第二句集『砂の輝き』以降の「運河」(浮標集;茨木和生選;2013年6月号~2013年12月号まで)掲載作を整理しました。
第66巻第6号(平成25年6月号)
雨音の違ひ愉しき春の風邪
家に籠る日と定めたる西行忌
天麩羅は母に敵はず蕗の薹
蜜蜂の眼に優しさのありにけり
人麻呂の歌留多欠けたる人麻呂忌
第66巻第7号(平成25年7月号)
桜月夜なればと恋の歌を詠む
卒業旅行に先生も誘はるる
靴下を濡らしてしまふ磯遊
帰国する頃には桜散りをらむ
桜を観ながらの会議とはをかし
第66巻第8号(平成25年8月号)
色街の樹齢百年のさくら
満開の桜の下に投函す
京都タワー展望台に春惜しむ
新緑や風がおしやべりしてゐるよ
磐座を仰ぎてゐたる涼しさよ
第66巻第9号(平成25年9月号)
君は一途蟇のやうに一途
田植唄駅のホームにゐて聴けり
浴衣着て子どもの頃の話かな
磐座の前に覚ゆる涼しさよ
第66巻第10号(平成25年10月号)
大学の多き街なり栗の花
国境はなきかと思ふ夕焼雲
からんころんと鳴る氷水が好き
放流の蛍と知りてより哀し
疲れとは思はぬ泳ぎ疲れかな
第66巻第11号(平成25年11月号)
灯台に上りて夏を惜しみけり
マイペースなるも長所か山椒魚
今日の運勢は大吉さくらんぼ
草庵の主なきまま毒茸
月涼し西行庵を訪ね来て
第66巻第12号(平成25年12月号)
屋上のプールは星空のプール
水切の名人といふ夏帽子
船酔ひを恐るるほどの土用波
門火焚く書斎の父を思ひ出し
西行の歌碑に会ひたき良夜かな