踏まずに進むことできず
小春日の詩集にブックカバーかけ
北海道新幹線の冬景色
仏像のまとつてゐたる寒さかな
詩の行間日記の行間冬ぬくし
第71巻第3号(平成30年3月号)
古書店の多き通りの冬紅葉
大学に保育園あり冬菫
風邪引いてマイクを使ふ講義かな
手袋は失くしてしまふから嫌ひ
白息の重なり合はぬほどの距離
第71巻第4号(平成30年4月号)
提灯の灯る温泉街の冬
大峯猪大峯鹿を薬喰
山眠るダム湖を囲む山もまた
女将さん若女将さん元日の
吊橋の中ほどに立ち初景色
第71巻第5号(平成30年5月号)
春といふ文字を大きく太く書く
水温む頃に訪ねる母校かな
受験者が百五十人ゐて静か
先生と並んで歩く春日傘
退屈と言はんばかりの葱坊主
第71巻第6号(平成30年6月号)
悲しみはづかづかと来て春一番
励ましてのち励まされ木の芽和
眠るまで考へごとを月朧
捨てられぬものがたくさん梅の花
同窓会さくらの頃にしませうか
第71巻第7号(平成30年7月号)
先生はいちばん後ろ花菜道
見下ろして見上げて桜吹雪かな
花粉症二十時過ぎの病院に
囀の主を探してゐるところ
春寒の戦争といふ見出しかな
第71巻第8号(平成30年8月号)
師の言葉思ひ出すとき月涼し
面接の練習相手といふ金魚
田植唄よくよく聞けば男声も
足跡を辿りて行けば朴の花
あめんぼの数を数へる暇つぶし
第71巻第9号(平成30年9月号)
胡瓜もむラジオ番組聞きながら
捨てられぬものの一つに金魚鉢
悩んでは空を見上げて薄暑かな
幸せはやつてくるもの夏蜜柑
第71巻第10号(平成30年10月号)
遠ざかる灯台の灯と夏の星
背伸びすれば届く高さに釣忍
白が好き真つ白が好き夏の雲
鳥も人も好きなところに暮石の忌
水貝にはじまる海鮮づくしの膳
第71巻第11号(平成30年11月号)
松島の島を数へて秋うらら
俳人はすぐ立ち止まる秋の草
七つとも大好き秋の七草は
見上げてみても見下ろしてみても秋
爽やかやことごとく潮風のなか
第71巻第12号(平成30年12月号)
鵯も談笑をしてゐるのかな
ぽつかりとある虫籠の存在感
学びたきことがたくさん桐一葉
月光が病に効くといふことも
零余子飯父に供へるために炊く