牧野英一(まきの・えいいち;1878-1970 )は刑法学者で、佐々木信綱門下の歌人として多くの作品を残しました。
いずれも非売品となっている初期の歌集『小盞集(しょうさんしゅう)』(1913年)と『あかしや』(1917年)は、それぞれ1910年から1913年にかけて、1917年の7月から9月にかけての旅を記録した作品で編まれています。
『小盞集(しょうさんしゅう)』は、神戸からの旅立ちを詠んだ<秋めくやわか乗る船の煙よりほのきり初めぬせとの夕汐>にはじまり、旅の間に建てられた家を詠んだ<新しき檜の香杉の香かをりするわか寝新室や青葉のかせや>で結ばれています。
一方の『あかしや』は、旅立ちを詠んだ<恙なかれかへりこむその秋にまでにわが萩むらよはなあかう咲け>にはじまり、帰宅して詠んだ<秋なれやわが草庭の夜しめりにうらみがましくこほろぎの鳴く>で結ばれています。
昭和33年の歌会始(この年のお題は、雲)では召人として招かれ、次の作を献上しています。
多いなりや丹雲のなびき海ばらはしほぢゆたかに夜明けむとして